ほぼ日刊イトイ新聞 ダイヤローグシリーズ 1 株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
建物や家具になるために 息づきながら待っている 石や木との対話


第6回 人がつくった石。


ほぼ日 三角屋さんのほかのスタッフの方に
以前うかがったことがあるんですが、
午前中などは特に、片づけや掃除が
朝比奈さんの主な仕事なのかもしれない、
そういう感じで動いている、というふうに
うかがったことがあるんです。
朝比奈 しゃあないやん。
製材してきた木は、立てやんとしゃあない。
桟入れとかんと、
木同士をくっつけといたら腐ってきよるしね。
ほぼ日 桟というのは
隙間をあけるような楔ですね。
朝比奈 うん。隙間をあけて乾かさないかん。





ほぼ日 ほとんどそういう作業に
時間が取られる感じですか。
朝比奈 そうせんと、どうしようもないやんか。
いざ使おうとするとき、使えへん。
特にここは、日本海側で
湿気の多いとこなんや。
ほぼ日 素材と会話するうえで、
大事なことはなんでしょうか。
朝比奈 ない。
ほぼ日 ない。



朝比奈 そのときに思いついたことをやるだけ。
まぁ、木に関していえば、時期もあるねん。
春から梅雨の時期いうのは、
生えてるときはなんぼええ木でも、
切ったら腐ってきよる。
水を吸いあげとるからね。
日本での話やで?

そやから、木は9月以降、
寒い時期に切らんとあかん。
竹でもなんでもそや。

注文受けて「いま欲しいから」言われて、
夏の木を切って使うとする。
そんな木を使われた家は、泣いとるわ。
虫は入るわ、腐りは早いわ、
泣いとるわ、そんなもん。
そやけど、しゃあないやろ。
設計でそういう木がいると言われて、
「はい、いついつまでに建築してくれ」
そういう注文しか、いまはない。
「言うてすぐ」ばっかりやもんな。
契約したら、すぐやんか。

そうやって、水を吸った木を
切らなしゃあないんやったらやね、
木を強制乾燥すりゃいい。
そういう木は、バシバシに割れて‥‥はあ、
そんな建築、ただの建築みたいな家、
ぼくはええわ、
そんなもん。
お金出しても要らんわ。
のちのち手間かかってしゃあない。
そやから、ぼくはこうやって材料買うて、
持っとかんと、対応できへん。



ほぼ日 やっぱり、これだけの木があるから
できるんですね。
朝比奈 そうや。あるからできるのであって、
いますぐつくってくれと言われても、まあ、
できるけどもやね。
よそは違うやん。
ほぼ日 例えば施主の方が、
こういう庭にしたいとおっしゃっていても、
朝比奈さんが「あの木が使える」と思いつけば
逆に提案されることもあるんでしょうか。
朝比奈 する。
そやから、うちは設計屋つかへん。
設計のとおりにやって
矛盾した建物になるの、いややからね。



ほぼ日 これから家を建てようとする人に、
いちばん大事なことを告げるとしたら、
なんでしょう。
朝比奈 ぼくらもそうやけど、やっぱり両方とも
勉強せなあかん。
任せきりはあかん。
ほぼ日 家を建てようと思ったら、
知ろうとすることが重要。
朝比奈 施主も勉強してもらわなあかんし、
こっちもちゃんと説明せな。
ほぼ日 怖がらないで、
コミュニケーションをはかればいいんですね。



朝比奈 うん。それがいちばんやと思う。
できあがってから
「こんなん違いまっせ」と言われること
結構あるもん。
ほぼ日 「思ってたのと違います」
朝比奈 ぼくらは「図面でそういうことになってます」
と言えるけどやね、
結局、できあがったものに対しての評価やから、
そら難儀やで。
ぼくらの仕事はね、
結果オーライの世界や
と思うねん。
ほぼ日 なるほど。
朝比奈 結果オーライで、はじめてお金もらえるんや。
なんぼ途中経過、なかようやっててもやね、
できあがったものに対しての評価やから。
「そんなんで金出さへん」言われたらやね、
なんぼ契約でも気まずいやん。
お金もらうの、気まずい。
向こうも
「なんで出さんならんねん、こんなもん。
 わしの思い通りになってないのに」
って、なってくるやんか。
やっぱりコミュニケーションが大事や。



ほぼ日 「結果オーライ」で勝負していくのって、
難しいというか、大変ですよね。
朝比奈 ああ、大変。
施主がどんな顔してたか、
喜んでたか、やっぱりそれやねん。
それしかないねん。
それでお金請求させてもらえるんかな、と、
ぼくは思うわ。
ぜんぶできあがってからや。
そやから、
それまで怖いわ。

むちゃむちゃ怖い。そら難しいわ。
公共の建物とかねぇ、いろいろあるけど、
難しいのは住宅やで。
美術館とか博物館とか、人が住まへんやろ?



ほぼ日 うん、そういうことですね。
朝比奈 そやろ?
公共の建物に誰が金出すかいうたら、
国や市が税金で出しよる。
そこを使う人が少々不便と思ってても、
関係あらへんやん。誰も評価せん。
うちの場合は、そこで住んで生活する、
そこで商売する。
ほぼ日 毎日毎日、個人が使う。
「よそごと」ではすまされない、
住居や店を建てるわけですから。
わたしたちの会社、東京糸井重里事務所は
三角屋さんに内装をつくっていただいたんですが、
出社して、なんだか仕事をするのが
毎日うれしいんですよ。
朝比奈 やっぱりそういう環境は、
ええんちゃうかな。
特にね、糸井さんとこは、そうやと思うわ。
ほぼ日 来客も、みなさん、見てまわってくださって。



朝比奈 毎日使ったり、仕事したり
生活する場所をつくるのは、そら難しい。
そやけど、うちとしたら
使ってくれるほうがうれしい。
なんかしらんけど、ええわ。

会社に来て、うれしい言われて、
毎日使われるほうが、ええわ。
それのほうがつくり甲斐があるわ。

苦労したら、
苦労した分だけ、
喜びも倍やわ。

簡単につくったやつは、喜びは倍にならへん。
そらそやと思うわ。
ものづくりって、そやろ?
こういう取材でも、そやろ?
苦労して苦労して取材して、
考えて考えてできあがったものに対して、
すごいがんばった、評価された、
そしたらやっぱりうれしいやろ?

苦労した分だけ、報われるとぼくは思う。
なんでもそや。
簡単にお金儲けはできへん。一緒や。

ものづくりは、そのために
やるんちがうかなと、ぼくは思う。
そやなかったら、やってる意味ないやんか。
ほぼ日 ほんとうに、そうですね。
朝比奈 そうやろ?



ほぼ日 あ‥‥朝比奈さん。
工房に、つばめの巣があります。





朝比奈 そやねん。もう今年は来えへんのかなと思ってた。
蛇が狙いよるからやね、囲ってやったんや。
ほぼ日 ほんとだ、囲いがある。



朝比奈 あのあたりから蛇がつたって
つばめを襲う。
ほぼ日 だけど、囲いの中には
巣はありませんね。
朝比奈 去年はあそこにつくっとったのに、
囲いしたら(笑)、つくりよらへん。
わざわざ違うとこにつくる。
あそこやったら蛇が来てしまうんやけどなあ。



ほぼ日 せっかくつくったのに。
朝比奈 また囲てやらなあかんなあ。



ほぼ日 (‥‥やさしい)
たくさんのお話を、
どうもありがとうございました。
朝比奈 あんまりタメにはならん。
ほぼ日 いえいえいえ、とんでもない。
おもしろかったです。
朝比奈 そやけど、地道やで。
積み重ねや。な?
ほぼ日 はい。がんばります。

朝比奈さん、ほんとうに、
ありがとうございました。



(おしまい)


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2012-09-28-FRI


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