ほぼ日行動食倶楽部
登山や山歩きの経験がない人にとって、
行動食(こうどうしょく)という言葉は
聞きなじみのないものかもしれません。

単なる、山で食べるおやつ、と思われがちですが、
じつは、安全に山を登りきるために欠かせない、
大切なエネルギー源。
つらいときに、あともうひと頑張りを後押ししてくれる
心の栄養でもあります。
山へ行けば行くほど、その重要性に気づき、
それを選ぶこと自体が
山歩きの大きな楽しみになっていくもの。

「ほぼ日行動食倶楽部」では、
そんな奥深くて愛おしい行動食の世界を、
さまざまな形で掘り下げていきます。
まずは2組のインタビューをお届けします。

第1回の聞き手は乗組員永田、
第2回はやすなです。
※2025年5月取材

文・谷山宏典
第1回 1日1あんこ? コミュニケーションツール?思った以上に重要な行動食の役割(希良さんと、乗組員やすなの場合)
写真
──
「尾瀬とほぼ日」という
プロジェクトがはじまりまして。
これまで登山や山歩きの経験がない乗組員も、
山の文化に触れるようになって、
装備を整えたり、尾瀬や尾瀬近辺の
山を歩いたりしているんですが、
新鮮だったのが「行動食」との出会いで。
やすな
はい(笑)
──
そもそものところでいうと、
やすなちゃんは、ほぼ日の乗組員になるまえに
山岳メディアの編集長を務めていたので、
尾瀬への持ち物リストをつくってもらったところ、
そのなかに「行動食」というのがあって、
未経験者が「なんですか、それは?」と。
で、調べてみたら、簡単にいうと山の中で食べる
「体力回復のための軽食」なんだけど、
何を持っていくのかはほんとに人それぞれで。
やすな
そうなんですよね。
──
まずはやすなちゃん、
「行動食とは?」というのを、
ざっくり語ってもらえますでしょうか。
やすな
登山ってけっこうカロリーを使うんです。
一般的には、山を歩くと、
体重(kg)✕歩く時間(h)✕5(Kcal)
消費するといわれています。
たとえば、50kgの方が4時間歩くと、
1000kcal使ってしまうので、
そのエネルギーを補給するために
こまめに食べるのが行動食です。
──
なるほど、なるほど。
小腹を満たすおやつというだけではなくて、
安全に歩くために欠かせないものなんですね。
まあ、そんなわけで、「行動食」って、
なんだかおもしろいから、いろんな人に
「私の行動食」を取材してみようと思ったのが、
今回の「ほぼ日行動食倶楽部」という企画です。
今日は、やすなちゃんと、
やすなちゃんの山ともだちである
モデルの仲川希良さんにお話をうかがいます。
よろしくお願いします!
希良
よろしくお願いしますー!
写真
[profile] 仲川希良

モデル・フィールドナビゲーター。広告、ラジオ、テレビなどに出演するほか、自然が大好きでアウトドア分野でも活躍中。アウトドア誌『ランドネ』の出演をきっかけに2010年より山に登るようになる。里山から雪山まで様々なフィールドに出かけ、執筆や講演、イベントの開催など、多方面から山の魅力や楽しみ方を発信し、「新しいフィールドへの一歩を踏み出すお手伝い」をしている。
やすな
よろしくお願いします。
──
それではまず希良さんにお聞きします。
「行動食にこれは欠かせない!」
という必携のものを教えてください。
希良
わかりました。私にとっての行動食って、
「自分がどんな状態でも
おいしく食べられるもの」
ということがなによりも大切で。
だから、自分がいちばん好きな、
あんこを使ったものは必ず持っていきます。
あんこだったら、どれだけ疲れていても、
どんな精神状態でも、絶対に食べられるので。
やすな
どんな精神状態でも(笑)。
希良
うん。行動食ってやっぱり、
疲れているときに元気をもらうものだから、
純粋に「自分が好きなもの」って選び方は
すごく大事かなと思っていて。
──
栄養とか、軽さ、じゃなく?
希良
山を登りはじめたころは
「軽いものがいいかな」と考えていたんですけど、
やっぱりあんこは欠かせないな、と。
あんこって、重さがあるから敬遠する人もいるけど、
私にとっては、重さ以上に
自分が元気になれるかどうかが重要で。
なので、「1日1あんこ」はマストなんです。
写真
──
1日1あんこ‥‥いい言葉ですね(笑)。
希良
あと、食べるタイミングも重要で。
1日の早い時間帯に食べるのではなく、
後半まで残しておくんです。
そうすると、疲れてつらくなってきても
「今日はまだ、あんこがある!」と思って、
がんばれるんです。
──
とっておきの切り札、みたいな?
希良
そうです!
「これがあれば、私はまだ大丈夫」という
絶対的な信頼感があんこにはあるんです。
やすな
私もあんこは好きで、必ず行動食に入れてます。
「いちごようかん」とか、「レモンようかん」とか
いろいろバリエーションを変えて。
写真
──
なんか、山のなかで食べる甘いものって、
チョコレートのイメージがありますが、
チョコは持っていかないんですか?
やすな
チョコはとけることがあるから、
あまり持っていかないですね。
希良
山でチョコがおいしく食べられる期間って
実は短いんです。夏はとけちゃうし、
冬は寒さでかたくなっちゃうし。
──
そうか、そうか。
そう考えると、あんこというのは
山の中で食べる甘いものとして
理にかなっているんですね。
希良
そうですね。
私は「大福」や「おまんじゅう」が
いちばん好きですが、
いっぱい汗をかく夏場は「塩ようかん」みたいな
水分が多めで、塩味が効いているものを
持っていってます。
やすな
あんこからは離れちゃうけど、
希良ちゃんって季節ものを
取り入れるのも上手だよね。
この前(春ごろ)一緒に登ったときは
「さくらのおにぎり」や「よもぎ餅」を
持ってきてたでしょ?
写真
希良
季節ものを入れると楽しいんだよね。
夏だったら梅とか、塩レモン。
秋になったら栗を使ったものや、
お月見があるのでお団子とか。
──
やすなちゃんは、 
必ず持っていくものはあります?
やすな
行動食と言っていいのかわかりませんが、
「アミノバイタル」はいつも
行動食のなかに入れてますね。
私にとっての「お守り」なんです。
写真
──
アミノバイタルは粉末のスポーツサプリですね。
水分補給のときに一緒に飲むってことですか?
やすな
基本は水と一緒に飲むものなんですけど、
私、水がなくても飲めるんです。
むしろ、水で流し込みたくない。
口のなかにこの味があると励まされるんです(笑)。
写真
希良
行動食を選ぶうえで、
「自分が疲れたときにどんな味を欲するか」を
知っておくことはすごく大事だと思います。
登山をはじめたばかりのころって、
それがまだわかってなかったから、
行動食として持っていったものの
結局、食べずに持ち帰るものが多かったんです。
やすな
たしかに。そういうことは登りながら
ちょっとずつ学んでいったよね。
──
ほかのものも見せてもらっていいですか?
希良さんのこの「トレイルミックス」(※)、
組み合わせがすごいですね。何が入っているんですか?
(※ 登山やアウトドアで食べる栄養食のこと。
一般に、軽くて持ち運びやすく、栄養価の高い
ナッツやドライフルーツをまぜたものが多い)
写真
希良
ええと、たとえばこれは「おから」を
ほんのり甘塩っぱくして揚げたお菓子で、
たんぱく質がとれます。
「ドライフルーツ」は食物繊維とミネラルが
豊富にふくまれています。
──
これは? 魚の骨?
希良
「魚の骨のおせんべい」です。
カルシウムがとれるのと、
歯ごたえが好きで入れています。
やすな
わかる! 行動食って、やわらかいのと
かたいのと両方の食感がほしいよね。
希良
かたいものをがりがりと噛んで
口を動かすことで満足感が得られるからね。
やすな
そういう観点だと、私は最近、
「バナナチップ」をよく入れているな。
希良
バナナチップはカリウムや食物繊維がとれるし、
ビタミンも豊富だから、行動食に向いてるよね。
──
ほかには‥‥これは「おやつ昆布」?
希良
昆布は色味を加えるためでもあるんです。
いろんな色の衣がついた豆菓子なんかも
持っていってます。
写真
──
甘いものも、しょっぱいものも、
ごちゃまぜなんですね。
希良
山をはじめたばかりの人の
やりがちな失敗として
「甘いものばかりで食べ飽きる」
ということがあるんです。
行動食はやっぱり、いろんな味や
食感のものがあったほうがいいと思います。
写真
やすな
トレイルミックスって
ナルゲンのボトルに入れてる人が多いけど、
希良ちゃんはなんで袋に?
希良
袋だと、そのときどきに
食べたいものを選びやすいでしょ。
食べ進めるにつれて、サイズもコンパクトにできるし。
──
なるほど。行動食って「どう持ち運ぶか」も
人それぞれのこだわりがあるんですね。
希良
夏の登山では「ミニトマト」や
「ブドウ」「ブルーベリー」みたいな
水分多めで、持ち運びがしやすい
野菜や果物も持っていきますね。
写真
やすな
山でゼリーもよく食べているよね?
希良
そうだね。これは「梅ゼリー」で
夏におすすめだよ。
ゼリーって凍らせておけば、
保冷剤代わりになるし、
山に着くころにはいい感じにとけて
シャリシャリ感も楽しめるので、
夏は凍らせて持っていくことが多いかな。
写真
──
やすなちゃんの持っている
ゼリー飲料みたいなこれは?
やすな
たまたま昨日もらって、
行動食にいいなと思って、
今日持ってきたんですけど。
「のむわらび」なんです。
希良
のむわらび餅!? はじめて見るかも。
写真
やすな
のどの渇きをいやしつつ、
お腹にもたまって、
ゼリー飲料みたいに食べやすい、という。
まさに山向きかなと。
希良
たしかに。おいしそう。
──
希良さんの行動食って、
お酒のつまみっぽいものも多いですよね。
希良
「うずらの卵」や「チーズ」ですよね。
常温で持ち運びができて、日持ちもして、
たんぱく質がとれるものってないかなと
いろいろ探すなかで、
行き着いたのがスーパーやコンビニの
おつまみ売り場だったんです。
写真
やすな
私もおつまみ売り場はよく使うかも。
希良
「魚肉ソーセージ」や「干し貝柱」
「ミニサラミ」とかも行動食にいいし、
山小屋に着いてからお酒を飲むときの
おつまみにもなるから、山では重宝するよね。
──
行動食を交換し合ったりすることはあるんですか?
希良
あります、あります。
やすな
毎回「今日は行動食、何、持ってきた?」
みたいなやりとりはあるよね。
ちなみに、この「白エビビーバー」は
能登で買ってきたお菓子で。
希良
こういうローカルなお菓子が出てくると
「能登、どうだった?」みたいな話になるよね。
──
なるほどー、
行動食は交流のツールにもなっているんですね。
やすな
だから、私、仕事でいろんなところに行って、
「これ、行動食にいいな」っていうものがあると
買ってストックしておくことが多いんです。
次の山の行動食として。
希良
たしかに、やすなさんって、
どこかの地域のおみやげものだろうなっていう
おしゃれなお菓子を
山に持ってきているイメージがあるかも。
やすな
ときどき、賞味期限があやしいけどね(笑)。
人にあげることを考えているから
持っていく数も、
一緒に登る人数によって変えています。
これは希良ちゃんに2個あげて、
自分も2個食べたいから、4個にしよう、とか。
希良
私も同じかな。
でも、「1日1あんこ」は
絶対、人にあげない(笑)。
これは自分のためのものだから。
写真
──
誰かにあげる分をのぞいて、
自分用として持っていく量はどのぐらい?
やすな
山での行動時間や
休憩の回数をざっくりと考えて、
すこし余るぐらいの量を
持っていってます。
希良
私も多めですね。
あまったら、帰りの電車の
おつまみやおやつにもなるので。
やすな
そう考えると、行動食って
実際に行動しているときだけではなく、
登山の一連の行程を通じて
「常に自分たちのテンションを支えてくれるもの」
だと言えるかもしれないです。
希良
本当にそうだね。
山でのたのしみの大きな部分を
占めているものだよね。
(ほぼ日行動食倶楽部、次回もおたのしみに!)
2026-07-31-FRI