イタリア・トスカーナ州の海水浴場フォルテ・デイ・マルミにて
「写ルンです」にて撮影

考えてみたら、この連載も
ちょっとご無沙汰となってしまいました。
暑い毎日が続いていますが、みなさんお元気ですか?

この長いお休みの理由のひとつを一言で言えば
「デジタルはちょっと便利すぎる」
ということでした。

こんなお話をするのは、
少し照れくさかったりもするのですが、
実はちょっと悩んでいました。
それこそ、スランプとかそういう種類のものではなく、
もっと根本的な問題とでもいえばいいのでしょうか。

最近では、カメラといえば「デジカメ」、
やもすればカメラといえば「スマホ」
というような時代です。
しかも、撮ってすぐに
TwitterやFacebookに投稿することが出来たりもするし、
メールやLINE、などなど、
コミュニケーションのかたちも大きく変貌しています。

もちろんそれはそれで
すごく楽しいことでもあるのですが、
ときどき、あまりにも早すぎて、
そして、あまりにも便利すぎる。
そのことにちょっととまどっていた自分がいました。

そんな中で、どのようなかたちで
写真の話をしたらいいのか、
あれやこれやと考えながら、
この連載もお休みしていたのですが、
ここへ来て、ようやくぼくなりに
すっきりと解決しましたので、
連載を再開することにしました。
あらためて、よろしくお願いします。

今日の空 より

そもそも写真というのは、
その時の光景を、瞬間を、しっかりと記憶しておく、
そして記録しておくためのものとして
進化してきた歴史があります。

以前にもお話ししたことがあるように、
写真という言葉の原語である「PHOTOGRAPH」は
「PHOTO = 光の粒子
 GRAPH = 平面図」
なのですから、
写真にとって光というのはとても大切なもの。
光をしっかりと取り込むために、
レンズも進化してきました。
ところが現在、撮影した写真を
コンピュータで簡単に加工できたりすることもあって、
どんどん別のものになって行っているようにも思います。
ぼくはそのことに大きな疑問を持っていましたし、
強い違和感を覚えていたりしていたのですが、
今、ようやく「それはそれで、いいじゃないか」
と思えるようになりました。

不思議なことに、それを教えてくれたのは、
他でもない「写ルンです」でした。

そうです、あの「写ルンです」です。
もしかしたら、現在発売されているカメラの中で、
もっとも廉価で、もっとも単純な構造のフイルムカメラ。
現在発売中の一般的な
「写ルンです シンプルエース」というカメラは、
レンズは、プラスチックレンズ1枚で構成される、
32ミリの画角。
露出は、絞りf10、
シャッタースピード1/140秒。
距離はもちろん固定焦点で、
1メートル~無限遠。
さらに1m~3mまで届く
強力なフラッシュも付いています。

ぼくはもともと、この「写ルンです」が大好きで、
特に旅先で手に入れて、
ことあるごとに使っていました。
こんなスペックなのにもかかわらず、
商品名のとおり、本当によく写ルンです。
昨年末にも、ぼくが部長をしている
“東京観光写真倶楽部”で
「写ルンですワークショップ」を谷根千で行ったのですが、
その後、3月に毎年東京都庁で開催している
「わたしの東京」にて
およそA3ぐらいの大きさにプリントして
展示をしたところ、ぱっと見は、
ふつうのフイルムカメラで撮ったものと比べても、
まるで遜色がありません。
考えてみたら、それはそれですごい技術ですよね。

そんな展示を観ながら、
ふと「やってみよう」と思ったのが
「写ルンです」で「今日の空」を撮ろう、
ということでした。
「今日の空」は、ぼくが毎日欠かさずに続けている試みで、
毎日、空の写真を1枚だけ撮るというものです。

ぼくはずっと「写真はプリント」と思って
写真をやっていますので、
ウェブコンテンツとしてスタートした
「今日の空」ですけれど、
何度かプリントを試みたことがあります。
けれども、なかなか、思ったようなプリントが作れません。
(今まで、1枚もうまく行っていません。)

だったら、と、今年の5月からデジタルカメラをやめて、
「写ルンです」で「今日の空」を撮り始めました。

出来上がった写真たちを観ていると、
なかなかいい感じです。
(1本撮り終えるのに1〜2週間かかり、
 そこから現像、取り込んで‥‥となりますから、
 撮ってすぐに観る(観てもらう)ことが出来るという、
 ウェブコンテンツとしての魅力は
 半減してしまいましたが。)

昨今のデジタルカメラは、
どこかで情報量の多さを競っているところがありますが、
プラスチックレンズ1枚で撮影された「写ルンです」は、
情報量が、とても少ないのがはっきりとわかります。
しかし、情報量が少ない分、
そこにある光が、そこにある主題が、
はっきりと写っているように感じるのです。

もちろん露出も固定ということもあり、
万能というわけではありませんが、
光が満ちあふれる世界では、
かなり魅力的に写ってくれます。
そして毎日「写ルンです」を使って写真を撮っていると、
変な言い方ですが、つくづく
「写真を撮っている」という感じがするのです。
そして、これがまた、すごく楽しいのです。

そうして「写ルンです」を使っている中で、
あらためて、本当の写真の楽しさのようなものを、
ぼくは、取り戻すことが出来ました。
これからこの連載では、
その中ではっきりと知ることが出来た、
「写している」と「撮れている」のちがいなどを、
ひとつひとつ、ゆっくりお話しできればと思っています。

もし今、なんとなくでも
「写真って、なんなのだろう?」と迷っている方がいたら、
ぜひとも、一度「写ルンです」を使って
撮ってみてください。
きっと、その答えのようなものが、ヒントのようなものが、
その写真の中から見つけることが出来ると思いますよ。

イタリア・トスカーナ州の海水浴場フォルテ・デイ・マルミにて
「写ルンです」にて撮影

おっと、補足です。
「写ルンです」を現像に出すとき、
「同時プリント」はせずに
「CD」を焼いてもらってください。
その方がパソコンで、すぐに確認出来ます。

2014-08-29-FRI