奈良の中心地から電車で1時間。
田んぼのなかにちいさな靴下工場があります。

Ponte de pie!(ポンテ・デ・ピエ!)というブランド名で
オリジナルの靴下をつくっている
「杉田利一靴下工場」です。

Ponte de pie!(ポンテ・デ・ピエ!)をはじめたのは、
ふたりの女性、杉田幸子さんと田中佳子さん。
「ほぼ日」とは、ものづくりのネットワークを通じて知り合いになり、
「夏にできる靴下と、冬にできる靴下では
 風合いがほんの少しだけど違っている」ことだとか、
(夏はキリッと、冬はやわらかく仕上がる!)
「できあがった靴下は、洗ったあと、
 ロープにかけて自然乾燥させてから
出荷している」ことなどを知り、つよく興味をもったのでした。
(ちなみに自然乾燥させるのは、
 そのほうがじょうぶで風合いもよくなるからなんですって!)
靴下一足一足に、そんなに手をかけているひとたちが
いるなんて?!

はいてみたところ、
‥‥これは、はきごこちがいい!
見た目はふつうの靴下だけど、
はけばはくほど、よさがわかってきました。
むれないし、歩くのも楽、しっかり足に力が入る。
むくまないし、ぬいだときにふくらはぎにあとがつかなくて、
「気がつくと毎朝、靴下をはくときに
 ポンテの靴下ばかり手にとるようになってる!」
なんていう「ほぼ日」乗組員もいました。

しかも、ポンテのお客さまには
「ほぼ日」読者のかたが多いという情報も。
これは一度、現場にうかがわねば!
ちいさな工場だからできるものづくりを、
見てこよう!
そんな気持ちで、奈良へと出かけてきました。
第1回 注文をこなすだけの毎日、「つくりたい」思いがつのっていった。
第2回 奈良ブランドということは、シカのマークつけるんかなあ?
第3回 「続いている」チームと、「続かなかった」チーム。
第1回 注文をこなすだけの毎日、「つくりたい」思いがつのっていった。

ここ奈良県北葛城郡広陵町は靴下の日本有数の産地で、
「杉田利一靴下工場」も50年、ずっと有名ブランドの靴下を
企画、生産してきたそうです。

▲Ponte de pie!(ポンテ・デ・ピエ!)の田中さん。

有名ブランドのメーカーからの依頼を受け、
「なにか特徴のある靴下を」と言われて
企画を提案しても、最終的には、
「とにかく短時間でたくさん数がつくれて、
 金額が安いものがいい」
と言われることが、よくあったそう。

受注する量産品は、
仕様書通りの仕上がりが求められるから、
たとえば、靴下の左右の長さが
少し違うだけで不良品になります。
洗って乾かすとくしゃっとするから、
形がそろいにくい。
だから洗わないで最後にプレスして
左右ピッタリになるまで熱で伸ばす。
そんな作り方を、せざるをえませんでした。

「一所懸命、編んだ靴下が、
 ちょっとの大きさの違いで不良品と呼ばれて、
 あとは切って捨てるだけって、かわいそうで。
 編み地にムリをかけてまで、
 やらなくてもいいのになあって」

田中さんはずっとそう思っていたそうです。

そういうふうにできあがった靴下には、
つくり手から見ても、魅力はないなあと感じていたそうです。
「わあ! どれをはこうかな?」
と思えるものが、できなかった。

「自分たちがつくったのに、
 なんだか愛情が持てないと思いました」

けれども、価格競争をしないと生き残れない。
価格が安くなっていく分、
たくさんつくらないといけなくて、
ますます、自分たちの想いと
ギャップのあるものをつくることになります。

「だから、靴下工場で靴下をつくっている私たちが
 本当にはきたいと思える靴下をつくりたい、
 みなさんに誇れる靴下をつくりたいと、
 ずっと思っていました」

杉田さんとふたり、
「こういうの、いいよね」
「自分なら、こうするなあ」と話をしていても、
毎日、仕事に追われ、
忙しさにかまけてしまいます。
糸も編み方もかたちも、
具体的なことは、なにも決まらないまま、
「つくりたい」気持ちだけがつのっていきました。

▲スタッフの木村さん。ただいま検品中。

ある日、たまたま、杉田さんが新聞で
「奈良ブランド募集」という記事を見つけます。

「『応募してみない?』って、私に見せたんです。
 それは県主催の奈良ブランド開発支援事業の公募で、
 もちろん期限がありました。
 それまで『やりたいな、やりたいな』で終わっていたのが、
 期限があることで、発奮しました。
 『とにかく、どんなものかわからないけど、
  自分たちのオリジナルがひとつできるんや!』
 と、参加することにしました」

頼まれた仕事ではなくて、
自分たちでやろうと決めた仕事は、
「なんでもできるし!」みたいな気持ちがわいてきて、
そのことがすごく大きいと思ったそうです。

▲工場の倉庫を自分たちの手で改造したお店。
「ほぼ日」のポンテ担当やえより。

こんにちは、「ほぼ日」でいちばん、
ポンテの靴下のファンかもしれない、やえです。
今回の取材は、この靴下のつくり手である
田中さんと杉田さんも「ほぼ日」ファンでいらしたこと、
そして、お客さまにも「ほぼ日」読者が多いということから、
縁あって実現したものです。

わたしがすっかり気に入って、
友人たちにすすめまくっているなかに、
すでに「これ知ってるよ、もうはいてるよ」
というひとがいました。
それは、「うちの土鍋の宇宙」でお世話になっている、
伊賀の土楽の福森道歩さん!
毎日、山に行ったり、土をこねたり、
ろくろをまわしたりという仕事をしている道歩さんが
「仕事してるときに、この靴下すごくいいですわー」
というのですから、あらためてすごい! と思ったのでした。

さて、奈良のPonte de pie!(ポンテ・デ・ピエ!)さんのお店は、
田んぼの中にある小さな工場の倉庫を
自分たちで改装したものです。
ぜひ、行ってみてください‥‥と言いたいところですが、
気軽に行くには遠いところです。
また、ポンテのみなさんは、
お客さまとの出会いをたのしみにしておられて、
セレクトショップやデパートにほとんど卸していません。
ボタンひとつでお買い物ができるネット通販もありません。
少量生産だから、多店舗に卸せるほどの数ができない、
ということもあると思います。
出会うことが稀なポンテの靴下を
実際に体験していただけたらと思います。