映画『夢売るふたり』は‥‥  ややこしいから すばらしい。  糸井重里×西川美和監督    試写会からの帰り道‥‥ 「やっぱりあの監督はすごいな」と糸井重里。 文藝春秋から出版される単行本の企画で、 その監督、西川美和さんと3年ぶりの対談になりました。 映画の話題を軸にしながらも、 ふたりのやりとりは不定形に、あちこちへ‥‥。 この対談を「ほぼ日バージョン」でもお届けします。 映画と本と、合わせておたのしみください。 観れば観るほどややこしい。 ややこしいからおもしろい。 『夢売るふたり』は、すばらしいです。
 
第7回 ムーダー。
糸井 鶴瓶さんは台本を読まないっていう話が出たので
思い出したんですけど、
ぼくの知ってる人で
プロデューサーなのに台本を読まない
というおそろしい人がいます。
西川 プロデューサーなのに。
糸井 ただ、ぼくはその人が大好きなんです。
その人が何を言うのか、いつも気になってました。
西川 台本を読まない人の目って確かですからね。
糸井 やっぱり、お客さんに近いんですよ。
西川 ええ。
どこかにそういう人がいないと、
わかんなくなっちゃうんですよね、全員で。
糸井 まあ、メインのプロデューサーじゃ困るんだけど、
サイドにプロデューサーとして
そういう人がいて、
「あー、それは面白いねえ」
とか言われると、みんなわくわくします。
西川 ほんとにそうですね。
そういう客観的な目線をもった人を
ひとり置いておくって大事かもしれません。
ちょっとこれからは、そうしてみようかな‥‥。
糸井 昔、状況劇場にいた
クマさん(篠原勝之さん)という人は、
「ムーダー」という役割で
CM撮影によく雇われてました。
西川 ムーダー?
糸井 ムードを出す人。
自分で名付けたらしいんだけど、
実際、現場をいい感じにするんです。
「俺はな、ムーダーとしてな、
 ちゃんとギャラもらって行ってるからな」って。
西川 ああ、重要ですね。
そういう方にはお金を払ってでも
来ていただきたいです。
糸井 腕力もあるから、現場が剣呑な空気になったとき、
「まあ、まあ」と割って入る。
そうするとみんな納得するという。
西川 いいですねぇ、ムーダー(笑)。
糸井 『夢売るふたり』の話に戻りましょう。
西川さんの映画って、
今回のはとくにそうなのかもしれないけど、
目を離したら展開が
コロコロッと変わってしまっている瞬間があって。
なんていうんだろうなぁ、
あの感じで進むっていうのは
ものすごく大事ですよね。
段取りに見えたら、もう、パーですもんね。
西川 はい、それはもう。
糸井 最初のシーンからして、
ワーッと目がでっかくなっていくみたいな。
ずーっと、油断ができなかったです。
西川 たくさんのキャラクターが出てきて、
女が変わるごとに世界観も変わるんですよね。
自分でも、
「これ、ほんとにひとつの映画になるのか?」
と思ったぐらいです。
「ウェイトリフティングの
 映画を撮ってるんじゃないかな?」って、
途中で思ったりもしました(笑)。
 (C)2012「夢売るふたり」製作委員会
糸井 ああ! あれは騙されたなぁ。
西川 そんな(笑)、騙されたって。
糸井 ウェイトリフティングの女性選手が、
役者になったんだと思って観てたんです。
西川 そう思ってもらえたら成功です。
糸井 あのかたは役者さん?
西川 役者の江原由夏さんです。
糸井 劇団のかた?
西川 ええ、劇団の。
映像のお仕事まったく初めての人です。
糸井 へえーー。
西川 4カ月、ウェイトリフティングの
トレーニングをしてもらったんですけど、
想像以上に筋のいい人で、
いまウェイトリフティング界が
手ぐすね引いて待っているという噂です(笑)。
糸井 すごいなぁ(笑)。
彼女が出てくるシーンは、
ものすごく切ないんですよ。
ほんとうに切ないんだけど、ちょっと笑っちゃう。
西川 ねえ。
笑っちゃうんですよ、私も。
糸井 監督もそうですか。
いやぁ、彼女の登場は
あの映画のひとつの山場というか、
そう、それこそ、
すごいムードをつくってました。
西川 ありがとうございます。
彼女のおかげです。
糸井 ねえ。
西川 彼女を見つけ出すのは、けっこう大変でした。
女子プロレスラーや格闘家の方とかも
オーディションに呼んだんです。
女子プロレスラーの子なんかは、
素材そのものが、もう‥‥
糸井 すばらしい。
西川 はい。
糸井 あー、そうなんでしょうね。
西川 世の男からはけっしてちやほやされないけれど、
自分が信じた道に
すべてを注ぎ込んできた人にしか出せない、
本物の輝きがあるんです。
糸井 うん、うん。
西川 そういう人の魅力には
やっぱりかなわないなと思いました。
でも、だとしたら、
やっぱりそれは「女子プロレスラー」として
映画に出てもらうべきだと思って。
糸井 なるほど。
西川 悩んだ末に、
やっぱり俳優さんの中から探すことにしました。
糸井 で、彼女が見つかった。
西川 はい。
糸井 あれは、騙されたぁ(笑)。
西川 よかったです(笑)。

今回の新作では、
自分で出した宿題があったんですよ。
今までやってこなかったことをやる。
俳優さんの探し方もそのひとつでした。
糸井 西川さんがやってないことといえば‥‥
特撮なんかも入ってるんですか?
西川 それは最初のシーンの‥‥
糸井 あ、そうか、火事か。
西川 火を出すっていうことがやってみたかったんです。
「今回は燃やすぞ!」って(笑)。
糸井 燃やすぞ!(笑)
西川 あとは、あこがれのデニーロ・アプローチを(笑)。
役づくりのために、
俳優さんの肉体を改造するという。
彼女に4カ月トレーニングしてもらいました。
糸井 彼女ですか、やっぱり。
ムーダーだなぁ(笑)。

(つづきます)

2012-09-12-WED

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