REPORT

移ろいの円環
小林和人

秋色あじさいのリースを飾った印象をもとに、
小林和人さんにエッセイを書いていただきました。

小林和人さんのプロフィール

こばやし・かずと
1999年より国内外の生活用品を扱う店
Roundabout(ラウンダバウト)を運営。
2008年には、物がもたらす作用に着目する場所
OUTBOUND(アウトバウンド)を開始。
代々木上原と吉祥寺の両店舗の全ての商品のセレクトと
展覧会の企画、スタイリングや
ホテルの家具コーディネートなども手掛ける。
著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)、
『「生活工芸」の時代』(共著、新潮社)がある。

●Roundabout
●OUTBOUND
●Instagram


私の自宅のリビングには、
様々な経緯で手元に流れ着いた物品を並べた
密やかな一角がある。
そこにあるのは、旅先の蚤の市で購入した
硝子瓶や陶製容器、個人作家の作品、
そして友人からプレゼントされた
アンモナイトの化石など、色々である。

この小さな空間は、眺めている間だけ
「今ではない時間」に身を置くことができる、
いうなれば個人的祭壇ともいえる神聖な場所である。
但し、そこは日々取り込まれる洗濯物が
目の前を通過する、
やや賑やかな立地ではあるのだが。

そんな私の精神の庭に、
紫陽花のリースを迎え入れることとなった。
届いた箱を開けると、
若葉色と葵色の鮮やかなせめぎ合いに、
はっとさせられる。
青々とした張りに満ちたこの円環を壁に掛けた途端、
静止していた空気は氷解し、
たちまち瑞々しい時が注ぎ込まれた。

幾日かが経過すると、
奥行きある色彩は徐々に淡さを帯び、
しっとりとした質感は乾いた風情へと移行していった。
しかし、始まりの頃の溌剌とした新鮮さも、
そこから次第に滲み出る枯れ味も、
いずれも異なる魅力とともに、
変わらず私たちを愉しませてくれる。

時間とは、一方向のみに進む矢の様であり、
誰も止めることは出来ない。
だからといって、我々は時の不可逆性に
絶望する必要は微塵もない。

ときには、物の肌理に目を凝らし、
異なる時間への入り口を探そう。
そしてまた或るときには、
花の煌めきの儚さに自らを重ねることで、
その静かな移ろいを慈しみ、
せめての安堵と慰みを享受しようではないか。

2020-10-14-WED