あの会社のお仕事。 気になる会社に 素朴な疑問をどんどんぶつける。  六花亭製菓 編
いまや年商「80億円」を売り上げる 「マルセイバターサンド」で有名な、六花亭製菓。 北海道は帯広に根を張り、 全国展開していない「地域企業」であるのに、 全国から入社希望の学生が集まり、 たびたびビジネス誌に取り上げられる、不思議な会社。 地元の人からは 「嫁にするなら六花亭」と言われるほど、 その「好かれかた」は 単なる「おいしいお菓子屋さん」を超えてます。 そこで、六花亭ファンの「ほぼ日」乗組員 奥野・スギエ・田口の3名が帯広本社におうかがいし、 小田豊社長に、お話を聞かせていただきました。 知りたかったのは、 なぜ六花亭は人気があるのか‥‥そのひみつ。 ちょうど「お菓子の開発会議」がはじまったところ
第1回  お菓子の開発会議を見せてもらいました。
第2回  「おやつ屋さん」であること。
第3回  なぜ六花亭は人気があるのか。
第4回  マルセイバターサンド。
第5回  とらや。
第6回  お菓子の街の、お菓子屋さん。
 
第1回  お菓子の開発会議を見せてもらいました。
 
小田社長 被告人、前へ。
開発のかた はい。
小田社長 今日はこれだけ?
開発のかた そうです。
小田社長 それじゃあ、いきますか。
開発のかた よろしくお願いします。
小田社長 ああ、で、こちら、糸井重里さんとこのみなさん。
東京から、はるばる来ました。
── よろしくお願いします!
開発のかた よろしくお願いします。
小田社長 あれ、写真撮るの?
── はい、あの、できましたら‥‥。
小田社長 お菓子の写真?
── はい、あと小田社長の‥‥。
小田社長 ぼくの顔? そりゃダメだよー。
── え、ダメですか。
小田社長 載らんのがいいねぇ。
── どうしても‥‥ダメです‥‥か?
小田社長 だって、恥ずかしいじゃない。
── わかりました。

幸い、カメラマンの田口が絵も少し描けるので
今回は「イラスト」で行かせていただきます。

(というわけで、今回の取材は
 基本、田口のイラストでお届けいたします)

開発のかた じゃ、まず、これから‥‥。
小田社長 これね、奥野(註:ほぼ日乗組員)さんね。
── はい。
小田社長 たんなるブラウニーなんだけど‥‥(ぱくっ)‥‥。
開発のかた ‥‥。
開発のかた ‥‥。
小田社長 ‥‥ま、味はよし。
開発のかた ありがとうございます。
小田社長 たださぁ、これ、マモル(開発のかた)。
マモルさん はい。
小田社長 さっき情報を読んだけどさ、これ、何で切ってる?
マモルさん 包丁です。
── あの、お話中、もうしわけございません、
「情報」とおっしゃいますと
六花亭の全社員が
毎日、小田社長あてに出しているという
「一人一日一情報」のことですか?
小田社長 うん、いや、まぁ、パートさんも含めて
全社員が
そういうのを出す権利があるってだけなんだけど。
── でも、たくさん来るんですよね?
小田社長 今日で650から700(通)くらいかな。
── 多いときですと‥‥。
小田社長 800を超える日とかもありますよ。
── すごい‥‥それって、
ぜんぶ読むのに、どのくらいかかるんですか?
小田社長 朝の8時から11時までが、情報を読む時間。
── はあー‥‥ちなみに、どういう情報が?
小田社長 まぁ、それはほんとに、いろいろですよ。

接客してる販売員から
お店にこんなお客さまがいらして
うれしかっただとか、
工場の現場から
ソフトクリームのフリーザーが壊れただとか
改善したい問題点とか‥‥。

‥‥で、ユアサさ(開発のかた)、
このブラウニー、包丁で切ってるんだな。
ユアサさん 包丁です。
小田社長 それがいちばんいいわけ?
ユアサさん 包丁じゃないと、端がすこし欠けちゃうんです。
小田社長 ‥‥ブラウニーって、欠けちゃうとダメなのか?
ユアサさん いや、そういうわけじゃないんですが‥‥。
小田社長 すこし欠けてるくらいのほうが
表情があって、いいと思うけどなぁ。

それとも、もっと大きくするか?
どうだ、ミツハシ?
ミツハシ
さん
わたし、大きくても食べれます。
小田社長 ‥‥あのね、奥野さんね、
こいつがまた食うんですよ、このミツハシ女史が。
オレの5倍ぐらい。
ミツハシ
さん
5倍は言い過ぎだと思います(笑)。
小田社長 これくらいが丁度いいんじゃないかって
ぼくが言っても、
彼女は
「いや、社長、これじゃ足りません。
 もっと大きくしてください!」って
必ず論争になるの。
お菓子の大きさをめぐって(笑)。
── そうなんですか(笑)。
小田社長 逆に言うと、
彼女がたくさん食べないお菓子はダメだね。
── なるほど、優秀なモニターなんですね。
小田社長 そう、うちのパックンちゃん。
ミツハシ
さん
おかしな名前つけないでください(笑)。
── 今、切る道具にこだわっていたのは、
どうしてなんですか?
小田社長 ブラウニーってのは、切るときに
どうしても欠けやすいんですよ、固いから。

あ、ひとつ召し上がるといい。
── (待ってましたとばかりに)いただきます!
‥‥おいしいです。
小田社長 食べてみたらよくわかると思うんですけど、
上の部分が固いもんだから、
このままだと、
包丁でひとつひとつ切っていかないと
ポロポロ欠けちゃうし、
売りものにならない「ロス品」が出ちゃう。
── もったいないですね。
小田社長 だからといって包丁で切ってたら、
効率が悪いでしょう。

それで困っちゃうわけなんだけど‥‥。

つまり、もっと大きくすれば、
ナントカカッターでも、いけるんじゃない?
ユアサさん はい‥‥いけると思います。
小田社長 だったら、そっちのほうが表情が出るし、
大きくしようよ。

なるべくポロポロしない寸法を出してさ。
ユアサさん わかりました。
小田社長 味はいいから。はい次。‥‥ああ、これか。
マモルさん 3日目です。
小田社長 3日目ね‥‥(ぱくっ)‥‥まあ、いいか。
‥‥これはね、奥野さんね。
── はい。
小田社長 見てのとおりチーズケーキなんだけど、
下の生地が、
どうしても湿気ってきちゃうんですよ。
── なるほど。
小田社長 ついでに1個食べる? はい、どうぞ。
── ありがとうございます! ああ、美味しい。
小田社長 いや、まだうまくない。
── うまくない?
小田社長 ま、ふつうだ。
── これでふつうですか?
小田社長 うん、ふつう。

この下の生地がさ、奥野さんね、
日に日に、水分を吸っちゃうんだよね。
当然なんだけど。
── じゅうぶん美味しいと思ったのですが。
小田社長 いや、まだうまくない。

彼らがいろいろと試行錯誤して
3日目でも食べられるようになっただけ。
── さすが社長、きびしいですね。
小田社長 だいぶましにはなってきたんですよ。

まぁ、とうぜん、
1日目がいちばんうまいわけだけど。
── ははー‥‥。
小田社長 でさ、これ、バターが効いてんの?
何でこんなに平気なわけ?
ユアサさん 最初に空焼きをしたんです。
小田社長 ああ‥‥なるほどね。
じゃあ、例のあのチョコレートを塗ったら‥‥。
ユアサさん もっと「もつ」と思います。
小田社長 その手でいこう、ユアサ。
ユアサさん はい。
小田社長 なんとか、いけそうだわ。1月のお菓子で。
ユアサさん はい、ありがとうございます。
── (他の乗組員に)‥‥充分おいしいよね。
小田社長 いいや、まだうまくない。もっと良くなる。
たぶん「酸味」だと思うよ。
ユアサさん 酸味‥‥ジャム、挟んでみましょうか?
小田社長 ああ、それで味がしまってくるんじゃない?
やってみよう。

生地のほうは、オッケーだから。
── すみません、味の判断は、小田社長が?
小田社長 イモ・クリ・カボチャ、コーヒー以外は、
ぼくですね。最終的には。
── その4つは‥‥。
小田社長 ぼくにはわからないの、キライだから。
── あ、なるほど(笑)。
ちなみに、ここで味が固まったら、その次は‥‥?
小田社長 名前を決めて、担当者が値段を計算して、
お菓子になって店頭に並ぶ、と。
── その、お菓子ができあがっていく過程に、
何か一貫した「ポリシー」のようなものって
あるんでしょうか?
小田社長 うーん、あるとすれば、値段についてのことかな。

今の六花亭をつくった父(小田豊四郎:初代社長)が
よく言っていたことなんですけどね。
── はい。
小田社長 「このお菓子で100円ほしいと思ったら、
 値段は95円にしろ」って。
── ほー‥‥。
小田社長 足りない5円は、自分たちの努力で補えと。

お客さまから100円をいただかないで、
「もう5円」は、
自分たちで知恵をしぼったり、
一生懸命、はたらくことによって補えと。
── ははー‥‥少し前にベストセラーとなった
勝間和代さんのビジネス本には
たしか、正反対のことが書いてありました。

顧客単価を1円でも上げることが重要、と。
小田社長 まぁ、一般的にはそうなんでしょうね、きっと。

でも、ぼくらは、父の代からずっと、
このことを考えのベースにして、やってきたから。
── なるほど‥‥あ、そうか、だから、
六花亭さんのお菓子のなかには
「5円」のつく商品が、いくつかあるんですね。
小田社長 単品で35円の「ずいずいずっころばし」とか
75円の「ごろすけホーホー」とかね。
── あれは「5円づつ引いてた」んですね。
小田社長 まぁ、そうです(笑)。
── ほんとは80円もらいたかったんですね。
小田社長 ま、そう言われりゃ、そうです(笑)。

<つづきます>
 

01 六花亭本店

JR帯広駅の北口から徒歩数分、六花亭の本店。

ファンの間では有名な話なのだが、
この店には「賞味期限3時間のパイ」がある。

なにしろ買ってから「3時間以内」に
食さねばならないため、
とうぜん、東京の物産展などにも出ない幻のパイ。
いったい、どんなお味なのであろうか‥‥。

六花亭を愛するわれわれ取材班としては、
ぜひとも、食べておかねばならない一品である。

ついにこのときが来た‥‥。
来ましたね‥‥。
スギエ 来たわ‥‥。
一同 こんにちはー!
店員さん いらっしゃいませ!
── すみません、こちらに
「賞味期限3時間のパイ」があると聞いて、
東京からやって来ました。
店員さん はい、当店の「サクサクパイ」のことですね。

厳密に言いますと、賞味期限ではなくて
「サクサク」を楽しんでいただくには
ぜひ3時間以内に召し上がっていただきたい、
というお菓子なんですけれど。

ついに我々は「サクサクパイ」と待望の初対面を果たした。
── おおー‥‥こちらですか! 1本140円。
すでにおいしそうです!
店員さん ふふふ。
── さっそく、弊社の
「食べるフォトジェニック」との
異名を持つスギエに食してもらいましょう。
スギエ はーい、今回の出張は、
おもにこのために来ました。
いただきまーす! ぱくっ!
スギエ えっ!? うわー‥‥。
── ど、どうですか、スギエさん!?
スギエ ‥‥サックサクです。
── やはり‥‥。
スギエ サックサク〜! 
でも、この中のクリームって、何ですか?
店員さん ふつうのカスタードクリームです。
スギエ えっ、本当にふつうの?
── 美味しいんですか? 美味しいんですか?
スギエ 美味しい‥‥。
店員さん ありがとうございます。

本当にふつうのカスタードクリームなのですが、
バターの代わりに
ショートニングを使うお菓子屋さんも、
よくあるんです。

六花亭ではバターしか使っておりませんので
そういった部分でのちがいは、
あるかと思います。
スギエ ははー‥‥。この「サクサクパイ」って
1日にどのくらい売れるものなんですか?
店員さん ふだんは、そうですね‥‥300本ですとか。
スギエ 300本!
店員さん 夏場などの繁忙期ですと
1日に1000本などということも。
スギエ 1000本!
店員さん この本店はじめ、
厨房設備の整っているお店で作って
販売しているのですが、
その時期、1人はもう
「絞りっぱなし」状態ですね。
スギエ カスタードクリームを? 絞りっぱなしって‥‥。
店員さん あまりないことなんですが、
もし1時間、ショーケースに入ったままだったら
その商品は下げてしまいます。
スギエ それは、サクサクのために?
店員さん サクサクのために。
スギエ すべては、サクサクのために‥‥。
── なるほど、作ってから1時間以内に売っているから
「買ってから3時間」と案内できるんですね。
店員さん ちなみに、こちらの「雪こんチーズ」は
「買ってから2時間以内」をおすすめしてます。
スギエ こんどは2時間? 急がなきゃ!
店員さん このココアビスケットが湿気ちゃうまえに
召し上がっていただきたいので。
── ちなみにこれは、
あの「雪やこんこ」から、着想を得て?
店員さん はい。あちらは、ココアビスケットに
ホワイトチョコレートをサンドしていますが‥‥。
スギエ ええ、ええ、そうですね。
店員さん ベイクドチーズケーキをサンドしたら
どうなるんだろう、と。
半信半疑で試したら「あ、いける」と。
スギエ ははぁ‥‥。半信半疑で試した人とは?
店長 社長です。
スギエ 小田社長‥‥さすがだわ!
── スギエさん、そろそろ食べてみてくださいよ。
スギエ え、いいですか? それじゃあ遠慮なく‥‥。
いただきまーす! ぱくっ!

六花亭本店

所在地  北海道帯広市西2条南9丁目6
問合先  0120-012-666(六花亭お客様相談室)
営業時間 9時〜19時

 
2010-04-12-MON
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「あの会社のお仕事。」シリーズ コクヨ株式会社篇
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小田豊社長の「ことば」も載ってます!

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN