おいしい店とのつきあい方。

020 シアワセな食べ方。 その11
そのお店の「いいところ」と「だめなところ」。

40年ほど生活をした東京に比べて
良さも悪さも当然ある。
地方都市に住む母はそう言います。

いいところは、小さく、どこに行くにも便利なコト。
生まれて育った街でもあるから、
友達も多くてさみしくないというのもいい。
残念よねぇ‥‥、と思うところは
新しいコトが少なくて、好奇心が満たせないコト。

こんな話をしてくれました。


「もう80になって、
それでもまだ好奇心がむくむく湧いてくる
私が悪いのかもしれないけれど、
退屈なのネ(笑)。
それから、変わった店や珍しい料理に
出会うきっかけがあまりない。
沢山人が住んでるところなら、
ほんの一握りの人を相手にしても商売になるけれど、
田舎じゃそういうわけにもいかないから
しょうがないとは思うのね。
でもあきらめない。
調べなくちゃ‥‥、って、
それで最近、グーグルさまと仲良くなったの。

飲茶をどうしても食べたくってね。
香港風でも台湾風でもどちらでも。
特に小籠包とか、
透けて見えるほど薄い生地で包まれた海老餃子とか、
せいろに入って蒸された点心。
それで小籠包とか香港料理とか、
iPhoneにしゃべって出てきた候補を調べる。
ビックリするほど沢山、候補がでてくるの。
でも、メニューをみたり写真をみたりすると
ほとんどが普通の中国料理屋さんで期待はずれ。
中に一軒、おいしそうな
小籠包の写真が載せられたページがあって、
ほら、レストランの評価サイトっていうのかしら?
得点は低かったのが気になった。
しかも、商品の提供が遅くて待たせるだとか、
注文によって客をえこひいきするとか、
あまり良くないコメントも多くて、
どうしようかなぁと思ったの。
でも、他にこれといったお店もなくて
行くことにしたの。

友達に声をかけたら
一緒に行くって言うもんだから
4人で行ったのね」

週末の昼。
街の中心。
母たちの行ったその店は百貨店の近くにあって、
だから案外混んでいた。

メニューを開くと、
おいしそうな小籠包の写真がドーンッと載っていて、
それ以外にも香港風の点心メニューが豊富に揃う。
お店の人に「自家製ですの?」って聞いてみると、
彼女が女将さん。
「主人が香港の飲茶のお店で
修行をしていたものですから、生地まで手作り。
自信があるんですよ」って言う。

「ただ、ご注文をいただいてから、
生地からつくるので、
時間を少々頂戴します。
だから敬遠されるお客様が多くて
困っているんです」って。

「それでメニューの一番目立つところに
掲載されてる商品なのに、
それを食べてレビューする人が少なかったのね。
せっかくだから今日は
待ってでもいただきましょうよ‥‥、
とみんなをうながしたの。
他にもいくつか用意されてる点心類も、
時間がかかるというので待つことにした。
ポットでお茶をもらってのんびり。

お友達が、焼き餃子も時間がかかるのかしら‥‥、
って聞いたら、それならすぐにできるというから、
それを食べながら待ちましょうか、
ついでに酢豚とエビチリなんかも
たのみましょうよ‥‥、と、
そういった料理はテキパキでてきたの。
でも味はそこそこ。
どこでも食べられるレベルの餃子やお料理ばかり。
これじゃぁ、評価サイトのあの点数も
しょうがないわねぇ‥‥、
ごめんなさいね、変なお店を選んじゃったかも、
って私、一旦、謝ったのよ。

ところがしばらくしてやってきた、
お店おすすめの点心のおいしいコト。
東京でもなかなか食べられないようなおいしさで、
小籠包からはじまって肉焼売に海老蒸し餃子。
湯葉でつつんだ野菜であったりと、
次々料理が運ばれてくる。
しかもお店のご主人が、ニコニコしながら
自ら厨房からテーブルまで運んで
料理の説明をしてくれるのネ」

なるほど‥‥。

料理が遅れる。
しかも客をえこひいきする‥‥、
って悪口のようなレビューを
書かれていた理由がわかりました。
そういうレビューを翻訳すると
多分こうなるのでしょう。

“すべて手作り。
しかも点心はご主人ひとりで作っているから、
時間が当然かかってしまう。
けれど、食べてほしい料理を待ってくれた人のために、
ご主人自らできたての料理を運んでくれた。
ご主人の顔をみると待って良かったと
心から思えるゴチソウ。
ただ、ご主人が得意ではない料理は凡庸。”

‥‥こういうレビューなら
あのお店ももっと繁盛するのにね‥‥、って、
母とボクは思ったのでした。

2018-03-22-THU