第7回 食欲旺盛だね。第7回 食欲旺盛だね。

糸井
りえちゃんとこの子は、
お母さんのお仕事を、もう見ているの?
宮沢
ええ、見てますよ。
うちの娘、土日に稽古場へくるんです。
なんだか興味あるみたいで。
糸井
ああ、いいね。
宮沢
わたしがなぜ家を留守にするのか、
その理由を知っておいたほうが、
わたしがどこで何をやっているのかわからないまま
待っているよりはいいと思って。
「きのうのあの場所で、
きょうも蜷川さんに怒られているのかな」
って、わかっておいてもらえる。
糸井
ほんとに怒られるんだ(笑)。
宮沢
怒られますよー。
今回の芝居はとくに。
もう、千本ノックを受けました。
糸井
へえー。
宮沢
娘はその姿を見ています。
でも、カーテンコールでわたしが
たくさんの人に拍手をされてるのも見ている。
彼女がどこまで理解してるかはわからないけれど、
この両方を見せておくことが大事だと思って。
糸井
うん。そうだね。
宮沢
つらい時間を乗り越えて、
みんながよろこんでくれる場所に立っている。
それを見せるという、教育。
私なりの、私ができる教育です。
糸井
どんなふうに育ってほしい?
宮沢
うーーん‥‥
頭よくなれとか、お勉強とか、
そういうことは、そんなに。
糸井
わからないよね、そのときが来ないと。
宮沢
そうですね‥‥
うん。やっぱり本人に任せます。
糸井
お母さんの影響を受けそうだなぁ。
宮沢
んー、どうなんでしょうねぇ?
糸井
ひとりで考える時間を
ちゃんと持つ人になると思うよ。
宮沢
ああ。
糸井
教科書を渡されないで勉強してきた、
このお母さんを見ているわけだから。
宮沢
そうですね(笑)。
糸井
まじめな女の子ってわりと、
何かが自分に足りないと思うと
すぐ英会話教室に行っちゃったりするんです。
宮沢
そうなんですか。
糸井
カルチャーセンター的なところで
資格をとろうとしたり。
それ自体はもちろんいいことなんだけど、
「教えてくれる場所」へすぐに行っちゃうと、
さっき話した
ひとりで考える時間に触れないまんまに
なっちゃうじゃないですか。
宮沢
なるほど。
糸井
教えてもらいすぎると
自分のことにならないんですよ。
芯ができない。
その、お芝居の稽古場でね、
りえちゃんが千本ノック受けてるときって、
誰も教えてはくれないですよね? きっと。
宮沢
教えてくれませんよ。
「ぜんぜんわかんないです! 
でも、もう一回やります!」って(笑)。
糸井
いいなぁ(笑)。
宮沢
それを何度も何度も繰り返して、
ふと気づくのは、自分でしかないわけです。
糸井
そうなんだよね。
すごいことです、ほんとうに‥‥。

お休みは? ちゃんととってるの?
宮沢
休んでます。
作品と作品の間に10日休んでいれば十分。
糸井
10日かぁ‥‥。
休むよりも、どんどんやりたいんだ。
宮沢
そうですね、いまは。
知れることのよろこびのほうが魅力だから。
糸井
なんかさ、おなかすいた人が
ごはん食べてるみたいな話だね。
「え? もうおなか減ったの? 
さっき食べたばっかりなのに?」みたいな(笑)。
宮沢
そうですね(笑)。
たくさん食べるから疲れないのかも。
糸井
生きる能力を増やしてる感じがしますよ。
興味が尽きないんでしょう、きっと。
宮沢
興味は‥‥
興味だけは失いたくないです、わたし。
糸井
悩んだり、劣等感があったり、
プレッシャーにつぶされそうになったりしてるけど、
やっぱりこの仕事が好きなんだね。
宮沢
はい。好きだということを
はっきりと自覚するようになりました。
20代のお仕事もたのしかったけど、
あのころは
「一生続けるかどうかわからない」
という気持ちもあったから、
たのしさがすごく低いところにあったんです。
糸井
褒めると、また疑われちゃうんだけどさ(笑)、
すばらしい育ち方をしたよね。
宮沢
‥‥ありがとうございます。
糸井
若いときのりえちゃんと
いまのりえちゃんが目の前にいるとします。
で、たとえば無人島に
どっちかのりえちゃんとしか
いっしょにいけないとしたら、
ぼくはぜったいに現在のりえちゃんを選ぶ。
それはもう、はっきりとそうですね。
宮沢
わぁーー(笑)。
よかった。それ。
糸井
無人島で、しゃべることもなくなってさ、
「もうネタもないわね」
とかいいながらあくびをしても、
そのあくびがおもしろいんだ。きっと。
一同
(笑)
宮沢
おもしろさをもっと蓄えていくために、
10年、20年と、がんばります。
糸井
いやぁ、ガツガツしているわけじゃないんだけど、
食欲旺盛だねー。
きょうはありがとうございました。
宮沢
ありがとうございました!

(宮沢りえさんと糸井重里の対談を終わります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ご感想のメールなどをいただけると、とてもうれしいです。
この対談は、
AERA × ほぼ日刊イトイ新聞
いっしょにやってみよう企画
『40歳は、惑う。』のオープンを記念して
行われた特別企画です。
『40歳は、惑う。』のサイトへ、ぜひご参加ください!)

2014-11-12-WED

©2014「紙の月」製作委員会

宮沢りえさん主演映画のおしらせ「紙の月」

直木賞作家・角田光代さんのベストセラー小説、
『紙の月』を宮沢りえさん主演で映画化。
11月15日(土)より全国ロードショーされます。