糸井重里、サンパチマイクを買う。

糸井重里、サンパチマイクを買う。

あこがれの漫才マイク「C-38B」を、自腹で。

糸井重里は、むかしから、
急におかしなものを買う人である。
驚くようなもの、呆れるようなもの、
「これは‥‥なに?」という不思議なものまで、
じつにさまざまなものを自腹で買っている。

そんな個人的な買いものリストに、
このたび「サンパチマイク」が加わろうとしていた。
漫才に欠かせない、あのセンターマイクである。
これにはお笑い好きの乗組員も興味津々。
「なんで糸井さんが、サンパチを‥‥」
その気になる買いものの行方を、
ちょっと前のめりに追いかけてみました!
#06 漫才だけじゃないマイク。
乗組員A
やっぱり個人的には、
高砂のスタンドがいいなって思いました。
糸 井
台座に付いている品番プレートとか、
こういうのがいいよね。
写真
乗組員A
そうなんです(笑)。
オリジナルの証って感じがします。
糸 井
それはエレキギターも同じなんです。
新しいほうがよくなってるというけど、
ほんとうはそんなこともない。
いろいろ探しているうちに
オーセンティックなものがほしくなるのは、
よくあることなんだと思います。
乗組員D
由来を知っちゃうと、
ますますほしくなりますよね。
糸 井
でも、昔からあるものだし、
どこかに余っていたりしないのかな。
乗組員F
公民館の倉庫とかにありそうですよね。
糸 井
そういえば、
毎年「ほぼ日曜日」でやってる
「ほぼ演芸場」はどうしているんだろう? 
乗組員F
去年は床置きマイクを使っていたはずです。
乗組員A
でも、サンパチもありましたよね?
乗組員F
センターマイクとして置いていましたけど、
音はひろっていなかったはずです。
糸 井
それもおもしろいね。
マイクとして使ってないのに、
真ん中には置いてあるってことだよね。
写真
乗組員F
そういう使い方でしたね。
スタンドはなにを使っていたんだろう。
糸 井
真ん中にサンパチがないと、
漫才はやっぱりやりづらいんだろうね。
出てくるときも離れるときも、
起点がないわけだから。
コンパスの軸みたいなもので。
乗組員A
立つ場所の目印にもなりますよね。
糸 井
昔のNHKの『のど自慢』も、
もしかしたらサンパチだったんじゃないかな。
乗組員A
あー、漫才だけじゃなく。
糸 井
舞台にマイク1本だけあるっていうのは、
きっといろんな企画であったはずなんです。
『のど自慢』であろうが、トーク番組であろうが。
乗組員F
そういえば、知り合いのエンジニアの人に、
サンパチの特性について訊いてみたんです。
「あれってどんなマイクなんですか」って。
その人いわく「三味線やお経に合う」と。
音の立ち上がりが、
ちょっとつぶれるみたいです。
糸 井
まさしくNHKだね。
だって『のど自慢』もそうだよ。
立ち上がりがつぶれるというのは、
「音がやらかくなる」ってことですから。
声にエッジが立ってたら、ちょっと嫌だもんね。
乗組員A
なるほど、音がやわらなくなるんだ。
乗組員F
ウィキペディアの情報ですけど、
大瀧詠一さんの『A LONG VACATION』は、
サンパチマイクで歌声を録ったそうです。
写真
一同
えっ!
乗組員D
えっ、それすごくないですか?
糸 井
くちびるつんと尖らせて~♪
乗組員A
あの名盤がサンパチから!
糸 井
大瀧さんの近くにいた方なら、
もしかしてサンパチのことも知ってるかもね。
乗組員A
ぜんぜん漫才だけじゃないですね。
糸 井
そういえば、サンパチっていつからあるんだろう。
乗組員D
(ウィキペディアを見ながら)
‥‥ええと、1970年のようです。
「サンパチの原型になったモデルが
『NHK紅白歌合戦』ではじめて使われた」と。
一同
へぇーーっ。
糸 井
ということは、
高橋圭三さんも使ってたかもしれないね。
「どうもどうも、
高橋圭三(たかはしけいぞう)でございます」
‥‥って、いまの人は知らないか。
乗組員D
NHKのアナウンサーの方ですよね?
糸 井
そうそう。
「圭三プロダクション」というのがあって、
そこでアナウンサーを育成していたんです。
「どうも、どうも、どうも。
高橋圭三でございます。
事実は小説より奇なりと申しまして」
乗組員A
聞いたことあるような(笑)。
写真
糸 井
高橋圭三さんは『私の秘密』という
番組もやっていたんですけど、
あれはサンパチよりもっと前ってことか。
乗組員A
サンパチの前の機種ってことはありえますね。
糸 井
漫画の話をするときに、
Gペンとかカブラペンとか、
道具の話ってみんなが盛り上がるんですよ。
そういうものと似てますよね。
表現が「線」じゃなくて、
「話(わ)」というちがいなだけで。
乗組員A
「話芸」の道具。
糸 井
そもそも「サンパチ」という専門用語を、
ぼくらが知っているのがおかしいよね。
みんなは、なんで知っているんだろう?
乗組員A
ぼくは芸人さんのラジオですね。
ダウンタウンが
31年ぶりに漫才をして話題になったとき、
他の芸人さんたちが
「サンパチマイクが出てきて興奮した」
って話をしていたんです。
そのときに
「あのマイクってそんなに象徴的なものなんだ」
って思った覚えがあります。
糸 井
フリートークじゃなくて、
漫才をやるんだっていうね。
「ガキの使い」のときは、
サンパチは置いてなかったですもんね。
乗組員A
なかったです。
糸 井
センターマイクを置いた途端に、
芸人さんたちの意識は変わるんだろうね。
逆に「M-1」は絶対マイクが要るわけで、
そのへんの話にも興味があるなぁ。
写真
(つづきます)
2026-03-07-SAT