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第4回 段取りやマネージメントの「見える化」。

糸井 室町時代の人にもおもしろさが伝わる、
っていうのは、つまり、
このゲームにはじめて触れる人にも
伝わるっていうことですよね。
宮本 あ、そうですね。
『ピクミン3』はそういうふうに
仕上げられたと思います。
ルールもそうですし、
触ったときの気持ちよさとかも
はじめての人に伝わりやすいんじゃないでしょうか。
糸井 もともと宮本さんのつくるものには
その力がありますよね。
だからこそ、世界中に
たくさんのファンがいるんだと思いますが。
たとえば、『ゼルダ』シリーズなんかも、
経験値がシステムとして
キャラクターに溜まるんじゃなくて、
プレイヤーの体内、指先や記憶のなかに
経験が刻まれていくようになってますよね。
経験値が溜まってレベルが上がって
キャラクターのパラメーターの数値が上がる、
というのは、ゲームを好きな人には
当たり前のことかもしれないけど、
やっぱり、はじめての人には伝わりづらい。
その点、プレイヤーが解き方を覚えたり
操作がうまくなることで進めるようになるっていうのは、
室町時代の人にも伝わりやすいと思うんですよ。
宮本 はい(笑)。
糸井 プレイヤーが上手になったから
そのダンジョンがクリアーできるわけで、
レベルが56になったからクリアーできるわけじゃない。
それって、説明要らないじゃないですか。
『マリオ』なんかもそういう構造ですよね。
ああいうつくりかたは、ほんと感心します。
いってみれば、プレイヤーを信用することになるから、
いざやるとなると勇気が要るんでしょうけど。
宮本 プレイヤーの成長がゲームの軸になる場合、
遊ぶ人が自分の成長を感じるように
アイテムとかをつかって、
補強するように演出しているんですよ。
糸井 え。
宮本 ゲームをプレイしていると、
たしかにある程度はうまくはなりますけど、
誰もが劇的に感じるほどにはうまくならないんです。
だから、ある程度まで進めるようになった段階で
便利なアイテムをポーンと出して
つかえるようにしてあげる。
すると、すでに慣れてきているから、理解できるし、
上達したところでできることがぐーんと増えますから、
はっきり成長を実感できるんです。
糸井 ああー。
宮本 そのあたりは、ウソとまではいいませんが、
しっかり演出してますね。
岩田 だから、あれですよね。
糸井さんの言う「指先に貯まる経験値」を
増幅するための仕組みがあるんですよ。
糸井 そうなんですねぇ。
宮本 その場合は、どこでどのくらい増幅してあげるか、
というのがポイントになってくるんです。
たとえば、自分が剣のつかい方がうまくなってるのと、
剣が長くなるタイミングが、
うまく噛み合うと、すごく効果的なんです。
糸井 増幅と感覚の実体化というか、
あなたが上手になってますよ、っていうのを、
ほらねって実際に見せてあげるということですよね。
だから、流行りの言い方でいうと、「見える化」。
宮本 ああ、「見える化」ですね(笑)。
岩田 そういう意味でいうと、
じつは、この『ピクミン3』は
仕事の段取りやマネージメントの
「見える化」なんですよ。
糸井 あー、なるほど、なるほど。
宮本 うん、遊びを進めることの「見える化」。
岩田 まぁ、わざとビジネスっぽい言い方をするなら、
思った通りに動ける自分ではなくて、
たくさんの他人を間接的に動かしながら、
それが全体として最大の成果を挙げることを目指す、
ということを遊びとしてやってるわけです。
糸井 たしかに(笑)。
宮本 でもね、そういうことって、
室町時代の人が見てもわかると思うんですよ。
こうするよりもこうしたほうが
仕事が早く終わる、っていうことですから。
岩田 そうですね。仕事や段取りって、
どんな世界でも共通するものですし。
糸井 とはいえ、
「効率のいい段取りやマネージメントを
 ゲームにしたらおもしろいぞ」って言って
このゲームをつくったわけじゃないですよね?
宮本 自分で気づいて「もう一度試してみる」、
という遊び方と、マネージメントという
テーマの相性がいいんですね。
ただ、ゲームをつくるうえで、
「テキパキと仕事の指示を出して
 いろんなことをさせたらたのしそうだ」
というのは、動機のひとつとしてありました。
糸井 あ、その言い方はわかる。
宮本 ピーって笛吹いてピクミンたちを集めて
指示を出すときになにがうれしいのかっていうと、
ゴールとしては、やっぱり、
効率よく仕事が進んだらうれしい
っていうことなんだと思うんです。
ただ、仕事の成果って、あとからわかるものなので、
いちばんわかりやすい欲求としては、
「テキパキと指示をしたい」
ということそのものじゃないかなと。
糸井 ああー、「指示することそのもの」。
宮本 アクションゲームを考えるとき、
いつもその手際のよさとか、
自分に酔える要素を考えてしまうんです。
それと同時に、自分が指示をした人たちが、
なにをするかをじーっと見ていたいっていうのが、
『ピクミン』のはじまりなんですよね。
糸井 ああ、もともとは。
宮本 何度かしゃべってることですけど、
ゲームキューブの発表会のときに
『マリオ128』というデモソフトをつくったんですね。
これは、マリオが128人出てくるっていうだけの
単純なサンプルソフトなんですけど。
それをつくったとき、
ある法則に則って動くものがあって
それが行動するところをずっと見てられたら
おもしろいだろうなって思ってたんです。
たとえば、たくさんのマリオがいるところに
公衆便所をポンと置く。
するとひとりがやってきてその中に入る。
もうひとりがやってきて、
閉まってるドアをノックする。
もうひとりがきたら、その後ろに並ぶ。
どんどん来ると、どんどん列に並んでいく。
これを見てるとおもしろいだろうなぁ
って言ってたんですよ。
糸井 うん、うん。
宮本 もともとは、それだけなんです。
それをゲームとしてまとめるときに、
「一定時間内にどれくらいの仕事ができるか」
っていうふうに決めてみたら
うまくまとまったので、
この形になったというだけなんですよ。
糸井 仕事も段取りも、
あとから加わった要素なんですね。
(続きます)
2013-07-18-THU