033 超えてはならない一線のこと。その4
アメリカ人はサービス上手?

サービス。
飲食店において、欠くことができない大切なモノ。
おいしいモノを提供すれば飲食店‥‥、
ということでは決してなく、
だっておいしいモノを売っている小売店や
弁当屋さんを飲食店とは呼ばないでしょう。
おいしいモノをサービス付きで提供しているからこそ
飲食店で、だから飲食店の人たちは
「サービスの良い店だ」と、
お客様からほめてもらいたくて一生懸命。

日本は「おもてなしの国」を自負しています。
ところがなぜだか、外食産業の人たちは
「自分たちはサービスが下手」と、
コンプレックスを持ち続けている。
どこに対してコンプレックスを持っているか‥‥、
というとアメリカ。



おもてなしというのは、一期一会。
もてなす相手がしてほしいコトを、
おもんぱかってすべきコト。
そのときどきで変わって当然だから、
「いつも同じ」ようにもてなすことがむつかしい。
外食産業というのは、
「いつも・どこでも・だれでも」同じが基本だから、
相手に合わせてサービスの内容を
変えなくちゃいけないようではダメだったのです。
アメリカのレストランは、その点、
マニュアルというものがそろっていて、
そのマニュアルを守れば
お客様が喜ぶように仕組みができている。

だからまず、アメリカからサービスに関する
マニュアルをわざわざとりよせ、
日本語に訳してそれで従業員を教育します。
お客様に接する方法。
仕草に作業。
接客用語に代表される言葉遣いに
コミュニケーションの仕方を
ひとつ、ひとつ説明しながら教育。
ところが、手間をかけて入念に教育をすればするほど、
サービススタッフのサービスがぎこちなくなる。
そのぎこちなさがお客様に、
とある「立場の違い」を思い出させて、
なんでもっと良いサービスが出来ないの?
って、クレームを続出させた。
時代は1980年の前半。
まだファミリーレストランが
日本で生まれたばかりの頃のコトです。



さて、その「立場の違い」。

お金を払う立場のお客様。
お金を受け取る立場のサービススタッフ。

その双方の関係性は、ほぼ完璧な上下関係。
お金を払っているんだから、
私たちが期待するものを
すべて提供してくれて当たり前じゃない。
だからサービスをもっと良くしてくれなくちゃ‥‥、と。
お客様は次々要求を増やしてくる。
だってサービスって
「サーヴァントがするモノじゃないの?」。
サーヴァントって「使用人」とか「召使」。
だからもっと‥‥、と、お客様は言ってくる。

サービスをしてさしあげている立場としての
サービススタッフ。
サービスをしてもらっている立場としてのお客様。

そういう考え方もあるはずで、なのになぜ、
一方的な上下関係が
日本の外食産業では当たり前になっちゃったんだろう。



そう悩む業界の人たちに、
「いや、アメリカの外食産業では
 そういう一方的な関係ではないんだよ。
 お客様がやってきてくれたコトに対する、
 サービススタッフの感謝の気持ち。
 サービスをしてくれたコトに対する、
 お客様の感謝の気持ちが等価で共存している。
 だから外食産業は、働く人にとって
 シアワセな産業のひとつなんだ‥‥」
という人たちが何人もいて、
それならアメリカに行ってみようじゃないかと
アメリカ視察をすることが、
なかばブームのようになった。

視察旅行に参加した人たち。
みんな口をそろえてあることを言う。
だからこそ、アメリカのお客様と外食産業で働く人は、
互いの立場を守り合い、
互いの一線を超えないんだという理由。

さて来週に続きます。


2015-10-22-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN