かつて、光を守る人がいた。 かつて、光を守る人がいた。
私、ほぼ日の松本には
「灯台守」という職業への憧れがありました
こんなコラムを書いたくらいです)。
でも、具体的にはどんなお仕事だったのか、
そういえば詳しく知りませんでした。

どんなことを考え、
どうやって灯台の光を守ってきたのだろう。
日本最後の有人灯台「女島灯台」で、
灯台守の歴史を見届けた前畑正信さんに、
うかがってきました。
灯台守は、やっぱりかっこよく、
想像以上におもしろかったです。
第6回 光は消さない
写真
──
なんとなくですけど、灯台守って
「ロマンがある職業だな」と感じている人も
けっこういると思います。
でも、実際は大変そうですし、
ロマンとかは、そんなに感じなかったですか。
前畑
いやぁ、ありましたよ。
──
ありましたか。
前畑
毎日違う日の出や夕日を眺められるっちゅうのはね、
よかったですよ。
それから、いちばんのやりがいっちゅうのは、
やっぱり「事故を防いでいる」ということでした。
ニュースで話題になるのは
「遭難した人を救助した話」ですけど、
私らの仕事は、そもそも「事故を起こさせない」
ということだったんです。
だから、灯台の光は消さない。命がけでね。



さっきも言ったけど、
消えたらものすごいクレームがきますからね(笑)。
──
当たり前に「いつもついてる」というのが、
すごいことなんですよね。
前畑
だからね、いつも言いよったんですよ。
1隻何十億から何百億もする船をたくさん、
安全に通してあげてるのに、
私らの年俸はなんぼですかって(笑)。
もうちょい給料上げてくれんですかって、冗談でね。
でも結局は、もうそれが生きがいなわけですよ。
給料は高くなくてもね、縁の下で、
人助けしてるんかなっちゅうのがね。
写真
──
有人の灯台がなくなってからも、
灯台には関わっていきたいという気持ちですか。
前畑
関わってるというほどじゃないですけど、
海で育って海の仕事をずっとしているから、
やっぱり海の近くに住みたいなと思って
ここに住んでいます。
ここなら毎日、灯台の光も見えるんです。
ホッとしますよ。



それからね、船の模型もいまだに
つくり続けてるんです。
この関門海峡を通る船をね。
客船やフェリーはいろんな人が利用するけど、
原料を輸入したり輸出したりする船っていうのは、
なかなか海の仕事以外では目の当たりにしないと
思うんですよ。
だけれども、それらの船が相当、
経済の役に立ってるわけです。
だからね、人目に触れることなく使われて
壊されていく船は、
模型にして残したいと思っているんです。
──
あぁ、いいですね。
前畑
自分でも思うんですよ、優しいなって(笑)。



いまは海上保安庁のマイスターとして、
観光のお客さんから、海上保安庁や
関門海峡についての質問を受け付けてもいます。
元気なうちはね、役に立とうかなと。
──
マイスターというのは、どんな役割なんですか。
前畑
私のほかに、この地区にはあと3人います。
このあたりで長いこと勤務した人が、
質問に答えられるから頼まれてるわけです。
たとえばどんな質問に答えるかというと、
「目の前を通った船がどこ行きか」とか。
──
えっ、それって、わかるものなんですか。
前畑
船が上げてる旗を見たらわかるんです。
‥‥ほら、あそこを走ってる船、東行きですよ。
赤と青の旗が上がってると思うんだけど、
見えますか。
写真
──
‥‥見えないです。
(撮影している田口に)見えますか? 
田口
‥‥見えないです。
前畑
船の旗が間違っていたら事故のもとなので、
「間違ってるよ」と教えるのも
航路管制の仕事でした。
私は目はそんなによくないんですけどね、
たぶん、旗に慣れてるから、見えるんです。
セメントタンカーですね、あれは。
──
ここまで言っていただいたのに、すみません。
ぜんぜんわからないです。
前畑
そうだ、さっきあげたハガキに、
国際信号旗の説明が載っていたでしょう。
──
いただいた、これですね。
写真
前畑
これと照らし合わせると、
どの船がどんな船で、どこに行くのかわかるんです。
さっきの「東行き」の船には、
「第一代表旗」と「E」の旗が上がっていました。
だから、関門海峡を右(東向き)に
曲がることがわかります。
──
へえー、なるほど。
前畑
「U」「W」の旗の組み合わせは
「行ってらっしゃい」という意味です。
「U」「W」「1」にすると、
「ありがとう、行ってきます」と、
返事になるんですよ。
この信号は、ジブリの『コクリコ坂から』にも
出てきています。
──
わあ、そうだったんですね。
覚えたい‥‥! 
写真
前畑
話し忘れてること、なかったかな。
‥‥そうだ、灯台の思い出といえば、
ある島では、灯台が山の頂上にあったから、
島民のみなさんが、
荷物を運ぶのを手伝ってくれたんです。
──
へえ、はい。
前畑
その代わり、灯台職員の私たちは、
本土で島民の買いものをして持って行ってあげる
約束でした。
それはいいんだけど、本土の職員に
「これを買ってきて」というのを、
無線を使って、モールス信号で
伝えなきゃいけなかったんですよ。
「地下足袋12枚」とか
「誰々さんの赤パンツを1枚、Mサイズ」とか。
モールスでだよ。
──
あはははは。
前畑
無線だから、ほかの事務所にも筒抜けなんですよ。
モールスがわかる人は「あの誰々さんのパンツか」
とか言って、もう大笑いしてるわけ。
こういうことを思い出すと、
当時、灯台って役に立ってたんだなと思いますね。
写真
(終わります。
お読みいただき、ありがとうございました。)
2026-04-18-SAT