COLUMN

カシミア。
[3]五十歳になったとき

群ようこ

作家・エッセイストの群ようこさんに、
カシミアについての思い出を書いていただきました。
3回にわけて、おとどけします。

むれ・ようこ

作家・エッセイスト。
1954年、東京生まれ。
日本大学藝術学部卒業後、
6回の転職を経て「本の雑誌社」へ。
在職中の1984年に『午前零時の玄米パン』でデビュー。
その後作家として独立、
1989年に『無印OL物語』で小説家デビュー。
以後、エッセイと小説を多数上梓。
映画『かもめ食堂』の原作もつとめている。
近著に小説『散歩するネコ れんげ荘物語』(ハルキ文庫)、
エッセイ『じじばばのるつぼ』(新潮社)など。

様々なカシミア製品が、
世の中に出回るようになってきて、
選択肢が増えたのはとても喜ばしい。
五十歳になったとき、前々から欲しいと思っていた、
某ブランドのカシミアのストールを購入した。
ストールというと、定番色の他は、
チェックなどが多かったのだけれど、
着物のときに巻く無地のものが欲しかった。
あれこれ探した結果、
そこにしか私の欲しい色がなかったのである。

それはストールとしてはあまりに高価で、
気軽にほいっと買えるものではなかった。
しかし他の欲しいものをぐっと我慢して、
五十歳の誕生日に購入した。
カシミアはマフラーでもうれしいのに、
それがストールとなると、ぽーっとするほど美しかった。
私が購入したのはサーモンピンクで、それを巻くと、
老いを感じるようになった顔に元気を与えてくれた。
感触のいいものが大好きなうちのネコも、
それを取り出すとやってきて、
ごろごろと喉を鳴らしながら、
ストールに体をこすりつけようとするので、
ネコが寝ているときにこっそりと取り出しては、
眺めたり触ったりして、うっとりしていた。

カシミアのいいところは、
やはりあの品のいい艶と手触り、軽さと温かさだろう。
歳を重ねると身につけるものの重さがとても重要になる。
好きで買った洋服でも、重いと感じるようになると、
袖を通さなくなる。
その点、カシミアは最適な素材なのだ。
冷房で体が冷えないように、
夏でも薄手のカシミアの半袖セーターを
着ている人もいると聞いたことがある。
防寒用だけではなく、オールシーズンになってきたようだ。

私の持っているカシミアのアイテムは、
寒い時季のものばかりだが、
どれも購入してから十数年から三十年以上、
経っているものばかりである。
ジャケットやコートだったら、
着た後に裏返して風を通し、
しまうときに表に返して全体にブラシをかければ、
シミなどをつけない限り、クリーニングをする必要もない。
年々、カシミアからは離れられなくなっているのである。

2020-10-21-WED