おいしい店とのつきあい方。

054  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。19
さびしい「進化」。

働いている人がもっと幸せになりますよと、
持ちかけられるお店の「買収」の話。
その動きがすすむと、日本の飲食店は
「大きな会社の経営」と
「小さな家族経営」のふたつしか
残らなくなるかもしれない‥‥。
もしそうなったら、
地域に根ざした小さな会社の、
その地方ならではの食文化はどうなっちゃうんだろう?
それに対してボクらができることって何だろう?
そんなお話のつづきです。


お店に入ってテーブルにつく。
まずテーブルの上がどういう状態なのかを
細心の注意をもって観察することが大切です。

テーブルの上には、良いサービスを受けるための
ヒントがたくさん転がっているから。

この連載で、昔、書いた覚えがあります。
「お客様を待っているテーブルの上の状態は、
こうお客様をもてなしたいという
メッセージでもある」と。
並んだナイフやフォークの数。
グラスの個数にその状態。
テーブルクロスの素材や厚さ。
日本料理のお店であれば
どんな箸を使っているかで、
お店のおもてなしの姿勢がわかる。
だから、お店のテーブルの上の観察は
とても大切な食事の準備なのです、と。

今でもそれは変わりません。
ただ今の時代のメッセージは、
ずいぶん直接的に様変わりをしてしまいました。
もてなしを省略するためのメッセージが
随所におかれるようになった。
例えば、かなりの客単価の店でも
サービススタッフを呼ぶための
「ボタン」がおかれるようになりました。

もう30年近くも前に生まれた機械です。
サイズも大きく、とても高価なものでもあって、
便利なことはわかっていても導入する店は少なかった。
それは高額の投資である以上に、
サービススタッフの教育が
いきとどいていないように見えてしまうことが
オーナーに導入を躊躇させた大きな理由。
お客様から呼ばれなくても、
気持ちを察して行動しましょう‥‥、と教育するのが
良きレストランになるための決まりでしたし、
働く人たちもそのように心がけていたものでした。

けれど今や、どこもが人手不足です。
安くもなって、多くのお店で使われるようになった。

ただ。
ここが実は重要なのですけれど、
人手が足りないということ、イコール、
お客様を見てサービスのきっかけを察することを
あきらめていい、ということではない。

でも、お客様を見ないお店が増えました。
例えばこんなことがありました。

サービスがいいことで有名なレストランを
ひさしぶりに訪れてみたところ、
入り口にウェイティングのために
順番待ちの番号を出力する
タッチパネルの端末が置かれていました。

あぁ、人手不足なんだなぁ‥‥、と思いながら
ディスプレイを見たら待ち人数は0名。
だから端末の前に立ってそのまま待ちました。
何度かボクの前をお店の人が通りすぎます。
そのうち一度は目があって、
なのに案内されることなし。
声をかけたら、お待ちですか?と聞かれる始末。

テーブルの上には呼び出しマシンがありました。
でもそのときはそれほど忙しい状態でもなく、
お店の人も余裕ある働き方で、
だからボタンじゃなくてお店の人を見ながら
手をあげてみた。

でも気づかない。

そのうちボクのテーブルの後ろの人がボタンを押した。
ピンポンって機械音にお店の人は反応し、
サービスするために近づいていく。

お客様を見ているようでいて見ていないのです。

かつては人間味のあるサービスがたのしめたのに、
丁寧で的確ではあるけれど
マニュアルで決められたことを
粛々とこなしているように見えるお店になっちゃった。

お客様に対する無関心。
その無関心ゆえの必要最小限に終わってしまう
冷たいサービス。
それは、働きたい人がたくさん集まる
人気のカフェなんかでも頻繁に起こる現象。

お客様を見ていないということは、
何度通っても名前を覚えてくれたり
好みをわかってくれたりなんてないに違いなく、
おなじみさんになりがいのない店ということになる。
だからボクは、スタッフを呼ぶための
機械がおかれているお店でも、
特別忙しくないときには手をあげたり、
「すいません」と声に出して
お店の人に合図をしてみることにしています。

それで笑顔で対応をしてくれる店に出会うと、
「あぁ、まだ人間味をなくしてないんだ」
と大切なお店リストにリストアップすることにしてる。

忙しそうで、声をかけることがためらわれる状態でも
お店の人と目があったら笑顔でニッコリ。
その笑顔に気づいてくれるかどうかが、
好きになってもいいお店なのかどうかの分かれ道。

さて、ボタンを押します。
ピンポンっと。
その前に何を覚悟して、どんな準備をするべきなのか。
来週、一緒に考えましょう。

2018-11-15-THU