COLUMN

あとは細い肩紐だな。

田中真理子

オトナの女性は水着ってどうしているの? 
逡巡、後悔、諦念、‥‥それとも、勇気?
3人のかたに、エッセイを寄せていただきました。

たなか・まりこ

フリー編集者・ライター。
伊藤まさこさんとは集英社LEE編集部在籍中に知り合い、
その仕事っぷりのよさに惚れ続けているひとり。
著書に、プライベートで長年通ったハワイの旅行記
『大人心の、気ままなハワイ』(小石川書館)がある。

くよくよしている自分が、
あほらしく思える時があります。
あほらしいと思えた時はけっこう清々しいんですよね。
どこかで“チェーンジ!”って風が抜ける感じがして。
私の場合、その風が抜ける場所がハワイなんです。
休暇中ですべきことがなくて、
問題(くよくよの理由)に向き合えるからなのか、
気候のおかげなのか。
長年の水着問題も新たな展開を迎えているのです。

年に一度10日前後をハワイで過ごすようになって35年、
静かな砂浜に面した小さなアパートを
借りるようになって10年ほどになります。
なのに私、ずっと海に入ったことがありませんでした。
ずっと海は見るもの、だったんです。
理由は、水着姿です。もうほんっとうにいや。
物心ついた頃から体型の難には付き合ってきましたが、
加齢で加速度を増しました。
食べるのが好き、運動は嫌い、おまけに色白です。

でもそんな自分があほらしく思えるときが来たんですね。
アパートの前の砂浜の女性たちの体型はボーダーレス。
水着姿で思い思いに過ごしています。
大きい人も小さい人も黒い人も白い人も。
若い人はもちろん、老いた女性もたくさん。
毎朝同じ時間に海に入っていく白髪の女性もいる。
そういう光景を「いいなぁ」と思いながら
毎年繰り返し見ているうちに私の心は少しずつ緩み、
“いいと思うならやればー” “水着を買おう”に
変わってきました。
10年近くかかりましたけれど。

でも私を海に連れ出してくれる水着、
カバー力があって、気分を上げてくれる水着には
なかなか出会えませんでした。
狙い目と思っていた大人向けのスクール水着は
最難問のお尻と脚の境目をカバーしてくれません。
競泳用は太陽には似合いません。
ワイキキならあるか、というとそれも難しかったです。
ハイレグや鮮やかな色柄に気持ちがついていかない。

難航する水着問題を解決してくれたのが、
スリフトショップのセイバーズでした。ここには
ご不要になったあらゆるタイプの水着があるんです。
そこでまずこれだ! と思ったのがサーフパンツでした。
トランクスタイプでお腹の紐を結んではくと
腰がピッとしてあんばいがいい。
ちょっと懐かしい感じのボーダーと、
白紺のハイビスカス柄の2つを選びました。
となるとトップスはセパレートになるのですが
それはまだ、少しなら、許容できるかな、と思いました。
むしろ胸はS、下半身はLLサイズなので
別々に選んだ方がぴったり。これは赤を探しました。

アパートのラナイのフックに水着をかけて2日後。
エイっと着替えて砂浜に立ったら、あら全然違う!
肌が出てるってこんなに気持ちいいものだったのか、
中国のビキニおじさんの気持ちがよーくわかる。
今このひとときを楽しんでいる自分をほめたい。

ただ、実は赤のトップスは納得していないんです。
肩紐が太くて、おばちゃんのブラジャーみたい。
いやもう年齢的にはおばあちゃんなんですけど。
次のハワイでは、代わりを探そうと思っています。

2020-01-15-WED