あの会社のお仕事。福音館書店 篇 あの会社のお仕事。福音館書店 篇
ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第6回 心のなかの、安心できる場所。
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──
関根さんは、福音館書店のことを、
どういう会社だと思っていますか。
関根
そうですね‥‥ひとつ言えることは、
嘘をつかない会社、でしょうか。
──
嘘。
関根
はい、自信を持ってお勧めできる本を
つくっているんだという、
自負や誇りを持った会社だと思います。
──
よくない本をいいって嘘をついたって、
バレちゃうんですもんね、子どもには。
関根
売上が立たなければダメだし、
数字的なプレッシャーがないわけでは
ないんですけれど、
たぶん、そういうことよりも、
子どもたちに、いい本を、届けたい。



そんなふうに思っている会社だと思う。
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──
福音館書店さんが、
クオリティにこだわった絵本つくりを
徹底されている背景には、
確固としたロングセラーの存在が
あるんじゃないかなあって思うんです。
関根
はい、それは、そのとおりです。
この人たちにとっても助けられてます。
──
つまり、誰もが知ってる
200刷を超えるようなロングセラーが
あることで、
目先の利益に汲々とせず、
自由な発想でいい絵本をつくれる‥‥。
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関根
ありがたいことです。
──
で、そういう環境だと、
別に新しい挑戦なんかしなくても、
という考えだって、
いっぽうにはあると思うんですよ。



でも、同時に、
新しいことにチャレンジしやすい環境、
ということでもありますよね。
関根
ロングセラーのおかげで
チャレンジ精神を失わずにすみますし、
チャレンジ精神を失くしてしまったら、
出版社としてはどうかなあって。
──
なるほど。
関根
先輩のロングセラーに頼るんじゃなく、
大変なときにこそ、
チャレンジできる会社でありたいなと
現役としては、思ってるんですけど。
──
でも、ロングセラーって、
決して棚から落ちてきたぼた餅じゃなく、
福音館書店さんが生んで、
育ててきた「できる子」なわけですから。
関根
やっぱり、わたしたち福音館書店は
利益や数字のほうではなく、
子どものほうを見て、
本をつくっていきたいと思ってます。
──
ええ。
関根
そのときに、先輩方が残してくれた
ロングセラーには、
ほんとうに助けられていますし、
次の世代のためにも、
もっと大きく育てていきたいですね。
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──
関根さんのつくった本が、
将来の福音館を助けるかもしれない。



ロングセラーには、
そういう意味もあるってことですね。
関根
そうですね。



助けられている、ということで言うと、
本を売ってくださっている方々には、
ほんとうに助けられています。
書店さんはもちろん、
その他に専門代理店さんもあるんです。
──
へえ、そうなんですか。
関根
福音館書店の本を
全国の幼稚園や保育園に届けてくれる
代理店さんです。
──
知らなかった。
福音館さん独自の販売網があるんだ。
関根
そうなんです。
──
でも、自分のことを思いかえすと、
子どものころのような絵本の読み方を、
いつごろからしなくなったのかな。
関根
好きな本を、好きなだけ読むことって、
大人には、なかなかできないですよね。
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──
読まなきゃならない本‥‥というのが、
目の前に積まれていったりして。
関根
そんな本なんて、
ほんとうにはないと思うんですけどね。
──
子どもたちが、
好きな本や映画を何度も見ることって、
どういうことなんでしょうねえ。
関根
自分を、確認しているのかなあ。
──
確認。自分を?
関根
そんなふうに、感じることがあります。



好きな物語に何度もひたることって、
いいじゃないですか。
「ああ、やっぱり、いいなあ。
 おもしろいなあ」と、ひたること。
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──
はい、いいです。この歳になっても。
関根
安心するというか、落ち着くというか。



そして、何度も読んでってせがんでも、
「うん、いいよ」って、
何度でも大人に読んでもらえたら、
自分を受け入れてもらってるって気が
すると思うんです。
──
たくさん絵本をつくってきたお立場から、
関根さんは、
物語って、どういうものだと思いますか。
関根
物語ですか。そうですね‥‥。
──
ええ。
関根
お守り、というか。
──
お守り。
関根
たぶんですけど、子どもたちにとって、
大好きな物語の世界って、
「安心する場所」なんだと思うんです。



心を安定させることのできる、
精神的な拠りどころ‥‥みたいな場所。
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──
いま、すごく納得しました。
物語の定義として「安心する場所」って。
関根
子どもたちって、
未知の世界に恐る恐る一歩を踏み出して、
親の元へ帰って安心して、
また、勇気を出してドアの外へ出て、
今度はもう少し遠くまで‥‥
ということを何度も繰り返しながら、
行動範囲を広げていくんだと思うんです。
──
少しずつ、少しずつ。
関根
そのことと似ているなあって思うんですけど、
ストーリーの構成法のひとつに、
「行きて帰りし物語」というものがあります。



ファンタジーなんかとくにそうなんですけど、
今いる世界から別の世界に行って、
さまざまな冒険をして、
元いた世界に戻ってくる‥‥というものです。
──
不思議の国のアリス、みたいな。
関根
そう。読者は、元の世界へ戻ってきたときに、
ものすごく安心を感じるんです。
──
ああー、なるほど。感じます。
関根
子どもが大人に絵本を読んでもらうことって、
今の話に似ていると思うんです。



どんなにこわい世界を旅しても、
最後にはまた、
大好きなお父さんやお母さんのところへ、
帰ってこられるじゃないですか。
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──
つまり、安心できる場所へ。
関根
そうです。



そうやって旅に出ては戻ってきて、
もっと遠くに旅に出て戻ってきて‥‥を
繰り返しているうちに、成長し、
やがて、自立というほんとうの旅に出る。
──
はい。
関根
絵本を楽しむことで、
子どもは、
心を成長させているんだなあと思います。
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──
関根さんは、絵本の「いいところ」って、
どういうところだと思いますか。
関根
いいところ‥‥。



いろいろありすぎて困るんですが(笑)、
絵本も「出会い」なので、
いいときに、いい絵本に出会えたら、
それは「一生もの」だと思うんですね。
──
好きな絵本には、
ほんとに一生、つきあえますもんね。
関根
そう、一生、心のなかで、
その人を励まし続けてくれると思う。



石井桃子さんもおっしゃってますが、
本は一生の友だち、なんです。
──
そうかもしれないです。
関根
そして、子どもたちは、
絵本を読んでもらうことをつうじて、
読み手の大人と深くつながれる。



物語を一緒に読むと、
よろこびを共有することができます。
──
はい。
関根
そうやって、絵本をつうじて、
心のなかに
安心できる場所をつくってほしいです。



その場所が、その人のその後の人生を、
支えてくれると思うんです。
──
なるほど。
関根
つくり手として言うなら、
誰かにとって、
一生、忘れられない絵本をつくれたら、
最高ですね。
写真
<おわります>
2018-11-20-TUE
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery 
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。



ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)

会場:TOBICHI すてきな四畳間

住所:東京都港区南青山4丁目25-14 [MAP]
『Michi/みち』原画展
junaida 最新絵本 2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
『Michi/みち』特装版
数量限定・3会場限定 画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。