ダイニングパートナー。
まずはボクをニューヨークに呼んでくれた友人。
アジア人向けの商品を得意にした
小さな広告代理店を経営していて、
彼はいつもボクと食事をしながら、
「この人となら一緒に仕事をしてみたい」
と思われる優秀なビジネスマンにボクがみえるかどうか、
食事をしながらアドバイスをしてくれる。
ちなみに彼。
ボクと同じ大学の卒業生でありながら、
ニューヨークに来てすでに20年。
アメリカ人以上にアメリカ人のように見え、
日本人の顔をしながら
みぶりてぶりがアメリカ的でありすぎるというのは、
かなりの違和感。
にもかかわらず、彼のクライアントのほとんどは
アジアからアメリカに来たばかりの人たち。
ちょっと心がけた方がいいかもよ‥‥、
といったりしながら食事をたのしむ。
おいしいギブ・アンド・テイクという関係ですか。

それから彼の会社でマーケティングをやっているという人。
背の高いブルネットのキレイな女性で、
彼女はボクにエスコートされる立場であれこれ。
かなり厳しいレッスンで、これは勉強になりました。
詳しいことはまた後日。
代わりに何をボクが教えてあげられたか‥‥、
っていうと日本語とカタコトの北京語くらい。
こと彼女との食事においては、
ボクが学ぶコトの方が圧倒的に多かったのです。

彼女にはベルギー出身のボーイフレンドがいた。
ビジネスとしてのアートを勉強にきているんだという人で、
まだヨーロッパに対して大した知識のなかったボクは、
ベルギーってどんなとこ? って失礼にも聞いたのですね。
すると彼はこう言います。

ステキなとこだよ。
街はキレイで歴史もある。
料理がおいしく、そこに住んでる人は
みんな笑顔で明るくて、
なにより意地悪なフランス人がいないんだよ。
首都のブリュッセルなんて、フランス人がいないパリ。
ステキだって思わない?
そう言いながら、ニッコリ笑う。
その茶目っ気にボクはたちまちココロ惹かれて、
ボクの3人目のダイニングパートナーになってもらった。
彼は、料理をおいしくたのしむことにかけては
天才的でいろんなコトを教わった。
アメリカではこうだけど、
フランスではこうじゃなかった‥‥、とか、
イタリアではこうなんだよネって、
ボクは彼と食事をしている間、
まるでヨーロッパ旅行をしているようで、
逆にボクは彼に「アジアの食」のコトを伝えた。






たのしかったなぁ‥‥、
ボクはみるみるうちに熟練した
「ゴキゲンなダイナー」になっていった。
そのあれやこれやもまたのちほどに。
そんなこんなでその年も、
まもなく終わるという11月のコト。
来月12月の週末は、それぞれが選んだ
「今年、初めて出会って一番ステキだったレストラン」で
食事をしようよ。
そのお店を選んだ人が、
他の3人をそこに招待するような
年末ディナーをしませんか‥‥、と。
いいアイディア。
ただ、ボクはかなり悩んだ。
だって初めてニューヨークで生活をして、
出会ったお店はすべて候補で、
その中からどうやったら一軒、
今年一番ステキなレストランを選ぶコトができるだろう。

ノートに今年の記憶に残るお店を一軒、また一軒。
リストを作って、それぞれどんなお店だったか
思い出しながら書いていく。
今ならブログなんて便利なモノがあるけど
当時は、まだ個人のウェブサイトだって
一般的ではなかった時代。
たよりになるのは、何かあったときのためにと
もらってためてあった領収書とかショップカード。
それらを一枚、一枚。
とりだし見つめながら、
そのときのコトを思い出しつつ
どこが一番いい店だったろうと。

最初は面倒くさかった。
この街にやってきてから半年ほども経っていましたか。
たったそれだけの間というのに、
おどろくほどにたくさんの、
しかも魅力的なお店にであっていたのに
いまさらながらボクはビックリ。
しかもどれも多彩で、
思い出すとまるで昨日のように
そこに行ったときのコトを思い出す。

いろんなお店がありました。
食後に葉巻を吸いながら、
悪だくみするのにぴったりじゃない?
とアルカポネっぽい気持ちになれるステーキハウス。
ボクがはじめて仕事をとるのに成功した、
お客様をもてなす人をジェントルマンにみせてくれる
サービス見事なコンチネンタル料理のお店。
ホームシックになると必ずいってぼんやりお茶を飲む、
港の見える気持ちいいカフェ。
どれがよくって、どれが劣るというような、
そんな区別ができぬ多様なお店がたくさん。
ボクのノートに次々書かれて、
ステキなリストになっていく。





そのときからです。
ボクは一年を終える前。
必ずその年一年を思い返して、
ボクにとってのナンバーワンのレストランを、
考えられる限りリストアップすることにした。
考えられる限りのナンバーワンというのがポイントでして、
つまりそれぞれ分野別。
それもナンバーワンフレンチだとかって、
そんなありきたりな分類じゃなく、
特徴のある使い勝手をキーワードにしてお店を選んで
勝手に表彰してあげる。

たとえば昔、8年近く連続で毎年
「ベスト・スモーキングレストラン」
の栄誉に浴した韓国料理のお店があった。
喫煙者のためのレストラン‥‥、って訳じゃないです。
煙いのです。
換気がよくなく、しかも炭を使って
脂ののった肉を焼いて食べさせる。
窓も小さく、
満席になると目が痛くなってしまうほど煙でみたされ、
体までもがスモークされるみたいになっちゃう。
それでも旨い。
しかも安いからいくんですね。
覚悟を決めて。
キレイな服は着ていかないです。
そこに行ったら着てた洋服は
すぐクリーニングに出しちゃうくらいの覚悟ででかける。
お店の人も心得ていて、
この店、ずっと
「予約必須・当日予約はなるべくお控えくださいな」
というコトでかなり有名だった。
うちに来るには前もって、
準備が必要でございましょう‥‥、ってメッセージ。
一度だけ。
会社の大掃除が終わって
みんなで元気の出るモノ食べたくて、
ここに予約が取れないかって。
当日電話をかけたら案の定、
当日予約は受けてないんですと。
すかさずいったネ。
みんな大掃除を終えてそのまま。
お風呂に行かなきゃ迷惑かも‥‥、って格好をしてる。
腹ペコで、だからおたくがあいてないかと、
電話をかけているんですけど‥‥、って。
それなら結構、お待ちいたしておりますよ‥‥、と。

目が痛くならないようにと、
ここ専用のゴーグルをもってさえいた。
それほどオキニイリだったのだけど、
ある日、無煙ロースターを導入した。
それで煙たくはなくなった。
つまり、スモーキングレストランではなくなったんだけど、
それと同時に「ベスト」の称号もなくしてしまった。
炭で焼かないお肉は普通の焼けたお肉になっちゃったわけ。
残念すぎて、いまだに思い出すと哀しくなっちゃうお店。

他の人には「ワースト」だって思われることも、
人によっては「ベスト」になる。
そんなコトはいろんなところに転がっている。
いろんなベストを発見するのがたのしくて、
「ワタクシリスト」はどんどん個性的にふくらんでいく。
たのしい年末のボクのイベント。

このリスト、必ず次のキーワードだけは
いつもいれておくコトにしています。

・今年、できたばかりの一番ステキなレストラン
・今年、友人を連れて行って一番よろこばれたレストラン
・今年、一番のとびきり贅沢なレストラン
・今年、一番よく通ったレストラン
・今年、一番ステキなサービススタッフがいたレストラン

そして今年、一番印象的だった料理の「5+1」。
これが今年のボクにとっての
「おいしくステキな宝物」‥‥、ってずっと思って
必ずそれぞれ1軒ずつを選んで手帳に書いている。
今年も今日を含めてあと3日。
この一年をふりかえり、あなたのおいしい宝物を
リストアップしたりするのも、
ステキじゃないかと思います。

ちなみに新人ニューヨーカーの、ボクにとっての
「その年であって、一番ステキだったレストラン」は
果たしてどんなレストランだったか‥‥。
一生懸命考えて、ボクはとあるレストランを一軒選んだ。
上にリストした「5+1」のひとつを
満たしていたのだけれど、はてさてそれは一体、
どのキーワード?
答えは年をまたぎます。

みなさまステキな年越しを‥‥、
そしてステキな新年を。




2011-12-29-THU


© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN