第4回
    パンダをリスペクトしている。

    ──
    この先、田附さんがパンダを撮ることは‥‥。
    田附
    俺? ないだろうね。
    ──
    即答ですね(笑)。
    田附
    でも、小澤くんのパンダの本を見てるとさ、
    あらためて
    パンダを見に行こうかって気にはなるよね。

    いま、自分は、
    どんなふうにパンダを見るだろうなあって、
    そんなふうには思う。
    小澤
    でも僕は、いつか、田附くんといっしょに、
    中国の山に入ってみたいです。
    ──
    おお!
    小澤
    で、そこで野生のパンダの写真を、
    写真家・田附勝に撮ってもらいたいんです。

    それがどれくらいのことかっていうと、
    日本の写真家で、
    野生のパンダを撮ったことのあるのって、
    たぶん岩合(光昭)さんだけなんです。
    ──
    田附勝が撮る、野生のパンダ。
    それは、ぜひ見てみたいです。
    小澤
    田附勝と仕事するなら、命懸ける覚悟で、
    撮れるのか、撮れないのか‥‥
    パンダに出会えるまで
    山から降りないつもりでやりたいですね。
    ──
    これまたアツいパンダ本ができそう。
    小澤
    田附くんが夜の東北の森に入っていって、
    闇に光る動物の目玉を撮った
    『Kuragari』って写真集があるんですが、
    その延長線上にあって、
    僕のパンダ本の延長線上にもあるような。
    ──
    ああ、なるほど。
    おふたりの仕事が交差するパンダ本。
    小澤
    たぶん、そういう勝負のほうが、
    田附勝には向いてるし、
    やらせたい、やってほしいっていうかな。
    田附
    それ、本当にできたら、やりたいよ。

    野生のパンダを、本来の場所で撮るって、
    いちばんぜいたくだし、
    自分も見てみたいし、知りたいよね。
    ──
    パンダって、何頭くらいいるんですか。
    小澤
    野生のパンダで、確認されている数では、
    たしか「1800頭」くらいですかね。
    田附
    ああ、そういう数なんだ。
    ──
    その1800頭が、
    中国の山に点在するように住んでいる?
    小澤
    そうです。人間に把握されていない、
    本物の野生のパンダもいると思いますが。
    ──
    小澤さんは、無類のパンダ好きとして、
    野生のパンダに会いたいと思いますか。
    小澤
    会ってみたいですね、それは。
    田附
    でも、1800頭しかいないパンダを
    中国の山の中で探すのって、
    めちゃくちゃ難しいんじゃないの?
    小澤
    基本的に単独で行動してるからね。

    だから、
    『ナショナル・ジオグラフィック』の
    エイミー・バイターリという女性写真家はじめ、
    世界中からいろんなチームや写真家が
    トライしてるけど、
    そんなには撮影できてないと思います。
    ──
    ナショジオと言えば、
    海底に沈むタイタニック号を発見したり、
    空中都市マチュ・ピチュの存在を
    はじめて世界に紹介したり、
    腕っこきのエクスプローラー集団ですが、
    そんな彼らでも撮影には苦労していると。

    本当に「希少」なんですね、パンダって。
    小澤
    まあ、そうですね。希少という意味では、
    WWF(世界自然保護基金)の
    アイコンマークになってるくらいですが、
    知れば知るほど、パンダって
    すごい生物だなと思うようになりました。
    ──
    すごい?
    小澤
    僕は、ある意味、
    もう半分狂ってるかもしれないですけど、
    リスペクト入ってます。
    ──
    パンダに。
    小澤
    はい。
    田附
    どういうところを、リスペクトしてんの?
    小澤
    まず、氷河期の前からいた動物なんです。

    で、当時は雑食で、
    肉も食べていたそうなんですが、
    ものすごく乱暴に言うと、
    肉食を放棄して、
    他の動物が食べない竹を食べはじめて。
    ──
    あ、それで過酷な氷河期を生き延びた?
    小澤
    そうそう、そうなんです。

    結果、地球に氷河期がやって来たとき、
    動物は凍え死んで、
    植物も枯れちゃうような状況のもと、
    寒さに強い性質のある竹を食べて、
    生き残ったらしいんです。
    ──
    そんなサバイバーだったんですか。
    パンダって。意外‥‥。
    小澤
    で、こんどは、人間によって
    平地の竹が伐採されていって、
    竹やぶが、
    どんどん山の奥に追いやられて行くと、
    自分たちも、
    どんどん山の奥に入っていくんですよ。
    ──
    竹やぶを追うようにして。
    小澤
    これは、僕の勝手な解釈なんですけど、
    パンダって、そうやって、
    「あ、どうぞ、どうぞ」って
    周囲の自然や生態系に道を譲ってきて、
    食料やら、居住地域やら、
    自分の選択肢を減らしていった結果、
    「竹」とか「山の奥」とかに、
    いきついたんじゃないかと思うんです。
    ──
    なるほど。
    小澤
    元パンダの飼育員さんに聞いたんですけど、
    パンダって、好き嫌いも激しくて、
    ニオイやら硬さやらで選り好みしまくって、
    大量の竹を用意しても、
    そのうち、
    実際に食べるのは半分もいかないそうです。
    ──
    なんたるグルメ。
    小澤
    「じゃ、お気に召さない竹ばっかりの場合、
     どうするんですかね?」
    って聞いたら、
    「もしかしたら餓死を選ぶかもしれない。
     それほど好き嫌いが激しい」って、
    その元パンダの飼育員さん、言ってました。
    田附
    そうなの?
    小澤
    発情期だって「1年に1日」しかないのに、
    そこでも選り好みがあるから、
    たまたま出会ったオスが気に入らなければ、
    「その年、ナシ!」みたいな。

    だから、野生のパンダのことを調べてくと、
    どんどん自らの選択肢を狭めて、
    どんどん絶滅に向かっているような気さえ、
    してくるんですよ。
    ──
    ほんとですね。
    小澤
    で、そこへきて、
    誰もが放っておけない愛らしさを持ってる。

    その唯一無二のルックスのおかげもあってか、
    保護動物となり、
    結局、細々ですが生き残ってきましたよね。
    ──
    子どもが生まれたら大フィーバーです。
    小澤
    他の生き物を踏みつけてでも
    生き残ってやろうって執念を感じないのは、
    パンダ本人としては、
    ただ単純に、
    自分らしく生きてるだけなんでしょうけど、
    まわりが、放っておかないんです。
    ──
    ええ。
    小澤
    そんな動物に、
    僕ら人間、絶対に敵わないと思うんですよ。

    なんなら、僕ら人間は、
    自分を含め「かまってちゃん」ばっかりで、
    「かまって、かまって! わたしを見て!」
    ってやりながらも、
    ぜんぜんフォロワーが増えない人もいる中、
    「わたしを見ないで、放っといて」って、
    どんどん、山の奥へ引っ込んでってるのに、
    絶対に放っておけない存在‥‥。
    ──
    それが、パンダ。
    小澤
    そんなスターがいますか、他に?
    ──
    いない‥‥と思います。
    小澤
    いないんですよ、パンダ以外に。

    生存期間で比較したら、
    恐竜より長生きしてるんですよ、パンダは。
    ──
    おお。
    小澤
    そんなに長生きしてるのに、ずーっと
    「絶滅しそう!」って心配されてるんです。

    どんだけ、われわれ人間が、
    未来永劫の繁栄を願っていたとしても、
    限度あると思うんですが、
    どうです、
    ちょっと乱暴な言い方をあえてしますけど、
    この、絶滅しそうだけど唯一無二な動物。
    田附
    狂ってるよね(笑)。いい感じで。
    ──
    他では聞けない、
    情熱のパンダ論をうかがいました。
    小澤
    ええ、だから、僕、そういった意味では、
    そこまで考えてるほど、
    おかしくなっちゃってますんで、
    今みたいな文章が、
    かわいいパンダの本に載ってたとしたら、
    鬱陶しいじゃないですか。
    ──
    たしかに(笑)。
    小澤
    だから、なるべく、そういうこと言わずに、
    できるだけ、
    パンダのかわいい写真だけでつくりました。
    ──
    ああ、話は、そこへ戻ってきたんですね。
    小澤
    鬱陶しい思いだとか考えをぐるぐるした結果、
    「もう、かわいいいだけでいいや」
    「目が離せないってだけで十分だ」
    ってとこに落ち着いたのが、この本なんです。
    ──
    はい、にじみ出てます。

    <つづきます>

    2018-01-15 MON

    © HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN