──NHKの方にうかがいました #8 地震の発生をイメージしながら、その話し合いをしておこう
山下さん 最後にひとつ、
よろしいでしょうか。
糸井 もちろんです。
山下さん 最近すこし指摘されていることなんですが、
人間の心理として、
大災害や緊急事態が起きると、
「自分は大丈夫だろう」
「私は助かる」
「そんなにたいしたことない」
と思いたがる傾向があるそうなんです。
糸井 ほぉ、そうなんですか。
山下さん 『正常化の偏見』といって、
「きっと自分は大丈夫」と、
正常なほうに考えを寄せてしまう。
東日本大震災でも、
津波警報が出ているときに
「きっと大丈夫でしょう」と、
海に近づいてしまう人がいたそうです。
糸井 ああ‥‥。
山下さん 「大丈夫であってほしい」
という願望を込めているうちに、
「大丈夫」を事実として思い込んでしまう。
糸井 そういう習性が人間にはあるんですね。
山下さん そのようです。
ですからいざというとき、
客観的で正しい見極めができるように、
普段から複数で話し合って
「このレベルの災害では、ここまでやろう」
と決めておいたほうがいいと思います。
糸井 それはもう、
まったくその通りですね。
山下さん 話し合って、
それぞれが頭で想定しておくだけでも
だいぶ違うので。
糸井 うん。
PRさん 書いておくと、もっといいですよね。
山下さん そう、手帳にメモしたりね。
糸井 なるほど。
話し合っておく、
言葉に出しておく、
書きとめておく。
これ、そんなに手間じゃないですよ。
PRさん ええ、たぶん誰でもできることです。
山下さん たとえば自分が海に近い家に住んでいたら、
10メートルクラスの波がきたとき
どうしたらいいだろう?
ということを話しておくだけで、ちがいます。
「ダッシュであそこの丘まで逃げよう」とか。
糸井 逃げる方法についての相談は、
とくにしておいたほうがいいですね。
「すこしでも高いところへ走ろう」
PRさん 今回、津波で被災したある地域に、
「人のことをかまわず全力疾走で逃げる」
という防災訓練をしていた学校があったんです。
それで、あの震災の日‥‥
全力疾走で逃げる子どもを見て、
大人たちもよくわからないまま
一緒に走って逃げだしたんだそうです。
糸井 ああー、なるほど。
PRさん 危機的な状況では、
率先して自分の命だけを守る行動に出るのが
いちばんいいらしいです。
糸井 「なりふりかまわず逃げよう」と
子どもたちが決めていたおかげで、
周囲の大人も助かったとも言えますよね。
PRさん そうですね、言えると思います。
糸井 「こういうとき俺は逃げるぞ、
 だからお前もちゃんと逃げろ」
その話をしておく必要がある。
山下さん はい。
糸井 なるほど‥‥。

安否確認についてもそうでしたけど、
きょうは何度となく
「ちゃんとしゃべっておきましょう」
という話になりました。
山下さん そうですね、
いざというときのことをイメージして、
話し合いをしておく。
糸井 震災が起きたらどうするか、
その話し合いをしておこう。
これが、
きょういちばん重要な部分のようですね。
山下さん 話し合いをしておく。
PRさん 結局、震災への備えっていうのは、
そういうことですよね。
糸井 そうですね、
そういうことです。
しゃべって、知ることが、
そのまま災害対策になっていきます。
山下さん そして、
ほんとうにいざとなったら、
事前に話し合っていたことに縛られず、
柔軟に行動していくゆとりも大事ですよね。
糸井 もちろん大事です。
ですから、
「柔軟性も重要だよ」ということも
やっぱり同じように話し合っておきましょう、
ということですよね。
山下さん はい。
糸井 ええと‥‥
そんなところでしょうか。
山下さん そのようですね。
糸井 うん、
すごくよかったと思います、
このやわらかさで伝えられたら。
山下さん お役に立てたのかどうか。
糸井 もちろんです。
ぼくはもう、最近ますます
NHKさんが好きになりました。
山下さん ありがとうございます(笑)。
糸井 もともと好きじゃないですか。
そこにきて最近の落ち着いた報道があって、
ツイッターでは独自の判断で情報を流して。
最初にも言いましたけど‥‥
いや、いいですよねぇ。
PRさん ありがとうございます。
糸井 すてきなPRさんは、どうですか?
なにか最後に。
PRさん はい‥‥。
とにかく時間がかかるので、
ハイテンションだと続かないです、
ということは申し上げておきたいです。
糸井 そうか、
神戸の経験があるとなおさらですね。
PRさん 神戸の長田区という、
いちばん被害の大きかった場所が
行政による区画整理をずっとやってきて、
それが終了したのがことしの3月です。
糸井 そうなんですよねぇ。
PRさん 3月に、やっと行政が終わったんです。
普通の会社のほうは
まだ終わってないところがいっぱいあります。
糸井 ものすごいですね。
PRさん 16年経ってその段階です。
今回の東日本大震災は、もっとでしょうから。
糸井 もっとですよ。
‥‥そう、長期になります。
気持ちを張りつめすぎると、
そのことでまいってしまいますね。
PRさん はい。
糸井 ‥‥うん。

いや、きょうはありがとうございました。
山下さん こちらこそ、ありがとうございました。
PRさん ありがとうございました。
糸井 きょうのNHKさんとのお話を受けて、
うちの会社は災害対策をどうするのか、
その話し合いを、みんなでしてみます。

(株)東京糸井重里事務所の災害対策【ポイント8】

□人間は「自分は大丈夫」と思い込む
 心理的な傾向があるので、
 普段から複数で話し合い
 「このレベルの災害では、ここまでやろう」
 ということを決めておくべき。

□震災が起きたらどうするか、
 その話し合いをしておくことが最も大事。

(NHKの方とのお話はここまで。
 株式会社糸井重里事務所での、
 実戦編へ、つづきます)

2011-06-21-TUE