第六回 沖縄を選んだ理由
丸山さんがソニーを辞めて
沖縄に行かれたのは
いいバンドか歌手がいたのが
きっかけなんですか?
ううん。
東京から一番遠いところ。
それだけの理由で沖縄に。
雑だなぁー(笑)!
いや、雑じゃないって。
それはちゃんと聞いて欲しいんだけど。
聞きます、聞きます(笑)。
まず、自分でソニーミュージックの
内規を作り直したわけです。
つまり、「60歳で役員は終わり」と。
ようするに、
自分で自分のことをクビにしたんですよね。
そう。
自分で自分をクビにしたんだけど、
「その後、どうすんべかな」
と58歳のときに考えたわけ。
選択肢は3つあったんです。
1番目、完全引退。
2番目、同業他社に行く。
3番目、自分でやる。
これをいちおう、検討しましたよ。
自分なりに。
ええ。自分なりに。
1番目の完全引退は
「ちょっと早いよな」と。
2番目の同業他社に行くというのも、
「他人に雇われるのは
 十分やったから、もういいや」と。
これらを消すと、
後は自分でやるしかないじゃないですか。
すると、自分でやるならどうするか?
ということになる。
うん、うん。
俺はね自分という人間の
市場価値が上がったのは、
音楽業界での成果もあるんだろうけど、
やっぱりプレイステーションが
成功したせいだと思うんですよ。
アメリカでもゴタゴタしてたのを、
英語もしゃべれないのに
立て直すという荒業をやったから、
アメリカでも知られたわけじゃないですか。
『単騎、千里を走る』みたいな。
そう(笑)。そうすると、まあ、
ヘッドハンターみたいなものが来るわけですよ。
「そろそろいかがですか」
「今後、どうなさいます?」みたいな人が。
そうでしょうね。
話があるからって
転職するわけじゃないんだけど、
「いま、自分のマーケットバリューが
 どのくらいかな?」ということは
案外、興味があるんですよ。
だから、俺、そういう話があると
片っ端から会ってたの。
それもおもしろいですねぇ(笑)。
だって、気になるじゃない、いちおう。
自分の価値が、
外からどう見えているかということだもの。
だから、そういう話が来るたびに
「ちなみに、もし移ったとしたら
 どのくらいいただけます?」
みたいなことを訊いてね。
「そうかそんなもんかぁー」
とガッカリした顔をしてみたり、
喜んでみたりしてたんですよ。
そしたらね、どうやら、
それをやりすぎちゃったみたいで、
ソニーを辞めたら、
ものすごくたくさん話が来たわけ。
アハハハハ!
そうすると、業界は狭いから、
丸山はつぎにどこに行くんだ、
という話になっちゃう。
で、もしも移るとしたら、
「どこどこレコードのだれだれさん」の
ポジションを奪うことになるじゃないですか。
何もないときはいいんだけど、
私がフリーになるというだけで、
その業界内が情緒不安定になる。
だったら、そういう気はないということを
表現するためにも
東京から離れちゃったほうがいいでしょ。
え、そういうことなんですか!
たしかに沖縄というと、
戻る気がない感じに見えますよね。
そう見えるでしょ。
これが福岡じゃ、駄目なんですよ。
なんとなく。わかります?
うん、沖縄ですね。
北海道でも‥‥駄目だよね。
ああ、そうだわ!
それで、沖縄に行ってみたんです。
そういえば、何年か前、
京都駅で丸山さんに会ったとき、
ぼくが声を掛けたら、
「俺、沖縄なんだよ!」って
おっしゃってたんですよ。
そのとき、ちょっと丸山さんに
頼み事があったんですけど、
「沖縄じゃ、無理だ」って、
すぐにあきらめたんですよ。
あ、そうなの?
ええ。沖縄って聞いて、
「あ、丸山さんはきっと、
 やりたいことを見つけたんだな」と思って。
「沖縄に行くんだよ」と言うと、
意志を感じるんですよね。
ちなみにそれはどういう仕事?
ジャンルとしては農業なんですけどね。
農業か‥‥。
農業というのを聞いていたら、
ぐらっと来た可能性があるね(笑)。
ああー、そうですか(笑)。
もしかしたら宮古島あたりで
マンゴー畑を経営してたかもしれませんね。
レコードと農業というのは、どうですかね?
肉屋とボクシングジム、みたいだけど(笑)。
2006-07-25-TUE
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