第8回 知的な好奇心のエレキギター。
パトリック 最近、少しずつですけど、
『TED』や『TEDx』のやり方に興味がある方から
会社や事業のコンサルティングを
頼まれることが増えてきていて、
明日もいろんな会社の社長さんとか
大使の方などが集まる場所で、
そういった話をする予定があるんです。
それで、何を話そうかなって考えてたんですけど、
会社に「TED」のような場をつくって
みんなのアイデアが、
自由に生まれて広がるようになったら
すごく面白くなるんじゃないかなって。
明日はそんな話をしようかなと思っているんですが。
糸井 ああ、いいですね。
パトリック そして、その話の最後に話そうと決めているのが
「IREE」ということなんですね。
この「IREE」というのは、
これからの会社やこれからの生き方において、
さまざまな場面で問いかけるとよさそうな
4つの質問の頭文字をとったものなんですけれど。
糸井 はい。
パトリック 1つめが「それはおもしろいか」
(Is it Interesting?)
2つめが「それは意味を成しているか」
(Is it Relevant?)
3つめが「夢中になれるか」
(Is it Engaging?)
とか「夢中になっている人はいるか」
(Is the person Engaged in it?)
4つめが「人々がエンパワーされているか」
(And are the people Empowered?)

(※「エンパワーされている」
 直訳は「力を与える、元気にさせる」ですが、
 この問いかけの場面だと、
 「何かをやろうとする人々にとって、
 それをやれるだけの環境がととのっているか」
 というようなことで、具体的には、
 「やってもいいだけの権限があるか」
 「自由にやれるか」といったこと)
糸井 はーー、なるほど。
パトリック 私はこの4つが満たされていることが、
21世紀型の人々の姿勢であり、
21世紀的なものの考え方であり、
21世紀の人々のつながり方だと思っていて。
糸井 「おもしろいか」「意味を成してるか」
「夢中になれるか」「エンパワーされてるか」
いいですね、ほんとうに。
パトリックさんが、ご自身で、
この4つのことばにたどり着いたんですか?
パトリック ええ。
たとえば会社の一つ一つの仕事も、
この4つの観点から見ればいいんだと思うんです。
「そのプロジェクトはおもしろい?」
「そのプロジェクトは意味を成してる?」
「そのプロジェクトは夢中になれる?」 
「そのプロジェクトの環境はととのっている?」
とかって。
また、社長もみんなに聞けばいいんですよね。
「あなたの仕事のどこがおもしろい?」
「君の仕事はどのあたりに意味がある?」
‥‥とかって。
たとえば「意味があるか」ということでいえば、
今の学校で教えていることの8割は意味がないです。
もちろん、実際に生徒たちがそこで作り上げる
人間関係のことなどはさておいて、ですが。
糸井 うん。
パトリック 教えている内容はおもしろくもないし。
学んでいる生徒たち自身と関係がないし。
自分自身と関係がないことばかりだから
生徒たちは興味もない。まったく夢中になれない。
先生から生徒への質問もあまりないし、
生徒が自分で選べるなにかもあまりない。
そんなふうに、今のふつうの学校は、
まだ古い時代の教育システムのままです。
だから、私はその現状を少しずつでも、
21世紀の教育システムに変えていきたいんですね。
糸井 はい。
あの‥‥パトリックさんがまだ日本にいなかった
時期のことなんだけど、
ぼくが高校生のときに、日本で
エレクトリックギターの大流行があってね。
パトリック はい。
糸井 で、当時、音楽の時間っていうのは、
基本的に退屈なものだったんです。
おもしろいとはいえないような歌をみんなで歌って、
先生がオルガンで伴奏をして、っていう。
パトリック ええ。
糸井 ところが、そこに、エレキギターが登場したんです。
要するにビートルズが出たあたりの頃で。
そして、エレキギターが流行ったら、
音楽の時間をサボってた不良とか、悪い子たちが、
モテようとして、みんなエレキギターを買って。
みんな我慢して練習して、
楽譜とか読めないのにどんどん弾いていって。
で、サッカーとかと同じように大会があって、
そいつらが優勝したりもして。
『勝ち抜きエレキ合戦』というテレビ番組もあったし。
全然勉強のできない友達が、
急にギターの弾き方を教えてくれるやつになったりしてね。
で、そいつにはまたお兄ちゃんがいるから、
お兄ちゃんがどっかでまた習ってきて上達したりとか。
‥‥で、そういう中から
後々のスターが出てきたりしたんですね。
パトリック はい。
糸井 あの体験って、みんなにとっての、
最高の「学び」だったんですよね。
パトリック ああー。
糸井 そう、だから、そのときの、
知的な好奇心のエレキギターみたいなものが
これからのみんなの「学び」だったら。
そんなふうに思うんです。
パトリックさんが関わられている
「TED」や「TEDxTokyo」とかもそうですよね。
エレキギターのように、みんながおもしろがって、
そして、高尚なものに思われていた「学問」なんかが
一般的な普通の人たちの、生活の中に練り込まれていったら。
それが、これからの時代の「学び」の形だと思うんです。
パトリック ええ。
糸井 やっぱりものを覚えたり、
興味をもってトレーニングしていくっていうのは、
楽しければ、どんどん進むので。
たぶん知的好奇心だとか、学問だとか、
哲学だとかっていうものも、
そうやって街から生まれるものっていうのが
ぼくは本物だと思っている。
パトリック はい。
糸井 今日、パトリックさんに会うときに
どんな話をしようかなって
ぼんやり考えていたんですけど、
あ、これが伝えられたらいいなって思ったのが、
まさに、この話だったんです。
つまり、ぼくは、
「みんなが大学に行ける社会」が
それだけでいい社会だとは思わない。
それよりも
「大学や学びが街や暮らしのなかに
 ばらまかれている社会、
 練り込まれている社会」がいい社会だと思う。
そういう話ができたらいいなって思ってたんです。
ほんとに、そういう話が、最後の最後で、
できましたけど(笑)。
パトリック ふふふ。
糸井 それは、さっきパトリックさんが言った
4つのことばと同じ考えだと思いますよ。
パトリック はい。
‥‥今日は本当に
よい時間をありがとうございました。
会えてうれしかったです。
糸井 こちらこそ。
きてくださってありがとうございました。
言葉がね、ぼくがもっと上手にできるとね、
もっといろいろできるんですけどね(笑)。
パトリック (笑)
...next time English!(次回は英語で!)
糸井 (笑)
(パトリック・ニューウェルさんとの対談は 今回で終わりです。
 お読みいただき、ありがとうございました)

最後に、パトリックさんから教えていただいた、
「学び」にまつわる、8つのことばをご紹介して、
連載の締めくくりとさせていただきます。

The wisest mind has something yet to learn.
-George Santayana 1863-1952
賢い精神は学び続ける。(ジョージ・サンタヤーナ/哲学者)

Imagination is more important than knowledge.
-Albert Einstein 1879-1955
知識よりも想像力が大切なんだ。(アルバート・アインシュタイン/科学者)

Mistakes are the portals of discovery. -James Joyce 1882-1941
失敗は発見の扉。(ジェイムス・ジョイス/作家)

Seek the knowledge -Maori Proverb
知識を探し求めろ。(マオリ族のことわざ)

If you think you can do a thing or think you can't do a thing,
you're right.
-Henry Ford 1863-1947
できると思うにせよ、できないと思うにせよ、どちらもその通りになる。
(ヘンリー・フォード/フォード創設者)

The cure for boredom is curiosity. There is no cure for curiosity.
-Dorothy Parker
退屈を治せるのは好奇心である。ただし、好奇心につける薬はない。
(ドロシー・パーカー/作家、詩人)

Life can only be understood backwards;
but it must be lived forwards.
- Soren Kierkegaard 1813-1855
人生は振り返らないとわからないが、前向きにしか生きられない。
(セーレン・キルケゴール/哲学者)

As you live, believe in life. -W.E.B. Dubois 1868-1963
生きているんだから、人生を信じろ。
(W・E・B.デュボイス/アメリカ公民権運動の指導者)

2012年6月30日に行われた「TEDxTokyo」の様子から。
会場で数百人、また中継を通じて数万人の人々が
「Ideas worth spreading(広めるべきアイデア)」をたのしんだ。
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2012-07-10-TUE
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