おいしい店とのつきあい方。

069 食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その34天ぷら屋が小さい理由。

揚げる。

飲食店にとってちょっと厄介な調理方法。
大きな鍋に大量の油をためておかなくちゃいけない。
しかも冷たいままでは調理できない。
焼くのであればフライパンを
火のついたコンロの上にのせて
ちょっとすれば加熱準備が出来る。
けれどたっぷりの油の準備をするには
かなりの時間がかかるから、
ずっと油を温めておく必要がある。

ガスや電気のコストもかかります。
ラーメン屋さんやうどん屋さんも飲食店の中では
ガス代、電気代がかかってしまう業種だと言われる。
たっぷりのお湯をずっと沸かし続けて
麺を茹でなくちゃいけないから。
しかもお湯を沸かし続けると
厨房の温度がどんどんあがっていくから
冷房代までかかってしまう。
ただ、茹でるときに大量に使うのは「水」。
一方、揚げるときに大量の使うのは「油」。
水と油ではコストがまるで違います。
それに麺を茹でるときのお湯は
それほど汚れるわけじゃない。
けれど揚げる油はすぐに汚れる。
揚げなくたって油を温めているだけで、
油は確実に酸化していくから
頻繁に交換しないとならなくなる。
かなりのコストです。

油が古くなると匂いを出します。
揚げ物が売り物のお店で、
店に入った瞬間に古い油の匂いがして
気持ちが重たくなるようなことがあります。
汚れた油を交換していないから起こる現象で、
そういう店の空気には細かな油が混じって
床や壁を汚し続ける。
テーブルがじっとりとして
手に貼り付くようになってしまったり、
床がスルスル、油で滑ってしまったり。
厨房の中の掃除もよほど入念にしないと、すぐに汚れる。
大家さんによっては、揚げ物がメインのお店には
店を貸すのを躊躇することもあったりするほど、
「揚げる」という調理方法はお店を汚す。

大量の油を使う。
準備するのに時間がかかる。
しかも汚れる。

そのために家庭で揚げ物をつくりたがらない人も多くて、
飲食店にとってはチャンスではある。
けれど、揚げ物にまつわる
「3つの面倒」を棚上げしたとしても、
揚げ物料理をメインのお店をするのはむつかしい‥‥、
と思わせる理由がある。

上手に揚げることがむつかしい。

直火調理ではない。
食材を包み込んでいる油の温度で加熱していく。
ちょうどオーブンの中に食材を閉じ込めて、
熱した空気の対流で加熱していくのと似ていて、
火加減や加熱時間の調整が一筋縄ではいかない。
揚げ物は理論ではなく勘。
食材から水分が抜けていく証の泡の状態を観察し、
耳を澄まして音の変化を感じることで
揚がり具合を見極めなくちゃいけない。
経験こそがおいしい揚げ物を揚げる条件‥‥、
だなんて言われた。

しかも大量に作ることはもっとむつかしい。
だって一度にたくさんの食材を油の中に入れると
油の温度が下がる。
大きな鍋の油の中にちょっとずつ。
だから出来上がる料理の数もちょっとずつ。
それがおいしい揚げ物を仕上げるコツで、
天ぷら、とんかつと揚げ物専門店はたいてい小さい。
揚げ物鍋ひとつで一度に揚げることができる天ぷらは
5人前ほどが限界で、
その2倍の10席がほどよいサイズ。
揚げ手ひとりであればカウンター10席の小さなお店。
もうひとり揚げ手がいれば
厨房の中に揚げ鍋を置き
さらに座敷10席ほどをまかなえる。

外食産業を目指した人たち。
そして会社が揚げ物料理の専門店を
目指さなかった理由が、
「均一」で「大量」に調理することがむつかしいから。
ところがある技術革新がその限界を突破させた。
どんな技術革新だったか‥‥、
また来週といたしましょう。

2019-02-28-THU