ほぼ日刊イトイ新聞

勉強の夏、ゲームの夏。2018

さあ、今年もはじまります!
ほぼ日がお届けする
夏休みの終わりの風物詩といったら、これ!
勉強とゲームの両立をめざす恒例企画
『勉強の夏、ゲームの夏。2018』!
勉強サイドでは、ほぼ日のまわりにいる
「意外に高学歴な人たち」をお呼びして、
勉強や受験のコツを教えていただきます。
一方、ゲームサイドでは、
乗組員がヤングとアダルトの2チームにわかれ、
本気の「ババ抜き」で真剣勝負! 
しかも、最大4台のビデオカメラを使い、
勝負のかけひきを動画で生中継しちゃいます!
あ、そうそう、毎年恒例のシェフこと、
武井がつくる「静岡おでん」は、
すでにいい感じに煮込まれていましたよ。
夜までずっとたのしくやってますので、
ときどきのぞきに来てくださいね。
それでは今日一日、どうぞよろしくお願いします!

今年のゲームサイドは生中継!

再生ボタンを押すと、
すぐに中継がご覧いただけます。

事前に読者からお寄せいただいた
勉強や宿題についての相談に、
ほぼ日のまわりにいる
「意外に高学歴な人たち」が答えます。
ときどき、おでんの様子も。

ご登場予定の講師のみなさん

新谷陽一さん (東京大学の学生・ほぼ日インターン生)
税所篤快さん(国際教育支援NGO「e-Education」創業者)
山内奏人さん(ワンファイナンシャルCEO)
竹之内祥子さん(okatteにしおぎ)
長瀬勝彦さん(経営学者、首都大学東京教授)

2018/08/23 21:51

選択を変えた後悔と、
変えない後悔。

shinya.hirano
2018/08/23 21:51

選択を変えた後悔と、
変えない後悔。

shinya.hirano
「あ、質問とは関係ないのですが、
 受験生のみなさんが、
 興味を持ってくれそうな話を
 ひとつ思い出しました。
 
 試験やテストには
 マークシートのような
 選択問題がありますよね。
 解いていくときに
 『これはAだな』と思って
 Aに丸をつけるとしますよね。
 そして、あとで見直したときに、
 『もしかしてBじゃないかな』
 と思って悩んだとします。
 ただし、どちらにも決め手はない。
 そんなとき、どちらを選びますか?」

うーん‥‥。
そういうときはたいてい、
最初に選んだものが
合っているような気がします。

「どうしてそう思いますか?」

ぼくの経験ですが、
直したことで後悔することのほうが
多かったと思うので。

「ああ、はいはい。
 ぼく自身も、高校の先生から
 言われたことがあって
 『そういうときは第一印象に
 従ったほうがいいんだよ』と言われて、
 そういうものかと思っていたんです。
 ところがね‥‥」

ところが。

「なんでも研究している人はいるもので、
 結論から言いますと、
 統計学的にいうと『変えたほうがいい』。
 マークシートの問題を解かせた後に、
 最初に選んだ選択肢を消して
 他の選択肢に変えた数を数え上げて
 統計的に分析をしたんだそうです。
 すると、『正解→間違い』の数よりも
 『間違い→正解』の数の方が多かった」

えっ! 変えたほうがいいんですか?

「確率的な話でもあるので、
 解答を変えれば
 必ず正解になるわけではないけれど、
 統計学的には、変えたほうがいいという
 結論にたどり着いたようです。
 じゃあ、なぜ君のように
 最初の選択肢を選びたがるかというと、
 それは、人間の記憶の癖だと思います」

見事にハマってしまいました。

「選択を変えて間違えたほうが、
 人は悔しいんですよ。
 変えて正しかったということだって
 多々あったはずなのに、
 記憶に残りにくいんですよね。
 それよりも、迷った結果、
 変えて失敗したほうが頭に残る。
 印象が強いほうが数も多いと
 誤解してしまうんですよね。
 受験生のみなさん、
 そういう研究結果があるということも
 ぜひ覚えておくといいと思います」

そうなんですね。
たしかに悔しい思いをしてきました。
2018/08/23 20:56

質問に答えていただきました。

shinya.hirano
2018/08/23 20:56

質問に答えていただきました。

shinya.hirano
ほぼ日読者から届いた
質問に答えていただきました。

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大学2年生です。
現在私が興味がある分野が、
就職などに全く関係がないのですが、
どのように今の勉強と将来を
結びつければいいのでしょうか?
(因みに私が興味がある分野は
英語統語論です)
よろしくお願いします。

(やぎ)

ーーーーーーーーーーーーー

長瀬先生は大学生からの相談を
受けることも多いのではと思うのですが、
学問と就職の関連性について
教えていただけますでしょうか。

「大学という場所はもともと、
 就職に直結するような、
 実用的な勉強をする場では
 なかったんですよね。
 就職というのは実は目先のことで、
 いつか教養を勉強しておけばと
 思う時期がやってくるようです。
 これはアメリカの研究なのですが、
 人生を重ねていく中で
 『勉強しておけばよかった』
 という後悔が多くを占めるようです」

たしかに、お話をうかがっていても
勉強しておけばよかったという後悔が、
どんどん大きくなっています。
先生が学生を見ていて、
就職について感じることはありますか。

「ぼくが学生を見ている限りでは、
 どんなジャンルの仕事であっても、
 ゼミの勉強をしっかり取り組める人は、
 就職活動もしっかり取り組める人が
 多い気はします。
 卒業論文を書くのだって大変ですよね。
 いろいろと調べたり、
 時間をかけて文献をしっかり読んだり、
 そういうことがきちんとできる人は、
 仕事に向き合う姿勢も
 おのずと身についてくると思います」
2018/08/23 20:35

昔から勉強は
好きでしたか?

shinya.hirano
2018/08/23 20:35

昔から勉強は
好きでしたか?

shinya.hirano
先生はこどもの頃から
勉強は好きだったんでしょうか?

「ぼくは小学生の頃、
 終業式が終わって家に帰ったら、
 その日のうちに夏休みの宿題を
 終わらせるような子でした。
 面倒くさい宿題が
 ずーっと残っていることが嫌で。
 いまでもつながっていると思うのは、
 嫌いなオカズは先に食べて、
 心を落ち着かせてから、
 おいしいものを食べるという性分なんです」

勉強の好き嫌いとは別に、
そういう性格だったんですね。

「アメリカで何十年も前から
 研究されている『マシュマロ・テスト』
 という実験を知っていますか?
 幼稚園ぐらいの子に向かって、
 大人がこう問いかけるんです。

『君にマシュマロをひとつあげよう。
 ただし、いまから15分間
 食べずに待つことができたら
 マシュマロを2個あげるね』

 この実験で、待てる子もいれば
 我慢できずに食べちゃう子もいます。
 ここからがおもしろくて、
 10年、15年と追跡調査をすると、
 15分我慢できた子のほうが、
 いい仕事に就いている割合が高いんです。
 個人差があるので一概には言えませんが、
 短期的な目先の利益よりも、
 長期的な利益を選ぶことができた、
 ということも言えるんでしょうね」
2018/08/23 19:56

成功事例は嘘をつける

shinya.hirano
2018/08/23 19:56

成功事例は嘘をつける

shinya.hirano
長瀬先生は、
なぜ経営の失敗に興味があるんですか。

「ぼくが興味を持っているのは、
 うまくいかないところなんです。
 なぜ調子のよかったはずの企業が、
 どこかで調子を崩して倒産したり。
 自分で意思決定するときにも、
 決めたはずなのにクヨクヨしたり、
 後悔してしまったりするんだろうって。
 『行動意思決定論』という分野は、
 当時はまだ学問として成り立って
 間もない頃だったんですよね。
 それでも英語の論文を読んでみたら
 おもしろいなと思って、
 いつの間にかたどり着いたのが
 行動意思決定論だったんです」

うまくいかないことを
分析できる学問なんですね。

「成功者を語るときに気をつけたいのが、
 たしかに才能があったねとか、
 あの分野で優れていただとか、
 後知恵のようにして
 いくらでも要因を付け加えられます。
 その要因を真似すれば
 誰でも成功できるかというと、
 まぁ無理に決まっているわけですよ。
 『決してくじけなかった』といって
 じぶんも『決してくじけない』と
 マネをしたところで、
 ぼくはビル・ゲイツにはなれません。
 成功物語を読むと心が高揚して、
 私も見習いたいと思うのですが、
 いくらでも付け加えられるんです。
 失敗物語は、数こそ少ないけれど、
 よっぽど得ることが多いと思います。
 企業の経営者の中にも、
 たまたま何かで成功したからといって
 自分の能力を勘違いして
 思い上がってしまう人もいますから」

なにかで成功した人は、
まわりからも才能があるように
見られるんでしょうね。

「人は、いくらでも嘘をつけますから。
 『Dr.HOUSE』という
 アメリカの人気ドラマが
 あるんですけれど、
 偏屈な医者が主人公で、
 不可解な症状で担ぎ込まれた病人の
 病気を推理していくんです。
 この主人公は、
 自分で患者を診ようともしないで、
 部下に指示をして検査をするんです。
 なぜ診ないかというと、
 『患者は嘘をつくからだ』と言う。
 たしかにそれは言えていて、
 症状や生活習慣を正直に言おうとしても、
 どこかで体裁を繕うとしてしまうんです。
 経営者だってあとになってみれば、
 本当はそうでもないのに、
 『歯を食いしばって頑張りました』
 と言えてしまうわけです。
 もちろん正直な人もいますけれど、
 人間の記憶ほど曖昧で、
 融通無碍なものはないんですよね」
2018/08/23 19:40

人間くさい学問

shinya.hirano
2018/08/23 19:40

人間くさい学問

shinya.hirano
長瀬先生が行動意思決定論に
興味を持ったのは、
東京大学にいた頃でしょうか。

「うーーーん、
 気づいたら意思決定論を
 研究していたんですよね。
 大学3年生で経済学部の
 ゼミを選ぶことになるのですが、
 当時のぼくには、
 経済学がどうも無機質に思えて、
 経営学の人間くさい感じに
 興味を持っていたんですよね。
 社会心理学も好きで、
 人文学部の心理学の授業も
 履修していたぐらいですから」

人間くさい感じ、というのは
どういうところなんでしょうか。

「ぼくが思うに、経営学者って、
 成功物語が好きなんですよ。
 スティーブ・ジョブズや
 ソニーの井深大さんだとか、
 本田宗一郎さんとか、
 名前を挙げたらキリがないですけど、
 どうやってイノベーションを起こしたか
 というところにばかり、
 注目をしていることが多いです。
 ぼくが興味を持っているのは、
 『なぜ成功したのか』ではなくて、
 『なぜ失敗したのか』なんですよ」

成功事例ではなくて、
失敗に目がいくんですね。
2018/08/23 19:33

直観と分析。
感情と理性。

shinya.hirano
2018/08/23 19:33

直観と分析。
感情と理性。

shinya.hirano
直観で判断をしても、
いいものなんですね。

「もちろん、直観で選んだものが
 すべて正しいというわけでもなくて。
 経験から学んだつもりが、
 変な学び方をしていることも
 多々あります。
 人間の意思決定に、
 『直観』と『分析』があるとしたら
 片方だけを信用するのではなくて、
 両方をある程度
 組み合わせるべきだと思います。
 日常生活の話にするなら、
 『感情』と『理性』と
 言い換えることもできますね」

経済学の話が、
ぐっと身近になった気がします。
2018/08/23 19:24

直観も意思決定。

shinya.hirano
2018/08/23 19:24

直観も意思決定。

shinya.hirano
「行動意思決定論は
 経済学の本流とはだいぶ違うんですよね。
 経済学はどちらかというと、
 理論重視の数学的に美しいモデルを
 構築していくことが優先されていたんです。
 そういった流れが長く続いた中で、
 実際の人間はどういうふうに
 行動するのかに着目して
 心理実験を踏まえたものが
 行動意思決定論という学問なんです」

ああ。たしかに、
合理的な判断をしたと思っても
間違ってしまいますもんね。

「たとえば、新しいアパートに
 引っ越した友達に、
 どうしてそのアパートを選んだのかを
 聞いてみるとしますよね。
 家賃や家の広さ、
 新しさとか駅の距離とか、
 迷う要素がいろいろありますよね。
 専門用語で『属性』というのですが、
 属性を点数化すればいいじゃないか、
 という話にすぐなるわけですよ。
 でも、その属性の合計点を
 比べてみたところで、
 その意思決定が正しいのかというと
 きっと納得できませんよね?」

ああ、たしかに。
決めようとしたはずなのに、
悩み続けてしまいます。

「点数化をしようとしても、
 属性の点数の決め方もあいまいですから。
 あらゆる選択肢がある中で
 すべて合理的な選択をするなんて、
 無理のある話なんですよね。
 こどもの頃によくやっていた
 『ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な』
 という選び方だって、
 決まりそうになったところで
 納得いかなければ途中で、
 『か・き・の・た・ね』
 なんて足してしまうわけですよ。
 結局のところ、
 直観やフィーリングに頼ってしまう。
 じゃあ、直観がダメなのかというと、
 じつはそうではありません。
 その人の経験に基づいた意思決定が
 直観とも言えるので、
 あながち馬鹿にできないんです。
 直観というものは、
 人間の無意識がいろんな要素を
 しっかりと考えた結論なわけだから、
 意外と信頼できるものなんですよ」
2018/08/23 18:58

テキスト中継を
再開します

shinya.hirano
2018/08/23 18:58

テキスト中継を
再開します

shinya.hirano
「ゲームの夏」の大将戦が
大接戦の末に終わりました。
いい試合だったんですよ。
ぜひ動画で見ていただきたいです。

くわしい結果については
ゲームサイドを見ていただくとして、
勉強サイドのテキスト中継に戻ります。
お待たせしてしまい、すみません。

写真は取材時のメモです。
さあ、長瀬先生のお話のつづきです。
2018/08/23 18:01

「ゲームの夏」の
大将戦がはじまるので

shinya.hirano
2018/08/23 18:01

「ゲームの夏」の
大将戦がはじまるので

shinya.hirano
同時並行でおこなっている
「ゲームの夏」の
大将戦がはじまるそうで、
呼び出されてしまいました。
のちほどつづきを更新しますね。

「ゲームの夏」の中継をご覧になって、
しばしお待ちください。
2018/08/23 17:48

意思決定論の研究方法

shinya.hirano
2018/08/23 17:48

意思決定論の研究方法

shinya.hirano
長瀬先生はふだん、
どのように研究を進めているのでしょうか。

「意思決定研究者が
 どんな実験をしているかというと、
 自分の授業で学生にお願いして、
 『あなたはこういうときに
 どういう意思決定を選択しますか?』
 という紙に書いたものを渡します。
 
 学生の集団をふたつのグループにわけて、
 質問用紙の中に1箇所だけ
 違う部分を用意しているんです。
 AグループとBグループで
 回答の差を統計学的に分析して、
 そこに差が出たなら、
 アンケートで設けた違いの部分が
 原因になったのだろうと
 推定できるわけです。
 その積み重ねをしていくことで、
 『人間の心理ってそういうものだよね』
 ということがわかってくるわけです。
 
 普通の人が一所懸命、
 合理的に意思決定をしたつもりでも、
 研究者からしてみると
 偏っていることがよくあります。
 その偏りを『バイアス』と呼びます。
 世界中の研究者が何十年も探求をして
 いろいろな名前の
 バイアスが見つかっています。
 ぼくはそれを研究しているんです」

ご説明ありがとうございます。
ぼくが大学時代に学んでいたことを、
振り返ることができました。