ひさしぶりにSTAMP AND DIARYの吉川さんと
代官山のオフィスでおしゃべりをしました。
テーマは、この冬、「weeksdays」で展開する
ウルトラファイン・メリノウールとカシミアをブレンドした
明るい3色のニットについて。
旅と日常を往き来するように、というブランド哲学は、
主宰の吉川さんの永遠の憧れであり、
伊藤さんもふかく納得するところ。
二人の会話は、ちょっとした仕事論、人生観へと展開。
全3回、どうぞおたのしみくださいね。

吉川修一さんのプロフィール

吉川修一 よしかわ・しゅういち

株式会社STAMPS代表。
1965年東京生まれ。
大学卒業後、数社のアパレル企業で営業、
マーケティングと店舗開発に携わる。
国内外のファッションとものづくりに触れた経験から
2013年にSTAMPSを設立。
「STAMP AND DIARY(スタンプアンドダイアリー)」や
「utilité(ユティリテ)」、
「kijinokanousei(キジノカノウセイ)」などの
オリジナルブランドの制作のディレクションから
フランスのバッグ「TAMPICO(タンピコ)」など
インポートブランドのディストリビューションまで手掛ける。
最近ではアパレルにかぎらず、
日々を豊かにする「もの」全般を取り扱っている。
「weeksdays」では「あのひととコンバース。」に登場。

●website

02
『アニー・ホール』みたいに

伊藤
さて、今回のこのニットについて
お話を聞かせてください。
これはどういう経緯でつくられたんですか。
吉川
ぼくらがニットに使う素材は、
STAMPSと強い信頼関係のある
ニッターさんからの提案から選ぶことが多いんですが、
たまたまこの糸を教えてもらって、
糸を触った瞬間、もうこの形が半分見えて。
伊藤
糸を触った瞬間に?
吉川
はい、そうなんです。
「あ、これはすごい糸だ」って。
よくよく調べたら、この糸、
メリノウールじゃなくて
ウルトラファイン・メリノウールと
カシミヤをブレンドした上質な糸だったんです。
そもそもメリノにも何種類もあって、
細くなればなるほど高級になります。
なかでもウルトラファイン・メリノはとても滑らかで、
肌ざわりもやわらかいのが特長。
それ以上を求めるなら
カシミヤを使うことになるんですけど、
この糸、カシミヤをブレンドしているんですね。
メリノとカシミヤの混紡っていうのは新しい。
ちなみにメリノウールって今すごく見直されてて、
保温性、調湿性、消臭性が高いので、
例えば山を登る方とか、スポーツ系の方にも人気ですし、
ぼくも旅の相棒にメリノウールが重宝しています。
そんなメリノウールにカシミヤを混ぜたんだ! と思って。
伊藤
カシミヤは何パーセントですか。
吉川
10%です。
ほんの少しではあるんですけど、
やっぱりカシミヤが入ってるのと
入っていないのでは違うんです。
ぼくがこの糸を触ったときに思ったのは、
「あ、これはもう『リラックス』だ」。
リラックスっていうのは
STAMP AND DIARYがずっと提案していることで、
「リラックスしながらおしゃれもできる」
という服のコンセプトです。
じゃあこのニットは
どこでおしゃれをするためか、っていったら、
家とかホテルの部屋の中とか、
そういう「ホーム」なワードが浮かびました。
このニット、全体的にリラックスするけれど、
ちゃんと落ち感が出るので、
締めるところをちゃんと締めれば
すごくいいんじゃないかと思ってデザインしたんです。
伊藤
締めるところっていうのは、袖口とか?
吉川
そうですね。
じつは、このパターンに行き着くまで、
最初、ポンチョみたいな、
すごく大きいものを考えていて。
リラックスっていうことを考えて、
そうなっていたんですけど、
いや、これはやっぱり1枚で着て
まとまった方がいいなと思って、
最終的にこの形になったんです。
伊藤
四角いですよね。
吉川
そうです。真四角。
身幅を広くとることで動きも楽になるし、
意外に、そこまで大きなシルエットにはなりません。
伊藤
手を広げると四角いけど、
下ろすとその四角い部分がちゃんと下に落ちて、
体に馴染む感じがしました。
吉川
はい。ドレープもきちんと出ます。
身幅で言うと80.5センチあるんです。
そして、デザインのポイントとして、
1枚で着たとき手が寒いときを想定して、
親指が出るフィンガーホールを入れました。
これはもともとフィッシャーマンズセーターで
よく使われているテクニックです。
漁師さんがニットの長めの袖先から親指を出して
甲や手のひらの寒さを防ぐデザインですね。
それをあえて取り入れました。
伊藤
襟もすてきです。
吉川
襟は、けっこう考えました。
絶妙なくしゃ感、というんですかね、
折らなくても、さまになるデザイン。
伊藤
そうそう、わたしたち、
折って撮影をしてないです。
全部、くしゃ、って。
吉川
イメージは、アメリカ映画です。
たとえばウディ・アレンの『アニー・ホール』で
主演のダイアン・キートンが着ている服は、
ラルフ・ローレンのメンズウェアで、
彼女はプライベートでも
そういうスタイルが好きだったんですって。
映画ではこういうニットは着ていないと思うんですが、
その感覚で、女性が、大きなセーターを
着ちゃったときのたるみ感がいいなあ、と。
『アニー・ホール』の公開当時に
日本でその感覚を出せる人が少なかったけれど、
ぼくはずっと「いいな、いいな」と思ってて。
伊藤
なるほど。
吉川
裾の、クルっとなる切りっ放しっぽい始末も
あえてそういうふうにしています。
自然なリラックス感みたいなのを演出したかった。
そういうところが、このニットの
デザインのポイントになりました。
伊藤
スカーフを下に巻いたときに、
ちゃんとおしゃれっぽくなってます。
吉川
そうですね。
部屋の中でも、外でも大丈夫ですよね。
部屋の中にいてぬくぬくしてて、
「あ、そうだ。買い物行かなきゃ」っていうときに
スカーフ1枚とかアクセサリー1個つけて、
ボトムスだけちゃんと選んでいただければ
もうそのままおしゃれ着として行けちゃうみたいな。
伊藤
吉川さんは、糸を触った瞬間に
そういうシーンが見えたんですね。
吉川
そうですね。出ましたね、これは。
伊藤
へえー。すごい。
アイデア、ちゃんと出てるじゃないですか。
吉川
ほんとですね。
何言ってんだよさっき、みたいな。
伊藤
安心しました。
(つづきます)
2026-10-27-TUE