023 たのしく味わう。その23
ベーコンはかつお節。

ガリガリに焼けた分厚いベーコン。
噛むと口の中に散らかり、しばらくずっとそこに居座り、
噛めども噛めどもなくならない
頑丈なそれを噛んでくうちに、
なにかなつかしい気持ちになっていく。
このなつかしさは一体、どうしたことなんだろう‥‥、と。
なかなか答えが出ないまま、水を口に含んだ瞬間!

口に広がる旨味の世界にハッとした。
出汁の味がするのです。
それはかすかで頼りなく、
はるか向こうで「ここに出汁が隠れているよ」と
ヒソヒソ声で囁いている‥‥、程度の感覚。
けれどしっかり出汁の気配がするのです。



お湯をください。
熱いお湯。
Hot waterじゃなくて、Boiling waterを
カップに持ってきてはくれませんか、とお願いをした。
湯気をもくもく立てながら、カップがひとつ。
ストンと置かれ、日本人はこんな熱い湯を飲むのかい‥‥、
ってな感じの顔でウエイターが去っていく。

お皿の上のベーコンをペーパーナプキンでキレイに拭う。
それをバキバキ、手で割って熱湯の中にドサッと投入。
カップソーサーで蓋してしばし、待つ人となる。

出汁が取れぬかと思ったのです。
3分ほども待ちましたか。
蓋を開けると、おいしいにおいがすでに鼻をくすぐります。
カップの中をみるとお湯にほんのり色がついている。
スゴく薄めたコーヒーみたいな。
あるいは薄いコンソメのような色をしていて、
口に含むとほのかな塩味と深い風味が広がってくる。
ベーコン独特のスモーキーな香りが強くはあるけれど、
口に広がる豊かな旨み。

そして思った。
これは「洋風の出汁」なんだ‥‥、って。
ガリガリベーコンが奥歯で潰れたときに感じたなつかしさ。
素材の力強さを素直に味わえる単純な味をたのしめる
アメリカ料理を食べるにつけて感じる
物足りなさの理由は「旨み」が足りなかったんだ。
‥‥、とも思ってひたすら、ベーコン汁を飲み、味わった。

これでボクはこのアメリカでもやっていけるぞ‥‥、
と思ったわけです。
そしてそのとき、ベーコンって奴は
アメリカのかつお節に違いない‥‥、
と確信するに至ったのです。



考えてみればかつお節もベーコンも燻製食品。
煙でいぶして加工することで、
塩と脂、タンパク質が混じりあいつつ変化していく。
どちらも過熱することで
強い旨みを他の素材やお湯に移しておいしくさせる。
過熱する前のかつお節は魚臭く、
ベーコンに至っては肉や脂の匂いしかしない。
それが不思議なほどにおいしい香りや
味に変わっていくのです。
生まれ、育ちは違っても果たす役割はどちらも同じ。
何よりどちらも食品であり、
なのに調味料としての役目を雄弁に果たす多才な存在で、
そういうモノが食の世界には
たくさんあるんだと思いもします。

さぁ、来週。



2015-08-13-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN