おいしい店とのつきあい方。

027 シアワセな食べ方。 その18
ファミリーレストランと「なじみの味」。

ちょっと寄り道。
ファミリーレストランが
なぜ、外食産業の覇者になったのか。
そしてなぜ、「ファミレスなんて」と言われる
存在になってしまったのか‥‥、という話をしましょう。

今ではすっかり当たり前になってしまった
ファミリーレストランというお店。
日本に生まれ落ちたのは今からもう50年近くも前のこと。
チェーン化を日本で最初に果たしたのは
「すかいらーく」でした。


「すかいらーく」を始めた人たちは
もともと食品スーパーのようなお店をやっていました。
当時、小売業の世界では
ダイエーに代表されるチェーンストアが
日本中の中小スーパーを飲み込みつつあって、
早晩、彼らのお店も激しい競争の波に呑み込まれる。
そうなったら、まず勝ち目がないという
危機感を持っていました。
だから新しい分野に転業しようと、思案します。

彼らが熟知しているのは食品のこと。
食品を扱う産業で、まだ未開で
チェーンストアというものが生まれていない
産業分野といえば飲食業。
まだ当時は「外食産業」なんて言葉もない時代のことで、
ほとんどの飲食店は生業店(個人経営の店)か
支店があってもせいぜい10店程度。
飲食店は「都道府県の境界を超えない産業」と言われてた。

理由は明快。
県をまたぐと同じ料理でも味の嗜好がかわるから。
その最大の理由はまた明確で、
調味料の味がそもそも地域によって異なるから。
でもそれはかつて
「食品物販の世界は地域を越えない」
と言われていた理由と同じで、
それでもスーパーチェーンは地域をこえて
「全国を相手に商売する」大企業を生んだ。
だから彼らは飲食業の世界で、
日本全国を市場とするチェーンを作ろう‥‥、
と考えたのです。


課題は「地域を越えておいしいと言われる料理」を
どう作るか‥‥、というただ一点に集約されます。
考えます。
飲食店という商売として簡単なのは
「お客様が食べ慣れているものをおいしくする」こと。
けれど食べ慣れている料理は日本全国で当然違う。
よりおいしくするためには、
いい調味料を使うということにつながって、
それでは地域の壁を越えることができなくなる。
日本人が食べ慣れていないもの。
地域に根ざした調味料を使わないで
味を整えることができるもの。
しかも家族4人で1万円を越えない価格で
お腹いっぱいになることができるもの。

考えて考えて、考えた先にあったものが洋食という料理。
ハンバーグ+デミグラスソース。
グリーンサラダにサウザンアイランドドレッシング。
コーンポタージュ。
ミートソーススパゲティーにナポリタン。
日本に昔からあった調味料は何一つ使われず、
つまり地域を越えてもなんら抵抗なく
「おいしい」と受け入れてもらえる料理を手に入れて、
彼らは日本を制覇したのです。

人は大抵調子にのります。
店を作って作って、結局作りすぎちゃう。
店が少ないときには物珍しさも手伝って、
実力以上に評価されます。
店が増え始めると、
ブームなんだとそれまで興味のなかった人たちまで
やってくるようになる。
店がほどよく多い時には、
その店の多さが安心感につながって、
そこで売られる料理がおいしいにちがいないと
お客様はホッとする。
ところが多くなりすぎると評価は一転。
どこにでもある退屈な店。
どこででも食べることができる
凡庸な料理と言われるようになって、
ここで工夫をしなくちゃいけなくなる。
売りたくなかったものを売らなくちゃいけなくなる。
それが和食だったのが、
ファミレスチェーンの不幸のはじまりでした。

コーンポタージュの代わりに味噌汁がセットにつきます。
お客様はいつも食べている
家の味噌汁と味が違うと感じます。
まずいわけではないからクレームはつけない。
けれど違和感を感じます。
豚の生姜焼きを食べます。
家によって生姜焼きの流儀は違って、
「これはお店の料理だからいつもの味と違って当然」
と思いながらも、食べ慣れた料理を恋しく思う。
クレームにはならない。
けれど違和感を感じるのです。

クレームがあればそれに対処することもできようもの。
けれどクレームなき違和感には対応することが出来ず
不人気だけが増えていく。


今、サイゼリヤが絶好調だと言われます。
関東の片隅に生まれて
今では日本全国に店を増やし続けている、
彼らの作る料理の調味料といえば
オリーブオイルにチーズにトマトソース。
生クリームはあるけど、醤油はない。
味噌もない。
ファミリーレストランが生まれた時代の
ファミリーレストランらしいお店のひとつが
サイゼリヤなんだ‥‥、と思えば、
日本全国で自然と受け入れられる理由が
わかるような気がする。

さて、地方が変わっても変わらぬ調味料。
しかも昔ながらの調味料が実はある。
それはなに‥‥、って話を来週、いたします。

2018-05-10-THU