おいしい店とのつきあい方。

108 その28
サービスの「プラスα」その9 注文の書き留め方。

かつて「注文をとる」ということは
サービススタッフに課せられたとても大切な仕事でした。

それは、お客様から注文をとるということだけでなく、
その注文を厨房に間違いなく伝えるという仕事でもある。
つまりこの段階で何か仕損じると
とんでもない事件が起こる。
お出迎えからお見送りという一連のサービスの
「要」が“間違いなく”注文をとる、という仕事です。

その重要な仕事を、
ベテランのサービススタッフは
紙1枚とペン1本でこなします。
飲食店を支援するさまざまなテクノロジーが発達し、
便利なデジタル機器が手軽に導入できる時代に、
随分、アナログな話。
けれど昔も今も“間違いのない”注文のために、
最も合理的な道具が紙とペンなのです。

“間違いのない”注文に必要な情報は、
どのテーブルで何が注文されたかだけではありません。

どのテーブルの「誰が」何を注文したかまで
タグ付けされなくては
正しい注文の情報にまずならない。

残念ながら、最近の飲食店で導入されている注文を
サービススタッフが入力するデジタル端末では、
誰が注文したかまでは管理できない。
テーブルに置かれた注文用のタブレット端末も、
あくまでテーブル単位の注文しか対応しないからです。
ましてや、その商品を注文した人が
どのテーブルのどこに座っているかなんて、
機械で管理しようにもできぬ相談。

注文をとるときに、
1枚の紙をお客様が座っているテーブルに見立てます。
2人ならば真ん中に線をひいて2分割する。
3人、4人が座るテーブルなら紙に十字を書き4等分。
それぞれの区画がお客様が座っている場所。
そこに受けた注文を書き込んでいく。
その1枚の紙を持っていれば、どこに座っている人が
何を注文したかが一目瞭然。
料理ができて運ぶ際、そのお料理は誰がたのんだものかを
改めてお客様に聞くような不作法をしなくてもすむ。

ただその紙を厨房のスタッフに渡してしまうと、
覚書としての役目を果たすことができない。
それにそもそも急いで注文の内容を
書き留めなくてはならない。
だから他の人には判読できない
状態だったりするのがほとんど。
それに厨房の調理人にとって、
注文は「テーブル単位」であればよく、
どの注文が誰のものであるかは関係のないこと。
だから注文をとったスタッフは、
厨房用の伝票に記入し直す。
小さな店なら大きな声で厨房に伝えれば
それで済むこともあるけれど、
作り忘れを防ぐためにも
厨房用の伝票をつくるお店がほとんどでしょう。
ちなみに厨房用に伝票を作るのでなく
「タッチパネルに入力」すると、
代わりに厨房にその注文を飛ばしてくれる
端末機を使う店もある。
アナログとデジタルのシアワセな融合。

ただ、考えてみれば二度手間。
間違いをおこすリスクも倍増します。
それに注文をとってから
厨房にその内容を伝えるまでにタイムラグができる。
コース料理のように時間を気にせず
料理を待つこともたのしみのひとつような店ならば
許せるタイムラグも、
早く提供することがおもてなしのひとつでもある
お店にとっては致命的。
だから注文を受けると同時に厨房へ
その注文の内容が飛ばされ、調理がスタートできる
デジタルのオーダー端末が重宝されるようになった。

最初は「厨房に迅速に間違いなく注文を伝える」ことが
目的のシステムでした。
それがあまりに便利で、
みんなそのシステムをたよりにするようになっちゃった。
一度でもオーダー端末を導入すると、
それがないと仕事ができなくなっちゃうほどで、
お客様のことをほったらかしで、
機械との会話がすっかり優先されるようになっちゃう。
そういうお店が多くて困る。

来週もっと掘り下げましょう。

2019-11-28-THU