第6回 たのしいですもん、生きていて。第6回 たのしいですもん、生きていて。

糸井
ずーっと、オーディションで。
そうかぁ、
そうやって、やってきたんだねぇ。
宮沢
11歳のときに、この「見られる」という世界に入って
30年たっているわけじゃないですか。
糸井
おお、30周年記念!
宮沢
そーなんですよー(笑)。
糸井
「宮沢りえ30周年」、やりますか。
宮沢
やらないですけど(笑)、恥ずかしいから。
糸井
でも30周年ってすごいよ。
まだ、こんなに若いのに。
それは子どものころからやってた人ならではだよね。
宮沢
ええ。それは財産だと。
いまから新しいことをやったとしても、
かないっこないですし。
糸井
何か新しいことやりたいの?
宮沢
最近すごく、ミュージシャンにあこがれてるんです。
ミュージシャンと演劇の人で明らかにちがうのは、
つくる作業がひとりじゃないですか。
もちろんバンドではみんなといっしょですけど。
言葉をつむぎだすとか、
曲を作るのって、
ものすごい孤独だとは思うんです。
その孤独な人たちが集まって、
「じゃやろっか」
とやり始めたときの、
あの、なんかもう大人っぽい感じ?
糸井
わかっている人同士のね。
宮沢
そーうなんですよ。
あれはうらやましいなぁって。
糸井
ぼくらの世代はビートルズなんです。
ビートルズがひとつのマイクに顔が寄ってきて、
ハモるときに目が合って笑うじゃないですか。
あの感じ。
ジャズの人たちなんかだと、
ちょっと目配せで合図をしたり。
あれは、たまんないよねー。
宮沢
たまんない! あれやりたいんですよ。
でもそれは、来世にします(笑)。
やっぱり今からはできない。
ああいう孤独なものづくりたちが集まって、
ふあっと始めたときの、
あの息、鳥肌たつような感じは、
来世でやりたいなって。
糸井
集まって、ふあっと始める。
宮沢
うん。
糸井
ぼくはいま、
会社という人が集まって仕事するところで
はたらいているんです。
りえちゃんに会ってたころ、
ぼくはひとりだったけど、
いまは大勢でチームをつくってる。
宮沢
はい。
糸井
そうするとね、
「大勢でいるときって
 何を大切にするべきなんだろう?」
というのを常に考えなきゃいけなくなるんです。
で、結局、
答えはふたつの言葉になっちゃう。
ひとつは「信頼」なの。
もうひとつは「貢献」。
信頼というのは、
「とにかくあいつに任せよう。あいつを呼ぼう」
貢献というのは、
「あいつのおかげで助かってる。稼いでくれてる」
で、どっちが大事かっていうと、
「信頼」のほうが大事なんだな。
宮沢
信頼。
糸井
ミュージシャンなんかのケースだと、
「いい技術で弾く」っていうのは、貢献だよね。
でもそれ以前に、
ダラダラやってても音楽になってるような、
あの、お互いを信じてる感じ?
あれがバンドの魅力になりますよね。
宮沢
なるほど‥‥。
信頼って、恐いです。
なぜならそれを裏切りたくないから。
ああ‥‥
ここで、最初にお話したことに戻りますね。
40歳くらいになって信頼みたいなものがついてくると
「りえちゃんだったら」と思われます。
その周囲からの期待と、
いまの自分とのギャップに苦しむときがある。
糸井
プレッシャーが。
宮沢
プレッシャーが。
糸井
でもそのプレッシャーは、
ネガティブにとらえているばかりじゃないでしょ?
宮沢
うーーん‥‥
やっぱり新しい作品に入る前の日なんかは、
プレッシャーしかないです。
でも、そうですね、
稽古を重ねて、なんとか形になったときに、
ようやくプレッシャーがはがれおちて、
「あ、ちゃんとうれしさがあった」と。
糸井
自分以上のことをやらないと
次のステップには進めない。
だけどそのためには、
自分ができることをちゃんと連続しないとだめ。
矛盾するんだけど、そういうことですよね。
「ジャンプしろよ! ジャンプするなよ!」
みたいな。
宮沢
あははは。そう。
糸井
うーーん‥‥何度も言ってるけど‥‥
あんなにちっちゃかった女の子に、
こんな話をしてるっていうのは、不思議だねぇ。
宮沢
ほんと(笑)。四半世紀が過ぎましたよね。
糸井
それを今度、りえちゃんは、
人に伝えるようになるわけじゃない。
つまり、自分の子どもに対して。
「おもしろいよ」って。
人生のさびしさじゃなくて、
おもしろさを伝えたいわけじゃないですか。
宮沢
あ、それちょっと自信あります。
糸井
そう。
宮沢
さっき言ってた
「苦難や試練はごほうびだ」っていうのは、
言葉でどんなに言っても、
子どもには伝わらないと思うんです。
糸井
そうかもね。
宮沢
でも、
数々あったわたしが、
いろんなことがあったんだけど、
それらをぜんぶひっくるめて、
目の前でたのしそうにしているってことは、
子どもにもわかるじゃないですか。
糸井
ああーー。
宮沢
そういう意味で、自信がある。
やっぱりたのしいですもん、生きていて。
糸井
なんやかんやと、
心配だのプレッシャーだの言ってても、
生まれてよかったなーって。
宮沢
いやー、生きてるのってたのしいなって。
糸井
それを見て育つ子どもは、
苦しいときに負けないよね。
これから先が、嫌じゃないんだもん。

(最終回に、つづきます)

2014-11-11-TUE

©2014「紙の月」製作委員会

宮沢りえさん主演映画のおしらせ「紙の月」

直木賞作家・角田光代さんのベストセラー小説、
『紙の月』を宮沢りえさん主演で映画化。
11月15日(土)より全国ロードショーされます。