世の中、すっかり、「パンダ」が人気です。
    そこで、というわけでもないのですが、
    パンダのコンテンツです。
    ただ、上野のシャンシャンは登場しません。
    和歌山のアドベンチャーワールドで暮らす、
    パンダたちの写真集が出たんです。
    タトゥーの入った外国人のスケーターが
    トリック決めてる写真が満載の、
    かっこよくて、ジャーナリスティックな
    『Sb』というスケボー雑誌がありまして、
    そこの編集長・小澤千一朗さんが、
    人知れず、何年も何年も、
    アドベンチャーワールドに通いつめており、
    ここに、100%愛くるしいパンダの写真集を
    お出しになったのです。
    え、意外。あの小澤さんが‥‥パンダ。
    そのあたりの事情について、
    小澤さんの盟友・写真家の田附勝さんと、
    じっくり語っていただきました。
    気合いの入ったアニキ2人による、
    全開パンダ・トーク。お楽しみください。
    担当は「ほぼ日」の奥野です。

    小澤千一朗(おざわ・せんいちろう)

    ライター/編集者。
    90年代、専門誌編集長として
    アメリカでのスケートボードカルチャーの取材を
    精力的にこなした後、
    2001年『Sb SkateboardJournal』を自身で刊行。
    以後、定期刊行するかたわら、
    ストリートカルチャーにとどまらず、
    多角的に国内外の媒体で活動を続けている。
    著書に、希少動物パンダのグラビア本
    『HELLO PANDA』
    がある。
    新著に、2018年1月22日発売の
    『PANDA MENTAL』

    田附勝(たつき・まさる)

    1974年、富山県生まれ。
    1995年よりフリーランスとして活動をはじめる。
    2007年、デコトラとドライバーのポートレートを
    9年にわたり撮影した写真集
    『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。
    2006年より東北地方に通い、
    東北の人・文化・自然と深く交わりながら撮影を続ける。
    2011年、写真集『東北』(リトルモア)を刊行、
    同作で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。
    その他の著作に、
    写真集『その血はまだ赤いのか』(SLANT/2012年)、
    『KURAGARI』(SUPER BOOKS/2013年)、
    『「おわり。」』(SUPER BOOKS/2014年)、
    『魚人』(T&M Projects/2015年)、
    俳優・東出昌大さんの写真集
    『西から雪はやって来る』(宝島社/2017年)など。

    第5回
    キチジローの対極にいる存在。

    ──
    ちなみに、おふたりを見てると
    「盟友」という感じがとてもするのですが、
    いつからお知り合いなんですか。
    小澤
    2018年で、知り合って20年です。
    田附
    あ、そう? よく覚えてんね。そうなんだ。
    ──
    出会ったときには、
    もう、すでに若き編集者と若き写真家で?
    田附
    そうだね、うん。
    小澤
    はじめて会ったときの光景は、
    もう、昨日のことのように思い出せますよ。

    当時から仲のいいスタイリストの友人と、
    どっか遊びに行こうって、
    南平台のデニーズで待ち合わせていたとき、
    「おもしろい奴がいるから連れてく」
    って、それが、田附くんだったんですよ。
    ──
    へえ。
    小澤
    当時の田附くんは、まだ20代の前半で、
    すごい痩せてて、
    コダックのバイテン(=大判フィルム)の
    紙焼き写真を入れたデッカい箱を
    3つも抱えて、デニーズに現れました。
    ──
    これから遊びに行くのに、その大荷物。
    小澤
    で、「田附です。写真やってます!」って言って、
    「俺、名刺ないんで!」って言って、
    写真の入ったその箱3つ、ドンと渡されたんです。
    田附
    デコトラ撮ってたころかな。
    小澤
    そうそう、で、「おお~!」って言いながら、
    僕はずーっと、田附くんの作品を見てた。

    で、田附くんは、僕のトイメンから動かずに、
    ずーっと「どうだ!」って顔して、
    こっちにらんでるんです。すごい圧でしたよ。
    ──
    初対面ですよね?(笑)
    それは、おいそれと忘れられない場面ですね。
    田附
    それ以来、友人になって、
    俺はスケートのことなんか知らなかったけど、
    それでも、俺にやれることの範囲で、
    写真の仕事を振ってくれたりもしたんだよね。
    小澤
    田附勝という写真家は、
    ひとつには、人間を撮る写真家ですよね。

    で、スケーターだって人間ですから、
    人間を撮るのに、
    スケートやってるかどうかは関係ないし。
    ──
    ええ、なるほど。
    小澤
    スケーターってよく「自由」って言うけど、
    そう言いながら、
    スケートやってるかやってないかに、
    けっこう、とらわれている場合があります。

    でも、僕は、
    スケートをやっていようがやっていまいが、
    スケーターを撮っていようがいまいが、
    ちゃんと汗を撮れる人にお願いしたくって。
    ──
    汗。それで、田附さんに。
    小澤
    だから、東北の津波のあとの写真なんかも、
    田附くんにお願いしてますし。
    ──
    津波?
    田附
    震災の写真って、
    俺、基本、どこにも出していないんだけど、
    唯一、小澤くんの『Sb』に。
    ──
    あ、そうなんですか。

    震災の何年も前から
    あれだけ東北に通っていて、
    撮ってないはずはないと思ってましたけど。
    田附
    友人だし、信用できるし。
    小澤
    僕ら「ホープ号」って呼んでるんですが、
    2011年に出した『Sb』の巻頭に、
    田附くんの撮った
    震災の写真を、使わせてもらったんです。
    田附
    やっぱり、スケーターだろうがなかろうが、
    地震と津波を食らってるわけで。

    だから、スケート雑誌かもしれないけれど、
    「よければ俺の写真、貸すよ」って。
    小澤
    雑誌なんで、広告もらってつくるんです。

    震災が起こって、
    スケートの各メーカーさんも募金はじめ、
    スケートシューズとか服とかを、
    支援で東北に送ったりされている中で、
    逆に、僕は、
    「そのメーカーさんから、
     お金をもらって、雑誌をつくるのか?
     このときに‥‥」
    って、きれいごとかもしれないけど、
    本気で「廃刊」も考えていたんです。
    ──
    そうだったんですか。
    小澤
    そのとき、田附くんに
    「そういうときこそ、
     小澤くんはどういう雑誌をつくるのか、
     見せるべきじゃなんじゃないの?
     そのためにやってきてんじゃないの?」
    ってガツーンと言われて、
    「僕、甘かったなあ」と思ったんです。
    ──
    面と向かってはアレかもしれませんが、
    田附さんは、
    小澤さんのことを、どう思ってますか。
    田附
    こんなこと言うと偉そうなんだけどさ、
    これからやる人だと思うよ。

    つまり、スケートの雑誌を出す一方で、
    パンダの本を出したわけだけど、
    小澤くんには、
    また別に、やりたいことがあるんだよ。
    ──
    と、言いますと。
    田附
    これは昔から話しているけど、小澤くんは、
    文章とか小説とか、自分の書いたもので、
    誰かの心を揺さぶることをしたいんだよね。

    だから、
    これは別に自分が偉いとかじゃなくって、
    「俺はもう少し先を歩いてるよ」
    「だから、はやくこっち来いよ」って感じ。
    小澤
    うん。
    ──
    まさに「盟友」という感じがします。
    田附
    ただ、友だちだろうが何だろうが、
    そこは自分で上がっていくしかないじゃん。

    だから、この小澤千一朗という人が、
    このパンダの本を足がかりにどうなるのか、
    突き放しても見てるし、
    楽しみにも待ってるみたいなところはある。
    小澤
    田附くんが、木村伊兵衛賞を獲ったとき、
    深夜のミスタードーナツで、
    「もう俺は行くけど、お前どうすんだ?」
    「まぁ、期待はしてないけど、夢見てる」
    って言われたんです、田附くんに。

    僕、その言葉、いちばんの突き放しであり、
    同時に、いちばんのエールだと思って、
    今だに忘れないし、
    だから、いつか僕に何かできたとき、
    またミスタードーナツ行きたいと思ってる。
    ──
    深夜の。
    小澤
    うん。
    田附
    そうだね。
    ──
    でも、今日のお話をうかがってみて、
    『HELLO PANDA』って、
    まさに小澤さんのつくった本ということが、
    よくわかる本だと思いました。
    田附
    うん、小澤千一朗のメッセージが出てるし、
    小澤千一朗以外につくれない本だし、
    小澤千一朗って人は、
    ここから、何かがはじまるんだと思う。

    まぁ、見てる人には関係ないことだけどね。
    ──
    でも、小澤さん、小説を書きたいんですね。
    本とか、好きそうですもんね。
    小澤
    いやあ、それがぜんぜんそうじゃなくて、
    僕も田附くんも、
    遠藤周作の『沈黙』が好きなんですけど、
    それだって、僕の部屋で、
    それまであんまり本を読まなかった僕に、
    「これ読め!」って、
    無理矢理、僕の顔面に押し付けるように。
    ──
    遠藤周作の『沈黙』を。
    田附
    昔ね。
    小澤
    それから僕、
    めちゃくちゃ本を読むようになったので、
    それも、田附くんのおかげなんです。

    きっかけになった『沈黙』にもハマって、
    もう10年以上前かな、
    スコセッシが『沈黙』を映画化するって
    聞いたときも、
    ふたりでハイタッチしてよころびました。
    田附
    いつ観れるのかね、なんて話したりして。
    やっと出来上がったら、ぜんぜんダメで。
    ──
    あ、そうですか。何がダメでした?
    田附
    ま、つまんねえってことだよ。
    小澤
    この人、ハッキリ言う人です(笑)。
    田附
    逆に、遠藤周作の文章が、
    いかに素晴らしいかっていうことが、
    よくわかると思いました。
    小澤
    僕らの期待が大きすぎたってこともある。
    田附
    うん。
    ──
    ちなみに『沈黙』のよさって、何ですか。
    パンダの話から逸れまくって恐縮ですが。
    田附
    自分が思うのは、やっぱり、
    人間のふがいなさを描いてるところかな。

    ひとつの幸せで
    すべてが幸せになるわけじゃないし、
    ひとつの不幸で
    すべてが不幸になるわけでもない‥‥
    何て言えばいいのか、
    読んでると、
    「人間、やっぱりそんな簡単じゃねぇよ」
    って感じが、真実だなあって思えるんで。
    小澤
    物語の中に、何度も人を裏切ったり、
    信仰を捨てたりする
    キチジローって人が出てきますけど、
    自分の中に、
    どこかキチジローみたいな人がいるのを、
    感じるんですよ。小狡さとか。
    田附
    うん。
    ──
    映画では窪塚洋介さんが演じた役ですね。
    小澤
    そういう、僕たちみたいな人にとっては、
    全編に渡って、
    脳みそカユい感じで読まなきゃなんない。

    決して気持ちのいいストーリーじゃない。
    ──
    はい。
    小澤
    で、そのキチジロー的なるものの対極に、
    パンダがいると思うんですよ。
    田附
    おお、おお(笑)。
    ──
    戻ってきた(笑)。急に(笑)。
    小澤
    まわりに対する「媚び」もないし。
    田附
    ああ、たしかに。
    小澤
    「ゆるしてください。ゆるしてください」
    とも思ってないわけでしょ。パンダは。
    ──
    小澤さんの言葉を借りると、
    「ただ、自分らしく生きているだけ」で。
    小澤
    はい。急にパンダに戻してすみませんが。
    ──
    いえ、いいです。
    ビックリはしましたけど(笑)。
    小澤
    でも、ほんと、そんな動物だと思います。
    僕の思う「パンダ」って。

    <終わります>

    2018-01-16 TUE

    めくってもめくっても、パンダ!
    小澤千一朗さんの
    『HELLO PANDA』 発売中。

    上野のシャンシャンのパンダ・フィーバーも、
    まだ起きていなかった、2017年6月。
    発売されるや、
    その「パンダづくし」が静かな話題となって、
    増刷を重ねてきた、小澤さんのパンダ本。
    文句なく愛くるしいパンダの写真と、
    そのパンダへ向けられた、
    著者・小澤さんの、愛あるまなざし。
    アドベンチャーワールドのパンダたちの姿を、
    徹底的に「写真、写真、写真!」で、
    たっぷり堪能できるパンダ・グラビア本です。
    また、1月26日には、
    『HELLO PANDA』のスピンアウト本である
    『PANDA MENTAL』も発売決定。
    同じくアドベンチャーワールドで暮らす
    3歳の双子のパンダ桜浜・桃浜と、
    1歳の子パンダ結浜をフィーチャーした一冊。
    全52ページで定価も「600円+税」と
    コンパクトなつくり、気軽に手に取れる仕様。
    小澤さんによれば
    「パンダってかわいいな、たまらないなぁと、
    ふわっと優しくなれる、
    スモール・プレゼント・フォー・ユーな
    パンダ・グラビア本です」とのこと。
    ご興味ありましたら、こちらも、ぜひとも。

    小澤千一朗『HELLO PANDA』
    Amazonでのおもとめは、こちらからどうぞ。

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