REPORT

ヨーロッパから
いいものを探して。
グラストンベリー 内田起久世さんinterview

フランスの南西部、トゥールーズ地方で
テキスタイルメーカーとして設立され、
フランス国内外のメゾンやデザイナーズブランドに
生地を提供してきた、Honnete(オネット)。
現在は自社で縫製工場をもち、
高い技術をもつポーランドでの生産を主体に、
OEMによる服づくりをつづけています。
このHonneteを日本に紹介してきたのが、
ことし創立20年になるアパレル商社の
「グラストンベリー」です。
老舗の工場がもつ技術は、それ自体が大きな価値。
イギリス、フランス、イタリア、
アイルランド、アメリカ、日本と、
各地ですぐれたファクトリーブランドを発掘してきた
グラストンベリーの内田起久世さんにお話をききました。

「すぐれた技術は、それ自体に価値がある」
グラストンベリーは、創業以来20年、
それまで世の中に知られていなかった
世界の「ファクトリーブランド」を発掘してきました。

▲内田起久世さん。

「Honneteは、もともと、
上質なテキスタイルをつくる工場でした。
そのうち、縫製も手がけるようになり、
生地づくりから一貫して服づくりができるように
なっていったんですね。
そこでつくられていた服がすばらしいと、
日本に紹介をしたいと考えたわけなんですけれど、
じつは、最初は、メンズだけ、だったんですよ」

えっ、もともとメンズウェアの会社だったんですか!

「そうなんです。だから得意としていたのは、
たとえば、肉(生地)の厚い、フランスのミリタリー。
フレンチネイビー(海軍)用のメルトンのウェアが、
ほんとうにすばらしくて、
それを輸入するところから始めたんです」

現在、Honneteはレディスウェアのみですから、
ちょっと想像がつきにくいのですけれど、
メンズウェア、しかもフレンチネイビーのものを
つくってきたということは、
そうとうな高い縫製技術を持っている、
ということですよね。
だからフランス国内外のメゾンからも
たくさんの仕事を受けられていたんですね。
グラストンベリーにおいてHonneteは、
メンズからスタートして、
やがてレディスに移っていった、ということですか?

「はい、メルトンのコートのサイズ展開を拡げ、
パターンは同じで、サイズが異なるものを出し、
ユニセックスで着られますよという
提案をするようになりました。
やがてレディスウェアをつくるようになり、
いまでは100%、レディスになっています」

Honneteのウェアは、
今回のコーデュロイもそうですが、
まず素材のよさに目がいきます。
やはり「テキスタイルの会社」ということが
大きいのでしょうか。

「そうです、さすがテキスタイルの
会社だっただけのことはありますよね」

ん? 「だった」?

「そうなんです。じつは、いろいろあって、
Honneteはいま、テキスタイル部門を閉じ、
縫製部門だけになってしまったんです。
それでもテキスタイル会社時代からのスタッフが多く、
経験も技術もきちんと残されていますよ。
彼らは、自分たちがつちかってきたコミュニティ、
関係してきた会社や人をとても大事にしていますから、
そういうなかから選んだ、
由来のたしかな、いい素材を使います。
私たちが、すこしコストを落としたいなと
すこし安い生地を希望しても、
絶対出てこないですから(笑)」

デザインは、グラストンベリーさんも関わって?

「基本的には、彼らのアーカイブをもとにしています。
彼らのつくるものって、基本的には
『ずっと変わらない』んですよ。
今回のワンピースにしても、そうです。
ただ、もともとはもうすこしボリュームが小さかったり、
長袖だったりしたところを、
例えばちょっと袖を短くしてもらおうとか、
身幅をドンと出してもらおうとか、
着丈を出してもらおうとか、
プルオーバーだったものを、
フルオープンにしてもらおうとか、
そういったリクエストをしています。
Honneteをはじめ、
グラストンベリーが扱っている
ファクトリーブランド全体に言えることなんですけど、
毎シーズン、ブラッシュアップされた新しいコレクションを
求められているわけではないですし、
自分たちもデザイナーではないので、
変わらぬ定番をという姿勢でいるんです。
そんななかに、少し旬なイメージとか、
ちょっとトレンドを意識した素材を導入しています」

なるほど、つまり、デザイナー不在なんですね。

「そうですね。いつも工場との
コミュニケーションのなかでものが生まれます。
工場の中には、パターンを担当してくれる子がいたり、
縫製の技術者が『こうすればもっときれいに見えるよ』
とかっていう子たちがいて、
それの相談の元でいつも成り立ってます。

今回の素材は、どちらのものですか?

「イタリアのRedaelli(ラダエリ)社のものです。
ふるくからのベルベットの生地屋さんで、
そこがつくっているコーデュロイなんです。
ちょっと毛布のようで、おもしろいでしょう?
こういったコーデュロイは、ヘビーデューティの
イメージがあって、じっさいドイツなどでは
コットン100%、
厚くしっかりしているものが多いのですが、
イタリアのRedaelli社のものは、
気遣いがすごく良くて、
5%だけ、カシミアを入れているんです。
その5%と、フィニッシングの違いで、
コーデュロイのあのカジュアルなイメージを覆す、
艶も色も、ちょっと品のある質感になるんです。
しかも、うんと軽いんですよ」

そうなのです。このコーデュロイのワンピース、
一見「重いんじゃないかな」と思うと、
ほんとうに意外なくらい軽い!
「あったかくて、軽くて、衝撃的な着心地」だと
伊藤まさこさんも言っています。

「このワンピースは、
この生地があって、できたことですね。
これだけ用尺がたっぷりしていたら、
ふつうのコーデュロイでは重くなり、
ギャザーを寄せることすらできないと思います」

今回のタグには、
MADE IN POLANDと入ります。
フランスの会社ですけれど、
縫製工場はポーランドにあるんですね。

「はい、いま、フランスのブランドは、
ポーランドに縫製工場を持つことが増えました。
ここ10年ほどで、
ポーランドの縫製技術が飛躍的に高まったんですよ」

ところで、そういう遠い場所から、
日本にいながらどうやって
「いい工場」を見つけてくるんでしょう?
それが不思議で‥‥。

「創業者がそういうものが大好き、
ということもありますし、
そのボスのふるくからの友人で
ビジネスパートナーでもある英国人がいて、
現在、ロンドンを拠点にヨーロッパ各地の工場と
やりとりを担当しているんです。
彼らが、マニュファクチュアリングが、大好きで。
展示会にすら出てこないようないい工場を探し、
私たちに紹介をしてくれるんですね。
若いころから、旅をして、
得体の知れないところから
いいものを探してくるのが好きな人たちなんです」

なるほど、そんな強い味方が!

「彼らとおなじように、結局、私たちは
『好きじゃないとできない仕事をしている』
んだと思いますよ」

内田さん、どうもありがとうございました。
そんな背景を知ることができて、
Honneteというファクトリーブランドのこと、
そしてグラストンベリーのことが、
よくわかったように思います。

次回は、Honneteのファンだという
スタイリストの轟木節子さんによる
コーディネート解説をお届けする予定です。
どうぞ、おたのしみに!

▲“Redaelli Velluti – Journey of the Production Cycle”
今回weeksdaysで販売するワンピースの生地をつくっている
イタリアのRedaelli(ラダエリ)社のイメージ動画です。

2019-10-27-SUN