COLUMN

すてられないもの。[1]
「すてられない紙たち」

美篶堂 上島明子

何を入れるかはその人しだい。
杉工場の「小ひきだし」再販の今週は、
「捨てられないもの」をテーマに、
3人のかたにエッセイを寄稿いただきました。
きょうは、製本工房である美篶堂(みすずどう)の
社長である上島(かみじま)明子さんです。

かみじま・あきこ

長野県伊那市美篶(みすず)を拠点とする
製本工房の美篶堂の代表。
美篶堂は、明子さんの父親であり、
初代社長(現・会長)である上島松男さんが、
長く製本工場でつちかった特殊製本の技術をいかし、
1983年に立ち上げた。
明子さんは、美術製本や上製本の技術存続のために、
オリジナルステーショナリーを企画販売し、
美篶堂ショップを開設。
その後、製本ワークショップをはじめる。
NPO法人五つのパンの岩永敏朗氏と
本づくり学校を開校後、現在の理事に呼びかけ、
本づくり協会を立ち上げる。
著書に『美篶堂とつくる 美しい手製本』
(河出書房新社)、
絵本『うさぎがきいたおと』
(Book & Design・美篶堂)などがある。

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●美篶堂
●美篶堂オンラインショップ
●本づくり協会

もともと、何事も捨てられないタイプです。
すぐに日常に影響がでてしまいますが、
周りのスタッフや家族に迷惑をかけ、
私が判断しきれない様々な山を、
鬼のように処分をしてくれているおかげで、
なんとか生きていますが、
私だけではすぐに本やものに埋もれてしまいます。
職業がそれに拍車をかけています。

家業である美術製本という珍しい仕事は、
手の込んだ上製本や和装本、特装本をつくる仕事です。
製本の技術はもちろんですが、
さまざまな素材や工具を幅広く使い、
既製品にないものは自分で作ったり、
工芸的な要素も多いのです。
お客様のご要望の時に、イメージに近い素材を
ぱっとご提案したいと常に思っています。
そのために紙や布をチェックしたり、
製本とはまったく別の道具も
「あの作業に使えそう」とホームセンターで
不思議な工具を買ってしまったりします。
数年に一度しかこないオーダーの工具も、
いざというときに使うので、やはり集めてしまいます。

製本業は常に新しい印刷物が製本所に届き、
本にかたちづくる仕事です。
印刷の周りの余白を断裁して、
毎日大量に処分していきます。
これは製本所のスタッフが日々行っていることですが、
私はすぐにこの裁ち落としの端切れを拾って
事務所に持ち帰ります。
小さなメモにしよう、お手紙の端に貼ろう。
などなど。仕事場は宝の山なのです。

仕事で使っている
A4サイズの弊社オリジナルノートには、
こうした紙も張り込みます。
そのほか、いただきものの包装紙やシール、
いただいた手紙、展示案内など。
毎日使うノートなので、
好きなものが常に目にふれると楽しいです。
ノートはすぐに販売されている厚みの
2倍3倍になってしまいます。

紙を整理する引き出しには一か所、
仕事ではつかえなくなった
細かく切った紙の救済スペースを作っています。
千代紙を使ってたくさん仕事をしたあとは、
細長い紙がたくさんのこりますので、
これで豆本をつくったり、栞をつくったり。
小さなかけらとなった紙を入れたその引き出しの中が
一番好きな場所かもしれません。

また自分で染めた紙は多少うまくいかなくても
捨てないようにしています。
エリック・カールは自分で染めた紙を切り抜いて
作品にしていたことを知り、
予定はないものの「何か」にするときのために、
染めた紙専用の缶に集めています。

紙以外にもいただいたお菓子の缶のかわいいものは
製本道具などをいれるものにしたいですし、
ワインのコルクや使い終わった化粧品パッケージの蓋、
使わなくなったフォーク、
櫛などは紙を染めるときに工具として使いたいです。
糸や布、ボタン、など
小さな好きなものがいっぱいありすぎて、困りますが、
好きなものでいっぱいの引き出しや缶をあけると
何をつくるともなく、わくわくします。

2021-08-08-SUN