あの会社のお仕事。 気になる会社に 素朴な疑問をどんどんぶつける。  六花亭製菓 編
 
第5回  とらや。
 
── たんなる印象でしかないのですが‥‥。
小田社長 はい。
── 今回の取材に備えていろいろ調べていたら、
お菓子屋さんって、
「互いにリスペクトしあってる感じ」が
ちょっとしたんですけれど。
小田社長 やっぱり、おいしいものは、おいしいからね。
── 「小川軒のレイズン・ウィッチ」のお話も、
「ウエストのホットケーキ」のお話も、
まずは「尊敬」が、あるわけじゃないですか。
小田社長 ええ、それは、そうですよね。
「うわ、これ、いいなぁ」‥‥というね。
── ええ、ええ。
小田社長 全国を見てみれば、
まだまだすごいお菓子がたくさんありますよ。
── たとえば‥‥。
小田社長 佐賀の北島さんの「丸ぼうろ」とか。
── ああ、あのサクっとしてて、ほんのり甘い‥‥。
小田社長 うん、知ってる?
── ええ、知ってますけど、
社長が「すごいお菓子」とおっしゃるので、
もっと派手な、というか‥‥
なんと言いますか、ちょっと意外でした。
小田社長 けっして華やかな感じはしないけど、
ぼくは、素朴で、すごくいいお菓子だと思う。
── 他には、ございますか?
小田社長 信州の竹風堂さんの、一連の栗菓子。
あのあたりなんか、いいですよ。
── 栗きんとんの「栗かの子」で有名な老舗ですね。
小田社長 柳月さんのバウムクーヘンとかね。
── ああ、六花亭とライバルのように言われている、
同じ帯広のお菓子屋さんですね。
小田社長 カステラなら、九州の福砂屋さん。
── はい、あの、しっとりした口当たりの‥‥。
小田社長 京都の満月さんの「阿闍梨餅」も好きだし。

土佐の「君よ知るや南の国」という会社の
フルーツゼリーは、
うちじゃとうてい真似のできないお菓子だから、
六花亭の店に置かせてもらってます。
── え、他のお菓子屋さんの商品を
仕入れて売っているんですか?
小田社長 うん、あのゼリーは、うちじゃムリだから。
── はー、おもしろいですねぇ。

お菓子やさん同士のお付き合いとかも
あるんでしょうか?
小田社長 いろいろ、情報交換はしていますよ。

たとえば、このあいだも
竹風堂さんの新しいお菓子ができたんで、
「食べて意見くれない?」なんて。
── そんなこともあるんですね。
小田社長 やっぱり「持ちつ持たれつ」なんですよ。

以前、竹風堂さんには、
わたしどもの「どら焼き」を教えて差し上げた。

そしたら、お得意の「栗のつぶあん」が入った
どら焼きをお作りになって。

非常に好評のようで、よかったんですけれども。
── ええ、ええ。
小田社長 逆にね、竹風堂さんには「栗おこわ」がある。

とってもいい品だなあって思っていたから、
六花亭でも、何とか
北海道らしい「おこわ」を作れないかなあと
思ってたんですよ。
── はい。
小田社長 それで、試行錯誤して、豆のたくさん入った
「十勝強飯」ってのをつくった。
で、竹風堂さんにお送りしてみたんです。

そしたら
「小田さん、ここはもうちょっと
 こうしたほうがいいんじゃない?」なんて
アドバイスをくださったり。
── やっぱり、
互いに尊敬がないとできないことですね。
小田社長 まぁ、お菓子にたいする考えかたとか
価値観を共有できる人とは
お付き合いが深くなっていきますよね。
── そう言えば、以前、糸井と松山に行ったとき、
「一六タルト」の玉置泰社長が
六花亭のことを
「知れば知るほど、いい会社なので、
 よーくお話を聞いてきてください」って。
小田社長 ありがたいことです。
── で、そのとき、
六花亭で、息子さんが働いていたって言ってました。
小田社長 ええ、いらっしゃいましたよ。
── それは、つまり、武者修行と言うか‥‥。
小田社長 うちには、しょっちゅう、いらっしゃいますよ。
── 他にも、お菓子屋さんの息子さんが?
小田社長 最近だけでも、5〜6人いたかなあ。
── そんなに。
小田社長 成田山の「なごみの米屋」からも来てたし‥‥。
── 羊羹で有名な老舗ですね。
小田社長 それから、金沢の「うら田」という
和菓子屋さんからも来てたし、
柿羊羹で有名な
岐阜・大垣の「つちや」の息子さんもいたしね。
── みなさん、何年かこちらで修行されて?
小田社長 帰って、家業を継がれるんです。
── そういう関係って、すごくいいですね。
小田社長 ぼく自身も、大学を出たあと、
六花亭に入る前に
京都の「鶴屋吉信」でお世話になってました。
── そうなんですか。
小田社長 だから、逆に言えば、
よほど自分たちで切磋琢磨していないとね。

そういうお付き合いも、
させていただけなくなりますから。
── ああ、そうか、なるほど。
小田社長 全国のお菓子屋さんから来てくださるのは、
今、さいわいにも
六花亭には「魅力のあるお菓子」があると
同業さまから、
思ってもらえてるってことですからね。
── では、社長が誰かを修行に出すとしたら、
どの会社に、出したいですか?
小田社長 うーん‥‥(少し間)、むずかしいなぁ。
── では、理想のお菓子屋さん、でもいいです。
小田社長 それなら‥‥やっぱり、黒川さんのところかなぁ。
── 黒川さん?
小田社長 「とらや」さん。
── はー‥‥それは、どういう理由ですか?
小田社長 いちばんの理由は「続いてる」ということ。
── 続いてるというのは、お店が?
小田社長 とらやさんの創業って、1500年代でしょう?
── たしか室町時代ですよね。
小田社長 つまり、500年くらい続いてるわけです。
これだけですごいし、別格ですから。
── なぜ「続いていること」が、すごいんですか。
小田社長 今、空前の大不況だとか言われていて、
会社がバタバタ潰れているでしょう。
── ええ。
小田社長 さっきも言いましたけど、
うちだって例に漏れず、売上が落ちているんです。
── よく聞く表現だと「100年に一度の大不況」だと。
小田社長 そう、だから、今の「むずかしい時代」が
「100年に一回」なんだとしたら、
とらやさんは
「こういう時代」をすでに
「4回も5回も乗り越えてきてる」わけですよ。
── ああー‥‥。
小田社長 当然、たんなる経済の不況だけじゃなくて、
その間には、飢饉だって、
大地震だって、戦争だってあったんですよ。
── そうですよね。
小田社長 とらやの500年の「厚み」っていうのは、
想像できないほど、すさまじいですよ。
── 企業の目的は「存続」である‥‥とは
「ビジネス格言」的に、
よく言われると思うんですが、
とらやさんの「500年」って
ものすごい重みがありますね‥‥そう考えると。
小田社長 六花亭だって、今でこそ整理はついてるけど
売り上げに右往左往する時代もありましたよ。

一喜一憂していた時代がね。
── はい。
小田社長 先日、お菓子屋の集まりのときに、
とらやさんが、おっしゃったんですって、
みなさんの前で。

「うちも今、売上が1割落ちてます」って。
── ええ、ええ。
小田社長 でもね、その口調が、
非常に淡々としてたらしいんです。
── 500年もやってれば、
こんなこともありますから‥‥みたいに。
小田社長 だから、お菓子のことで言うなら、
六花亭も、
一時のファッションで終わることのない、
時の試練に耐えうるお菓子をつくりたい。
── なるほど。
小田社長 六花亭のお菓子のパッケージなどに
絵を使わせていただいている
北海道の画家・坂本直行さんの記念館を
「六花の森」という原生林に建てたんですが、
この事業なんかは、そういう考え。
── と、おっしゃいますと?
小田社長 六花亭のパッケージに描かれた草花で
いっぱいに満たされた森をつくる構想なんですが、
草花が根付くまでに、
まだ10年以上は、かかるんです。
── はー‥‥そんなに。
小田社長 つまり、ぼくの時代では完成しないわけです。

そういうようなものに
視点の置ける会社になりたいなと思ってます。
── でも、歴史が深い一方で、
六本木のミッドタウンに出店したりとか、
とらやさんて
おしゃれなイメージもありますよね。
小田社長 そうそう、そうなんですよ。
── たしか、今のパッケージデザインや広告、
お店のディスプレーなどの
クリエイティブディレクターをつとめているのは
サン・アドの葛西薫さんですし。
小田社長 あの‥‥とらやさんには
ゴルフボールのかたちをした最中があってね。
── ええ、はい、ありますね。
たしか「ホールインワン」という名前で。
小田社長 あれが作られたの、大正時代なんですよ。
── えっ、そんなに昔なんですか?
すごくモダンな感じがしますが‥‥。
小田社長 ようするに、まだ「ゴルフ」というものが
ほとんど世に知られてないときに、
あんなデザインの最中をつくっているわけ。

そういう「進取の精神」も兼ね備えてる。
── 当時は、かなり斬新な見た目の
お菓子だったんでしょうね。
小田社長 しかも、それが今でも、
何十年も続いてるわけですよ。
── ああー‥‥。
小田社長 斬新なデザインを
数百年という「厚み」が支えているからこそ、
一時の流行に終わらせずに
廃れず、何十年も、続けていけるんですよ。
── なるほど、なるほど。
小田社長 だから、ぼくが「自問自答」するときの
ひとつの座標軸として
「とらやさんだったら、こんなことするかなあ」
というのがあるんです。
── ええ。
小田社長 「ああ、しない、しない。
 やっぱりやめとこう」って(笑)。
── へぇー‥‥。
小田社長 時間に耐えうるものと、ファッション性と、
その両軸のバランスのよさ‥‥ですよね。

とらやさんが500年も続けてこられたのには、
続けてこられただけの、理由があると思う。

<つづきます>
 

05 六花文庫 その2

前回に引き続き、六花文庫の日浦さんに
おもしろそうな本を、紹介してもらっています。

まずは一見、何の変哲もないこちらの本。

『世界のジャガイモ料理事典』
── この本、どこがどんなふうに‥‥。
日浦 「著者」のところを見てください。
── 国際‥‥バレイショ研究所?
日浦 ええ、国際バレイショ研究所。
── そんな研究所が。
日浦 ペルーにあります。
── え? あ、それじゃ、ほんとに「国際」なんだ。
日浦 だから、正式名称というか、英語表記では
「International Potato Center」と。
── インターナショナル・ポテイトゥ・センター!
日浦 そんなところが出している
『世界のジャガイモ料理』のレシピ集なんです。
── ははー、つまり
ジャガイモ料理の「聖典」に当たる本だと。

ポテトパイ、マッシュポテトから
ジャガイモドーナツ、
果てはジャガイモキャンディーまで‥‥。
日浦 冷涼で痩せた土地でも育つジャガイモは
歴史上、いくつもの飢饉を救ったと言われています。

そういえば、2008年は「国際イモ年」でした。
── 「国際イモ年」‥‥。
日浦 IPCのあるペルーが、ジャガイモの啓蒙のため、
FAOにはたらきかけて実現したようですが。
── 「IPC」というのは、
「インターナショナル・ポテイトゥ・センター」‥‥。
日浦 あ、そうそう、この絵本、ごぞんじですか?
   
『チョコレートをたべた さかな』
── えー、「チョコレートをたべた さかな」。
ぜんぜん知らないです。
日浦 松本大洋さんの『鉄コン筋クリート』のなかで
シロ(註:重要な登場人物のひとり)が
読んでるんです、この絵本を。
── へぇ! どの場面だろう?
日浦 話の筋にはまったく関係ないんですけどね。
── 松本大洋さんが、好きだったのかなぁ。
でも、よく気づきましたね。
日浦 『鉄コン筋クリート』を読んでたら
なにか、本当にある絵本のような気がして‥‥。

で、調べたら、あったんです。
── ふーーーん‥‥(しばし読む)。
── (ぱたん)‥‥ああ、こんな結末。
日浦 ぐっと、きますでしょう?
── なにか、ぎゅーっとします。
日浦 シロが読んでいそうな絵本でもあるし。

‥‥とまぁ、このような感じで、
いつまでいてもオッケーなことをいいことに、
薪ストーブわきで
ホットコーヒーとリッチランドをいただきながら、
ついつい長居してしまいました。

話を聞くと、日浦さんは、
札幌のお店で開かれるクラシックコンサートの運営なども
担当していたりするのだそうです。

また、小田豊社長から
「フクロウのかたちのお菓子を出すんだけど
 何か、いい名前を考えて」とリクエストされ、
北原白秋の短歌

梟はいまか眼玉を開くらむ
ごろすけほうほうごろすけほうほう

から「ごろすけホーホー」と名付けたんだとか。

職場には、たったひとりだけ。

本社のある帯広からも離れていますし、
手を抜こうと思ったら、カンタンですよね? ‥‥って
ちょっといじわるな質問してみたら
「そんなことしたら
 お客さんが、来てくれなくなっちゃいますから」。

毎日、さぞかし大変でしょうけど、
ご自分から「六花文庫をやりたいんです!」って
手を挙げたんだそうです。

当時、入社1年目でそう言った日浦さんもすごいけど、
そんな新人に任せちゃったのも
六花亭らしいところなんだろうなぁと思いました。

「ごろすけホーホーには
 ごろすけフーフーという奥さんがいるんです。
 え? フーフーの中身? あんこです。
 こちらは、寺田寅彦の句
 ホーといえば フーと応えて 小夜梟
 からとりました。
 ちなみに、夫婦の間には
 ごろすけピーピーというこどもも生まれたんです。
 でも、ピーピーは親もとから巣立っていきました。
 だからいまは、夫婦水いらず(笑)」

六花文庫

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2010-04-16-FRI
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