「あわびもった？
リュックに入れた？
あんたの背中でとけるから、
ちょうどいいね。
駅まで急ぐなら、
あの坂道を上がってくといいよ」

あの‥‥坂道？
あの、やぶみたいなとこ？

「そうそう、あそこを上がって、
畑を突っ切って、行く」

ひぃえええ。

「ひぃええじゃないよ」

ありがとうございました！

「ありがとね。
あわび、おいしく食べんだよ」

鳥居をくぐったあと、
岩の間をぬけて、
橋を渡ると…

あ、しまった。
三陸鉄道の時間が迫ってきました。
もう行かなくちゃ。

「綾子としょうゆも
忘れずにね」

はいっ。

「じゃあ、これ。
あわびね。
凍ってるから、
自然解凍か水につけて解凍するんだよ。
今日はきっと解凍できないから、
あした食べてね。
生でいけるから、刺身にしてもいいし、
焼いてもいいよ。
肝はとって食べてね」

肝のとり方のプリントも
いただきました。

川沿いにすたすた歩いてきたら、
鳥居が見えてきました。
そして、看板。

滝はもうすぐそこのようだ。

「なに、これから
気仙沼に行くの？」

はい、気仙沼が
最終ゴールです。

「気仙沼は、ふかひれが有名です。
東北の干した海産物でみっつ、
いいものがあって、
ひとつはあわび。
もうひとつはふかひれ。
あとは、なまこだよ。
干したなまこ、見たことある？
ほら、これだよ（ゴロゴロゴロ）」

ひぃえええ。

「ひぃええじゃないよ」

野村社長はおっしゃいます。

「このあたりのあわびは、
水温もよくて大きくて、
昆布をたくさん食べてるから、
味もいいわけ。
三陸鉄道のふたつ先の駅の
吉浜ってところがあるんだけど、
そこのあわびを食べた中国の人が
キッピン（吉浜）あわびと呼び出したのが、
このあたりのあわびのブランドの
はじまりとなったんだよ。
干しアワビがメインの商品なのは、
中国に出す分が多いからなんだよ」

香港で出てくる、
戻しあわびの姿煮は、じゃあ‥‥

「そう、ここらへんのものが多いね」

そうだったんだ！

「あとはこれでしょう。
綾子。わかめの綾子。
これはね、特別に、
プレゼントすっから。
いゃあ、綾子って人がまさかのまさか、
ここまであわび買いに来るなんて
思ってなかったよ。
はじめてだよこれは。
わははははは」

ありがとうございます、
いただきます、
わはははははは。

あと、あの、
県のコンクールで最高賞を
獲ったという、
あわびのお醤油もほしいです。

「そんで、おたくは、
あわびを買いにきたの？」

はい。
こちらで、あわびは買えますでしょうか。

「うちはね、メインは
干しあわびなの。
高級な中国料理で、出てくるやつね。
でもね、おすすめは、
冷凍あわびだよ」

じゃあ、冷凍のあわびを、
お願いします。