037 超えてはならない一線のこと。その8
若さと親しみ。

フレンドリーなサービスを求めて
外食産業の経営幹部が
一生懸命アメリカ通いをした30年ほど前。
その頃に比べて、日本のサービスは良くなりました。
海外から来る人たちも、日本の飲食店のサービスは
気持ちよくていいよね‥‥、と言う。
にもかかわらず、アメリカに
せっせとサービスの勉強をしにいく人が後を絶たず、
「どうしてなんだ」と、
アメリカのレストランビジネスの人たちに
不思議がられたりする始末。
そしてそこで、
「やっぱりサービスはフレンドリーじゃなきゃね」
と勝手に思い込んで、
日本に帰ってくる人たちがいたりする。

結果、「タメ口(ぐち)サービス」が
いろんなところにはびこるコトになってしまう。



英語には敬語がない。
勝手にそう思い込み、敬語を使わぬコトが
あたかも親しみやすいサービスであるかのごとき
哀しい勘違い。

英語にも相手を敬う表現がたくさんあって、
彼らはそれをその場、そのときで使い分けてる。
例えば「Hi, Robert!」と言って
出迎えてくれたレストランで、
もし、料理が何かの手違いでひどく遅れてしまったとき。
お店の人はまずこう切り出します。
「Sorry, but may I have your name?」ととても丁寧に。
そして「My name is Sakaki」と答えれば、即座に
「I am very sorry, Mr. Sakaki」と謝罪を続ける。

丁寧語があるわけじゃない。
けれど、丁寧で「相手を敬う」気持ちを伝える
言葉や手段は数多く、
のべつ間もなくカジュアルな言葉で
友達のようにしゃべりあっているわけじゃない。

自分が置かれた立場に合わせて言葉を選ぶ。
それがコミュニケーションにおいて
とても大切なコトなのですネ。



ちなみに、よいサービス。
マニュアルで決められた紋切り型でなく、
お客様の気持ちに合わせた
ココロのこもったサービスができるかどうかは、
「人を採用する」段階で決まってしまう。
そう言われます。
採用基準をシッカリ決めて、その基準に合わせた従業員を
どれだけ集めることができるか。
それが大切。

こんな事例がありました。
肉が美味しいことをテーマにした
気軽な居酒屋を作りました。
若い人たちが沢山利用してくれるだろう‥‥、と、
若いスタッフを集めてお店を開業します。
ところが意に反して、大人のお客様が来るんですね。
ちょっと値段が高いということもあった。
成熟した住宅街からほど近いという立地も
影響したのでしょう。
なにより、大人もあっさりした野菜や
魚ばかりを食べたいわけじゃなく、
たまには肉でガツン! と酒を飲みたくなる。
そこにヒットしたのでしょうね。

お客様からのクレームが相次ぎます。
そのほとんどが、サービスが馴れ馴れしいとか、
無礼に感じたとかというモノで、
つまり「フレンドリーなサービス」ゆえのクレームばかり。
そこで採用基準を変えました。
メインのお客様の年齢層が40代半ば。
そこで従業員を彼らよりもちょっとだけ若い
30代の後半の人だけにしたのです。
途端にクレームは激減しました。
やっているサービス、使っている接客用語も
ほとんど変わらず、なのにお客様から叱られなくなる。
叱られないどころか、
親身で気持ちのいいサービスをしてくれてありがとうと、
お褒めの言葉をちょうだいできるようになる。



カジュアルで、フレンドリーなサービスをするということ。
それは「お客様の方に一歩、近づく」ということ。
下手をすると、超えてはいけない一線を
超えてしまうコトになる。
超えちゃいけない一線を、感じて判断する力。
超えてしまったときに、超えてしまったと感じる力。
そのとき、即座に対応できる力がないと、
「何を生意気な」となっちゃうワケで、
そういう力はお客様となるべく近い年齢ゆえの
経験からしか生まれない。

自分の年令と近いスタッフがいきいき働いているお店を
もしも見つけたら、
付き合ってみる価値があるかもしれません。

さて次回。
「過ぎたサービス」の話をしましょう。
過ぎるというのも、とある一線を超えるというコト。
また来週。


2015-11-19-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN