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2014/08/21 16:16 質問の続き。

あ、そういえば、さっきのメールの最後に
「子供が描く場合の構図の捉え方の
 コツなどあったら教えてください。
 例えばネコを描くのに、どこから描くかとか」
って、あったけど、どう?


「コツって、よく訊かれるけど、
 やっぱり、ほんとはないし、
 あるのかもしれないけど、
 あんまりぼくは興味がないなあ」

でもさ、いま、その横の席に、
6歳の女の子がいて、
猫がうまく描けなくて困ってたらどうする?


「うまく描かなくていいんだよ、
 って言うと思うよ」

でも、うちの娘とかもそうなんだけど、
うまく描きたいんだよ。


「だったら、いっぱい描けばって言うかな」

あー、いっぱい描くかあ。


「いっぱい描くって、
 好きじゃなきゃ描けないからね。
 いっぱい描けるほど描くことが好きだったら
 うまくなると思うよ。

 スポーツとかでもそうでしょ?
 いっぱい練習することと
 いっぱい練習するほど
 好きだっていうことがセットだから
 うまくなるんだと思う。

 うまく描けなくて悔しくて
 泣いちゃって描けないんだったら
 描かなくても、いいんじゃないかな。
 絵って、描かなくてもいいんだから。

 だから、絵って、
 いっぱい描いたほうがかならずうまくなる。
 100枚描いた人よりも、
 1000枚描いた人のほうが‥‥
 いや、それだと100枚でも
 うまくなっちゃう人はいるから、
 10枚描いた人よりも、
 10000枚描いた人のほうが
 絶対、うまくなると思うよ」

10枚絵を描いた人よりも
10000枚絵を描いた人のほうが、うまくなる。


「うん。そう思います」

2014/08/21 15:54 6歳の娘さんの
絵についての質問。

淡々と描いていくヒロセ先生に
メールで寄せられた
相談に答えてもらいました。


「ヒロセ先生に質問です。
 娘(年長6歳)が絵の習い事に通ってます。
 描いた絵を上手だね〜と
 褒めてばかりだったのがいけなかったのか、
 上手に描きたい、という気持ちが強く
 写生用の写真を選ぶときも
 『簡単そうなの』基準で選んでます。

 自宅で何かを描く時も
 前に褒めらた絵を何回も描いたり、
 一度私に下絵を描かせてから
 それを見本に描いたりしてます。

 もっとのびのびと描いて欲しいし、
 自分に自信をもって欲しいなと思います。
 どうしたらいいでしょうか?

 また、子供が描く場合の
 構図の捉え方のコツなどあったら
 教えてください。
 (例えばネコを描くのに、
 どこから描くかとか)

 (サラママ)」


「こういう言い方をすると、
 せっかくメールをくださったのに
 失礼かとも思うんですが、
 全体に、親のエゴなのでは、と思います。

 たとえば、『のびのび描くべき』というのも
 それはそれで、どこかで刷り込まれた
 窮屈な考えだったりします。

 いただいたメールで、
 ぼくがいちばんいいなあと思うのは
 娘さんが何度も絵を描いてることです。
 何度も絵を描いてるということは
 絵を描くのが好きだということです。

 もっと年齢が上だったらまた別ですが、
 6歳の子が『ほめられたい』って
 もう、本能に近いことだと思います。
 ほめられたくて絵を描く、
 いいんじゃないでしょうか。
 
 ほめてばかりだったから、と
 メールにありましたが、
 すごくいいことだと思います。
 同じ絵を何度も描くのも
 とってもいいことだと思いますよ」

2014/08/21 15:48 見てれば描けるんだよ。

ヒロセ先生の
「見てれば描けるんだよ」
の話は続きます。


「たとえばさ、こうやって、
 指先を突き出したような絵を
 正面から描かなきゃいけないとするじゃない?
 こう、指先を遠近法で大きくして、
 ピントをどう表現しようとか、
 考えてたら、すっごい難しいよ。

 でも、たとえば、それを写真に撮ってさ、
 その写真をよく見てとらえたら、描けるんだよ。
 
 絵を描くときに、
 こういう部分が難しいとか、
 このへんが苦手とか、
 いろいろあるかもしれないけど、
 やっぱり、根本的には、
 『見足りない』からだと思う」

2014/08/21 15:42 いかに見てるか。

いまの線はどうしてそう描いたのか、とか、
うまくいかないときどうするかとか、
描いてるヒロセにいろいろ訊いたのですが、
答えは、だいたい、同じでした。

「よく見てるかどうか。
 ちゃんと見てるかどうか」


「描きたいものをちゃんと見ること。
 どうなってるか見てれば大丈夫。

 たとえば、描けてない人って、
 描いてる絵を見てたりするんだけど、
 重要なのは、『描きたいもの』のほう。
 だから、この絵でいうと、
 描いてる絵を見てる割合と、
 実際の写真を見てる割合って、
 3:7くらいで、
 ほとんど写真を見てるから」

2014/08/21 15:15 描くときに大事なことは‥‥。

描きながら、大切なことを、
ヒロセ先生は、ぽつりぽつりと
話してくださいます。


「絵っていうのは、
 手で描いてるようだけど、
 ほんとは『目』なんだよ。
 どんだけ対象を見ているか。

 たとえば、こうやって人の顔を描くと、
 輪郭、目、眉、鼻、口って、
 そういうふうに描いていくと思うんだけど
 たとえば、ほっぺたってあるけど、
 ほっぺたのこのくちのそばと、
 ほお骨のてっぺんのあたりと、
 その中間のところとかって、
 ぜんぜん違うんだよ。
 でも、そこに『頬』っていう
 名前がついているから
 『頬』で考えちゃう。
 『鼻』だって、いろんな部分が集まって
 『鼻』なんだよ。

 とくに名前のついているもの、
 目とか、口とか、眉とか、
 そういう名前のあるものは
 先入観なしに見るようにしないと描けない。

 目はこうだよね、って先入観に流されて
 なんとなく描いちゃうと
 絶対、いい絵にはならない。
 だから、目を描くときも、
 『目』って、ほんとにそうか? って疑って
 ひとつひとつ追いかけて描かないと」

2014/08/21 15:09 描いていきます。

ライトテーブルから
下絵を下ろし、描いていきます。
用意した鉛筆は、5本。
B、2B、4B、6B、10B。

「鉛筆は、もう、好みだよ。
 俺はこんな感じが描きやすい。
 メーカーによって描きやすさも
 いろいろだけど、
 俺はuniがつかいやすいから」

2014/08/21 14:47 トレースします!

トレースするときに、
なにか大切なことはありますか?

「うーーーん、とくに‥‥。
 まあ、陰影を気にしながら。
 でも、ふつうにやってOKです」

と言いながら、
さささささっと描いていくヒロセ先生。

2014/08/21 14:43 実際にトレースを。

「トレースしましょう」が
たいへん痛快なお答えでしたので、
ちょっと実践してみようか、
ということになりました。

ま、アンパンマンでもよかったんですけど、
ちょうど描くことになっていたという
マイケル・ジャクソンの絵を
トレースして描いてみることにしました。

写真をプリントアウトし、
トレース台というか、
ライトテーブルに乗せます。


「ライトテーブルがなかったら
 窓ガラスを利用してもいいですよ」

2014/08/21 13:31 つづいての質問


大人の私ですが、質問させて下さい。
何か具体的なものを写生するのはすきですが、
抽象的なものを描くのが苦手です。
小学校6年生の時に夏休み中に
学年代表の何人かが
絵を描いてくるように言われました。
私もその中に選ばれたのですが
「ぼくのまち わたしのまち」
という抽象的なテーマに困ってしまいました。
なんとか提出したものの、
「あなたはもっとできると思っていたのに」
と言われてしまいました。
大人になった今でも(どんな絵を描こうか)
と考えてしまいます。
先生ならどんな絵にしますか?
また、このような抽象的なテーマのときは
どう考えて取り組めばいいでしょうか、
コツのようなものがあれば教えてください。
(みさみさ)


「これは、絵に限ったことではないですが、
 『どう見られるか』ということを
 気にしすぎると、
 どうやっても苦しくなります。
 月並みな言い方になりますが、
 評価を気にせず『たのしんで描く』。
 これに尽きると思います。
 
 ぼくの娘もいま一浪中で
 美大を目指しているんですが、
 ぼくが娘によく言うのは、
 『苦しい絵って見たくないでしょ?』
 っていうことです。

 絵を見て、苦しくなりたくない。
 苦しい思いをしながら描いた絵は
 どうしても苦しくなります。

 誤解してほしくないのは、
 『たのしい』を伝えるのが
 たのしい絵じゃないっていうことです。
 たのしさとか、感情とか、
 ぜんぶなしにして、超越して、
 没頭して描くのが、たのしいんです。
 
 笑いながら描けばいいわけじゃないし、
 明るい絵を描けということでもない。
 ものをつくるという、
 基本的な『たのしさ』を
 大切にするということです。

 極端にいえば、ピカソのゲルニカだって、
 たのしんで描いていると思います。
 つくりだすという行為をたのしむことが
 どんな絵を描くときも重要です。

 質問に戻ると、
 『ぼくのまち わたしのまち』というのは
 言ってみれば、つまらないテーマです。
 そこにはきっと、
 大人が期待している答えがあります。
 その期待する範疇のものを描くと
 ほめられるんでしょう。

 ほめられることがすごくたのしいなら
 それはそれで描けばいいですが、
 ぼくは、そんな、大人とのやりとりは
 あんまりおもしろくないですから、
 平気でたのしんで
 好きに描いちゃうと思います。

 そもそも、絵にテーマとか意味とか、
 もとめた時点で、もう違うような気がします。
 絵は、見た瞬間に、意味とかことばを
 超えていかないと、いい絵じゃないと思う。
 脱線ついでに、
 ぼくの好きな絵描きのことばを。
 
『なぜ人はその絵の意味を知りたがるのだろう。
 鳥のさえずりの意味を知ろうともしないのに』」

2014/08/21 12:53 さっそく質問が。

ええと、この絵のコーナーでは、
実際にヒロセに絵を描いてもらって
それを追っていこうと思っていたのですが
こんな質問が届きました。
メール、ありがとうございます。


ヒロセ先生、こんにちは。
絵について教えていただけると
伺ってメールしました。
絵を描くのがずっと苦手でした。
学生時代はなんとかやり過ごしたのですが
困ったのは姪っ子が生まれてからです。
アンパンマンやばいきんまんを描いてと
可愛い顔でねだってくるのです。
下手だからと言って描かない訳にはいかないのです。
どうしたら上手く描けるのでしょうか。
コツを教えていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
(ほーちゃんのおばさん)


「トレースすればいいと思います」

えっ?


「アンパンマンの上に紙を重ねて、
 トレースすればいいと思います」

あの、先生、なんていうんでしょう。
そういうことって、やっちゃいけないことでは?


「ぜんぜん。やっていいと思います。」

いや、うまく描けるかもしれないけど、
その、美術的にはどうなんですか。


「美術史的に言って、まったく問題ありません。
 人類は500年前からトレースをしています」

ええっ!


「500年前くらいの
 スーパーリアルと言われる絵は、
 ほとんどがピンホールカメラを
 つかったトレースです。
 対象を設定して、壁に穴を空けて、
 反対側の壁に映った絵をなぞるんです。
 アングル、フェルメール、
 そして、近代のウォーホル‥‥」

ヒロセ先生はデイビッド・ホックニーの
『秘密の知識』という本を見せてくれました。


「ほとんどの『リアルな名画』は
 こういった技術をつかってます。
 おもしろいのは、それによって、
 西洋の美術の技術は
 飛躍的に上昇したってことです。
 で、さらにおもしろいのは、
 こういうスーパーリアルな絵が
 150年前くらいから減っているってこと。
 なぜか。カメラが発明されたからです。
 つまり、『そっくりな絵』というのを
 もとめられなくなった。
 ある意味、カメラの発明によって、
 絵は『見たまんまのリアル』から
 解き放たれたんです。
 だから、150年前から、
 絵はどんどん自由になって、
 おもしろくなっていったんです。
 ほんものそっくりに描くよりも、
 なにをどう表現するかが重要になったから」

はーーーーー。先生、すごい答えだ。


「つけ加えると、東洋では、
 トレースという概念がありませんでした。
 だから、日本画なんかだと、
 とにかく、対象を何度も何度も描く。
 何度も何度も見て描いて、
 見なくても描けるくらいになってから
 本番として描く。
 そういう流れがあるから、みんな、
 『トレースはダメ、ずるい』みたいな
 イメージがあるのかもしれないね。
 アンパンマンの話に戻ると、
 上手に描いてあげたいなら、
 トレースしていいと思う。
 で、これも大切なことだけど、
 アンパンマンを100回、
 真剣にトレースしたら、間違いなく、
 アンパンマンを描くのがうまくなると思う。
 見なくても描けると思いますよ」

ああ、すばらしい回答です、先生!