ところでシンイチロウはなんでこのお店を選んだの?

家から近くて気軽にこれる。
朝から夜まで休みなく、
ずっとあいてていろんなときにこられて便利なんだよ。
お店の人も気さくで、サービスもシッカリしている。
料理も結構、シッカリしていてしかもほどよく安くて
その分、チップをはずむコトができるいい店だし。
ただいつもひとりでやってくるから、
こうしてお客様をもてなすのにいい店かどうかは
まだわからないんだ‥‥。

と、彼らの質問に答えながら、
ボクはワインリストをみつめます。
自分のオキニイリのお店に友人を招くというコト。
つまりボクは、自分の家にお客様を呼んだ
ホストとしての役割を果さなくちゃいけないワケです。
だからまずはウェルカムドリンク。
会話を盛り上げるための
ワインを選んで抜かなくちゃ‥‥、と。
そう思って一生懸命になるボクに向かって、
ベルギー訛りの小太りくんがボクにいいます。

ボクらをお店の人に紹介してもらえないかなぁ?
好きなお店を、ボクたちに荒らされると嫌だって
もしシンイチロウが思っているんだったら
無理強いはしないけど‥‥、って。

あぁ、そりゃそうだ。
匿名で受けるサービスは味気ない。
ホームパーティーだって
まず互いを紹介し合うことからはじまるんだから、
ボクが招いたレストランでは
ボクが彼らとお店の人とを
つなぐ役目をしなくちゃいけない。
ボクがレストランをやってたときも、
ひとりでも多くのお客様の名前を呼べるようにって
お店のみんなに言っていた。
お客様の名前を呼べるようになるには、
まずお名前を教えてもらわなくちゃはじまらない。
そのためにどれだけの手間を時間と苦労をしたか。
その点、おなじみのお客様が
連れてきてくれるお客様ってありがたかった。
おなじみさんが紹介してくれるのですから。
逆に、いつも来てくれるお客様が
初めてお連れになった人を、
紹介してくれなかったときってちょっと哀しかった。
まだ、そのお客様に信頼してはいただけてない。
だって、自分の友人を紹介できない人って
まだまだ友人とは言えないですもの。

ボクは支配人に目配せして、
ワインの注文をするのかとやってきた彼に
彼らを紹介します。




みんなおいしいモノとたのしいコトが大好きな
ボクの友人なのですけれど‥‥。
エヴァ・ガードナーのような凛々しい女性が、エマ。
そして彼女のボーイフレンドのジャン。
ベルギー出身で、
おいしいモノをスゴクよく知ってるんです。
それから‥‥、と言いかけるボクを遮って、
「ケンイチと言います、もし呼びづらければ、
 ケンとでも呼んでいただければ」
と、立ち上がってボクの先輩が支配人に握手する。
エマがすかさず、
「彼、トウキョウ出身で
 別にカリフォルニアから来たワケじゃないんだけれど」
と言ってジャンと大笑いする。

お名前までお教えいただけて‥‥、
とニッコリしながら支配人は
「ブライアンとおよびいただければ
 すぐに飛んでまいりますから」と。
そして、今日は白のシャルドネが
よき状態で冷えております。
会話のお供に、まずはデカンタで
それをお飲みになられては‥‥、と
とてもうれしいサジェスチョン。
スッキリとした白いワインで乾杯をして、
さて何を食べましょうかとメニューを手にする。

ジャンがそっとボクに聞きます。
ところでなんでこのテーブルを選んだの?

支配人に薦められたんだ。
小さなテーブルは社交的なテーブルで、
しかも丸いテーブルは
友人同士のカジュアルな食事に
ピッタリでしょうから‥‥、って。
へぇ、ブライアンってやるじゃない。
このお店のことと、お客様の気持を熟知している人。
この店、結構、見つけものかもしれないねって、
彼はちょっと感心しながら
「スターターは田舎風のパテにしようかな」という。
「ニース風のサラダを食べたいんだけど、
 ツナとオリーブが嫌いなんだよ‥‥、
 それを抜いてってお願いしたら変かなぁ‥‥」
って言うケンに、
それならグリーンサラダをたのめばいいじゃないって、
エマはピシャリと言い放つ。
そしてボクに向かって言います。

もしシンイチロウが私とふたりでココに今いるとして、
私をどこに座らせてくれるかしら?




彼女とふたり。
つまり彼女がよろこぶ席はどこかという質問。
目立ちたがり屋の彼女であります。
しかも、目立つにふさわしい
ゴージャスな容姿の彼女のコトであります。
ボクはお店の真ん中の、
どの客席からも見てもらえるであろうテーブルを指さして、
「あのテーブルなんてどうなんだろう?」って。

あのテーブルはただの目立ちたがり屋の座る席。
プロムにでかけるオンナの子たちが座ればいいのよ。
私だったらあのテーブルネ‥‥、
と彼女がしめしたテーブルは通りに面したお店の隅っこ。
大きな窓の真ん前で、
どう考えても寒くてしょうがなさそうな席。
なんであんなテーブルに?
って、聞くと答えはとても簡単。

だって、あそこなら毛皮のコートを脱がなくてすむもの。
ホットワインを飲みながら、
オニオングラタンスープに
クロックムッシュが一層おいしく味わえるから‥‥、と。
そして彼女は支配人のブライアンを手招きし、
ボクにしたのと同じ質問を彼にする。
ブライアンはニッコリわらって、
迷わず、とあるテーブルを指し示します。
驚いたコトにそれは彼女が選んだテーブル。

もしマダムがミスターサカキのお客様でなければ、
私は迷わずあのテーブルにご案内したに違いない。
そしてそのテーブルを選んだ理由をボクらにいいます。
それは驚くべき理由であって、
しかし同時になるほどとみんなが納得する理由。
さて来週のおたのしみ。


2012-01-12-THU


© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN