手の延長

昭和を代表する女優の高峰秀子さんは、
エッセイの名手でもありました。

高峰さんの本の中で、
私の一番の気に入りは、
『コットンが好き』(文春文庫)というエッセイ集。

徳利、ようじ入れ、手塩皿、
おべんとう箱に、楽屋着‥‥

だれのためでもなく、
自分(そして時には夫)のために、
えらんだ「好きなもの」。

自分の眼を持つって、
できそうでなかなか難しいものだけれど、
それをとても軽やかにこなす高峰さん。
本を通してしか知らないけれど、
ああ、いいなぁ、すてきな人だ。
素直にそう思うのです。

『コットンが好き』の中で、
お箸について書かれた一節があります。

象牙だと、重い。
美しい塗り箸だと、箸先が辷(すべ)る。
上等な利休箸は、
両端とも細まっているところがなんとなく落ち着かない。

ああでもない、こうでもない‥‥ののちに、
理想の箸に巡り合うのですが、
(この先はぜひ本を読んでくださいね)
毎日使うものだからこそ、
おろそかにしたくないという、
高峰さんの気持ち、よく分かる。

今週のweeksdaysは、
以前、販売して好評いただいた吉岡木工のお箸。

軽すぎず、重すぎず。
見た目に美しく、
なにより使い勝手のよい、
私の手の延長のようなお箸です。

コンテンツは、久しぶりにウー・ウェンさんに
登場いただきました。
どうぞおたのしみに。

伊藤まさこ

2024-05-10-FRI