おいしい店とのつきあい方。
七冊目

097 飲食店の新たな姿。その17
デニーズからマクドナルド、そしてスターバックスへ。

昔、日本のデニーズに行くと、
「ようこそ、デニーズへ」という言葉と
笑顔で出迎えられるのが常でした。
「Welcome to Denny’s」ってナレーションが入る、
デニーズのテレビCMを
覚えていらっしゃる人もいるかもしれない。
デニーズは普段着でいける
家の近くにあるアメリカでした。

ようこそ!
1970年代、日本の日常会話では
あまり使わない言葉でした。
もし知り合いの家を訪ねて、ドアを開けたら家の人たちが
「いらっしゃいませ」ではなく
「ようこそ我が家へ!」って
アメリカン・スタイルの挨拶をしながら出てきたら、
ちょっと面食らったことでしょう。

デニーズの日本上陸が1974年。
その一年前の1973年には桜田淳子が
「♪ようこそここへ クック クック♪」
と、「わたしの青い鳥」をヒットさせ、
「ようこそ」って言葉はすこし馴染みになっていたものの、
「ようこそデニーズ」というフレーズは
やっぱり新鮮でした。

今になって思えば、
この「ようこそ」という一言で
お客様を迎えるという行為は、
「やわらかな威嚇」に近い行為だったのかもしれません。
ここはお前たちがいつも使っている
食堂みたいな店とは違った店なんだから、
俺らのいうことをしっかり聞いて、
うちの流儀を守るんだぞ‥‥、って。

外食産業の「マニュアル言葉」も
そうしたやわらかな威嚇に一役買った時代がありました。
そして不思議なことに、この「やわらかな威嚇」を
上手にやってのけ、お客様に受け入れてもらえたお店は
その後、伸びる。

伸びるのだけれど、
その非日常的な言葉が非日常性をなくすと、
すごく格好悪い言葉になっちゃう。

今のチェーン店のサービスが人間味がなくてロボット的で、
それをまじめにやろうとすればするほど
格好悪くみえてしまうのは、
マニュアル言葉が非日常性をなくしてしまったからです。

そもそも「外食」という行為には
量の差はあれ非日常性が含まれて、はじめて成立するもの。

マクドナルドが日本にやってきて
まだ間がなかった頃のコト。
マクドナルドの店に入ると
緊張してしょうがないという人がかなりいました。

真っ白でピカピカの店。
入り口正面に大きなカウンターがあり、
そこでにこやかな笑顔の人が立って待ってて、
その場で食べるものを
即座に決めて注文しなくちゃいけない。
しかも頼んだものを復唱したあと、
一緒にマックフライポテトはいかがですかと
聞かれたりして、
もうなにがなんだかわからなくなり、
はい、はい答えていたら
あっという間に1000円超えちゃってびっくりした‥‥、
なんて人がたくさんいた。

つまり、マクドナルドは「接客用語に推奨販売」という
やさしい威嚇と、
ピカピカのカウンターで即決を要求するという
おだやかな脅迫をセットにして
成功したんだということもできるのでしょう。

さてそして今。
接客用語やカウンターという仕組みでは、
人を追い込むことができない時代。
威嚇のフレーズが接客用語から
「専門用語」に移りはじめている‥‥、ように感じます。

専門用語の王者はスターバックス。
スモール、ミディアム、ラージというのが
ファストフードの飲み物の一般的な単位のところ、
「ショート、トール、グランデ」と呼ばせる。
冷たいものを注文したいときには、
一番最初にアイスをつける。
だから冷たいカフェラテをラージサイズで頼みたければ、
アイス・グランデ・ラテといわせる。
この場合カフェラテは「ラテ」と省略する。

これ、完全に働き手の都合なんですネ。
飲み物飲む人にとって、まず頭に浮かぶのはカフェラテ。
その冷たいのをラージサイズで‥‥、という順番が自然で、
けれど働いている人にとってはどのサイズの
どんなカップを用意するかをまず知りたい。
お店の人の都合にお客様を合わせさせる。
うちにはうちのやり方があって、
それを守っていただかなくてはいいお客様とはいえないし、
何しろかっこ悪いでしょう‥‥、と、
まさしく「おだやかに脅迫」されているわけです。
その代わりといってはなんだけど、
商品の呼び方以外に関して、
彼らはほとんど接客用語を使わない。
いらっしゃいませの代わりにこんにちは。
今日は暑かったですね‥‥、
あるいは涼しくなりました、と挨拶する。
飲食店で「サービスのいいチェーン店はどこ?」
とアンケートをとると、
確実に上位にスターバックスが選ばれる。
セルフサービスの店なのに、
ファミリーレストランや居酒屋チェーンより
サービスがいいと言われる不思議。
スターバックスには
ちょっとした魔法がかかっているのでしょう。

2019-09-12-THU

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