COLUMN

まさかの虫食い

森岡督行

2週にわたっておとどけする
「weeksdays」のセーター。
コラムでは、いろいろなかたに
セーターにまつわるお話を書いていただきます。
きょうは、森岡書店代表の、森岡督行さんです。

もりおか・よしゆき

1974年山形県生まれ。森岡書店代表。
著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、
『Books on Japan 1931-1972』
(ビー・エヌ・エヌ新社)など。
出展、企画協力した展覧会に
『雑貨展』(21-21design sight)、
『そばにいる工芸』(資生堂ギャラリー)などがある。
本年は、第12回「shiseido art egg 」賞の審査員と、
山形ビエンナーレ『畏敬と工芸』展の
キュレーションを担当した。

冬並みの寒気が訪れた9月のある日、
クローゼットからホワイト、ネイビー、
グレーのセーターを取り出した私は、
どれを着ようか迷っていました。
からだの一部のように愛用しているカシミヤのセーター。
気温は低いが、コートを着るほどでもない日、
冷たい風を、セーター越しに感じるのが好きでした。
ところが、グレーのセーターを手に取ったとき、
私の心は凍りつきました。
あろうことか、袖に、小さな穴があるのです。
本当に小さく、でも確実に。
洗濯に問題があったのか、
収納のレベルを上げる必要があったのか、
まさかの虫食い。
セーターは一部でも瑕疵があると、
全体に影響を及ぼします。

どうしようと思って思い出したのが、
ミスミノリコさん。
著書に『繕う愉しみ』があり、
「繕い」で服をよみがえらせる仕事を提唱しています。
グレーのセーターを鞄に入れた私は、
待ち合わせ場所の青山の喫茶店へ。
ミスミさんに復活させたいむねを伝えると、
三つの方法を提案してくださりました。
一つ目は、ニードルパンチとチェーンステッチ。
二つ目は、鉤針の細編み。
三つ目は、ダーニング。
それぞれ実例を交えて詳しく説明してもらったのですが、
最初のニードルパンチとチェーンステッチが
心から離れません。
器なら金継ぎに似ているのではないでしょうか。
繕った服は、新品とはまた別の趣が感じられ、
むしろ、仕上がりが楽しみになるほどに。

洗濯も再考しました。
虫食いを調べてみると、皮脂やホコリが原因。
そこで思い出したのが「LIVRER Silk&Wool」。
山藤陽子さんに
その洗いの素晴らしさを教えてもらっていたのです。
週末のお客さんであふれる銀座三越で
私はそのボトルを探しました。
説明書通りに5Lのお湯をはって、
5mlの洗剤を溶かして、カシミヤのセーターを手洗い。
感じがいいと言うのが一番ふさわしい香り。
あとで調べたらローズとカモミール。
すすぎは1回のみで、
乾くと予想以上に柔らかな仕上がり。
香りは、わずかに、でも確実にのこっていました。

長期天気予報によれば、
今年の冬は暖冬の可能性とのこと。
気温は低いが、コートを着るほどでもない日は続きそう。
新しくなったグレーのセーターに袖を通す。
さらっとした香りの余韻を楽しむ。
上質なセーターが上質なもの招き寄せてくれたと
言っても良いかもしれません。
今回の出来事がグレーのセーターに編み込まれ、
私にとっては、より大切なものになっていきそうです。
万が一またほつれも、もう心配する必要もありません。
そう考えると、あの9月のがっかり感は、
むしろラッキーだったのではないかと思えてきます。

2018-10-07-SUN