REPORT

「抜け感」のあるバッグづくり。
アミアカルヴァ
加藤一寛さんインタビュー

軽くて使いやすい! と評判の、
アミアカルヴァのトートバッグ。
帆布にありがちなズッシリ感がなく、
収納力もたっぷり。
持ちやすい、運びやすいのはもちろん、
何かを入れて置いておいてもサマになるそのすがた。
このブランドのなりたちから、
バッグの性能、デザインについて、
代表の加藤一寛さんに、お話をききました。

加藤一寛さんのプロフィール

かとう・かずのり 

バッグデザイナー。1977年大阪生まれ。
バッグメーカーの企画、営業を経て2007年、独立。
同年「tocantins」(トカンチス)を設立。
2008年、AMIACALVA(アミアカルヴァ)をスタート。
AMIACALVAのブランド名の由来は
古代魚「AMIACALVA」から。
■アミアカルヴァのウェブサイト
https://www.amiacalva.com/

このブランドは、2008年に作りました。
拠点は大阪です。
それまでは、バッグのメーカーで、
いちサラリーマンとして、
営業と、企画の仕事をしていたんです。
自分が企画したものを、
アパレルブランドやセレクトショップに
営業をする、そんな仕事です。

独立をしたのは、
かっこよく言ってしまえば
「こういうバッグがつくりたい」という気持ちが、
会社の枠をはみだしちゃった、ということかもしれません。

従来のバッグメーカーは、
モノをイメージして、図面上でデザインして、
それをサンプル師さんに作ってもらう、
ほとんどがそんなスタイルで作られています。
上がってきたものを自分で確認して、
イメージどおりかどうかっていうのを見て、
これで行くぞ、と決めたら、展示会に出し、
受注を受けて、実際に作っていくわけです。

そんななかで、僕は、
もう少し踏み入ったところで
モノづくりをしたいなと思いました。
絵で描くサンプルに、限界を感じていたんですね。
もちろん、そういうスタイルの仕事の仕方は、
洋服もそうだと思うんですけども、分業化が進んでいて、
それぞれのスペシャリストがおられるので、
効率的ですし、アイテム数を増やすには
とてもいいやりかただと思うんです。
でも、ちょっとだけ、
自分のやりたいこととは、ずれてきてしまった。

自分の好きなバッグは、
海外のものが多かったんですが、
どうしても、何が違うのかがわからない。
だから、できない。
はっきり言えたのは、
図面からでは作れないということでした。
きっと、表面の見た目だけが違うだけじゃなく、
作り方が違うんだろうと思うんですね。
だから結果的にデザインが違ってくる。

そのことがわかるまでには、
ちょっと時間がかかりましたね。
好きなバッグをバラして研究をして、
わかったことをいかして自分で作って。
そんなことを、会社を辞める1年前ぐらいから、
ミシンを購入して、はじめたんです。

それまで触ったこともなかったミシンですから、
まっすぐ縫うことさえできないところからの
スタートでした。
工業用の、レザーや分厚い帆布を縫うためのミシンです。
新しいものは結構いいお値段がするので、
中古で探したんですけれど、
当然説明書などはなくって。
先生もいないし、そこがたいへんでしたね。

でも、かえってよかったな、と思うのは、
わからないことが出てきたとき、
じぶんでなんとか調べるくせがつく。
例えば針が折れてしまうと針を買いに行く。
そしたら、針の種類がいかにたくさんあるかを知る。
針が違うだけで、できあがるものは
まったく変化してしまうんですよ。
だから、すごく勉強になりました。
その1年は、とても重要でした。

研究は、面白かったですよ。
例えばアメリカ製のバッグで、
解体したみたら、完全に一筆書きみたいな
縫製の仕方をしているバッグもありました。
それって生地の裁断からそうしないといけないわけで、
ちょっと無駄が出るはずなんです。
なんでそんなふうになってるかっていうと、
材料を無駄にしないとか、
材料コストを抑えることじゃなくて、
ロスが出ても生産効率を上げることだけを考えた、
アメリカ人らしい、
超大量生産のためのプロダクトだったんですよね。
いまはもう変わったはずですが、
昔はひどかったんですよ。でも、モノはいい。
そういうのを見てると、たぶん教科書って、
ありそうでないんだろうなと思ったんです。
なので、壊れなければ大丈夫なのかなって(笑)。
いまも、モノづくりをしながらも、
ずっと何かを学びながら作り続けてるような
イメージなんですよ。
全部を網羅するのは、たぶん無理だと思いますので。

そうしているうちに、
どうして外国のバッグに魅かれていたのかが
わかるようになってきました。
日本のバッグって、
機能から逆算したモノづくりが多いんです。
例えば内ポケットがあって、ファスナーがあって、
だから裏地が必要になる。
裏地があると表地はこういう構造になる。
逆算すると決まってしまうんですね。

でも僕は“抜けたもの”が好きだった。
足りないな、っていうぐらいのものですね。
自分でバッグをつくると、生地をカットするにあたって、
「ここって別に縫わなくてもいいんじゃない?」
って思いつくんです。
そして実際それで作ってみると、
べつに、壊れることもない。
じゃあ、これでいいじゃないか。
それがアミアカルヴァのトートバッグの原点です。
いまアミアカルヴァのキャンバスって、
ほとんどトップの部分がカットオフで、
縫っていないんですよ。
日本の古い帆布っていうのは、
シャトル織機といって、
どうしても「耳」ができるんです、上と下に。
通常だと、生地がもったいないので、
折り返して縫っちゃうんですよね。
でも、切って作れば、自分のイメージどおりの、
抜けた感じにできた。
そうやって、デザインが決まっていきました。

帆布に魅かれて。

いちばん最初は、レザーのバッグばっかり、
自分でつくって、量産をしていたんです。
で、やっぱりすごくたいへんなことになってしまって、
身体を壊してしまった。
ひとりでやっていたので、
「金曜日までに商品を送らないと、
土曜日に店頭に間に合わない!」
なんて、週の後半は徹夜、みたいな
無理を続けていたんですね。
でもそういう作り方はダメですよね。
僕よりも作るのに長けた職人さんがおられるのに、
僕が量産する意味もないわけです。
そこはプロフェッショナルに作ってもらおう、
僕はデザインに集中した方がいいんだろうな、と、
そこで仕事を分けました。

特に帆布が好きだとか、ナイロンが好きだとか、
レザーが好きだとかっていうわけではなく、
全部好きなんです。
なぜ帆布が多くなったのかというと、
岡山に、いい機屋さんがあって、
きれいな帆布をつくるにはどうしたらいいだろう、
というような相談をしていたんですね。
資材用の帆布は、生成りで、
カスっていうカスが残るんです。
でも、生成りの色味をいかして、
きれいなものってできないのかな、って。
じゃあ洋服で使うようなコーマ糸っていう
上級糸を使ってみたらどうだろう? と、
そんな相談をしていくうちに、
どんどん帆布が面白くなっていったんです。

そして自分で量産をすることを辞めたら、
サンプルを作る時間を多く持てるようになりました。
なので、より、サンプルの段階での
モノづくりの掘り下げっていうのが、
できるようになったと思います。
図面は引きません。
いきなり生地を切ってつくったり。
そういうのに限って結構評判が良かったりするんで、
それをあとから量産するために、図面に落とし込む、
生産の指示書に落とし込むのがたいへんで、
スタッフに、すごく嫌がられてます(笑)。

いまは、新作をフィレンツェのピッティウォモ
(メンズファッションの大規模な展示会)に
1月と6月に出し、そのあとパリで小規模な展示会をし、
日本に帰ってきて、東京と大阪で展示をする、
そんなリズムでつくっています。
海外半分、日本半分ぐらいな感じです。
海外も、たとえばニューヨークの
セレクトショップに置いていただいたり。

バイヤーさんや使い手の意見を聞きますか、
って聞かれるんですが、
僕、全く聞かないんです。
というのは、基本的に、驚かせたいんです。
驚いて、感動しないと、
モノって必要なくなってくると思うんですね。
だって、世の中、いいものって
いっぱいあるじゃないですか。
僕じゃなくても、たくさん。
だから僕はちょっとヘンテコでも、
「えっ?」ってなるものを作った方がいいし、
そんなことを喜んでくださる人たちに向けて
発信していきたいなって思っています。

2020-01-26-SUN