「weeksdays」に初登場となる
インテリアブランド「DUENDE(デュエンデ)」。
伊藤まさこさんが見つけた瞬間に
「これ!」と思ったという、
半円型の傘立て「MUKOU(ムコウ)」です。
デビューしてから今年で16年という
まさにロングセラーのアイテムで、
DUENDEにはこういった
長く愛されているプロダクトがたくさんあるのだそう。
ブランドマネージャーの酒井浩二さんに、
DUENDEのものづくりについて、
伊藤さんがたっぷり聞きました。
そこには、日本で暮らす私たちに、
うれしい理由がありました。

酒井浩二さんのプロフィール

酒井浩二 さかい・こうじ

スチールの家具ブランド「DUENDE」
ブランドマネージャー。

「もともとは、製品の仕様、構造を考え、実際に製造現場で
どのように作るか工場内で協議して製品化を進める、等の
エンジニアリング・組立梱包仕様や
在庫生産管理などの裏方を主にしていました。
現在は、狭い日本の暮らしでの使い易さや、必要性、
薄くても丈夫、細くても強い、簡単に壊れないという
スチールのメリットを活かし、
シャープでコンパクトな佇まいの家具を立案、
デザイナーと協働開発を行っています。
DUENDEとして展示会に出て、
人に伝えることもしています」

私生活では高校生と中学生の男子の父。
思春期の割には仲良し。
「さすがに小さい頃のようには遊んでくれませんので、
今は撮影や作業場としても使っている個人オフィスで
レコードを聴いたり、料理したりと、
一人時間を満喫しています」

荷物もたくさん積めるというのが理由で、
1990年代前半の四駆に乗りつつ、
コロナ禍を機に昔から欲しかった
“宇宙一壊れると言われる赤いラリー車”を入手。
「デザイン的に古い車が好みなので、
快適なドライブや車生活というより、
好きな車に乗り続けて維持するのが
趣味といえるかもしれません」

■DUENDEのウェブサイト

酒井さんのInstagram

02
空間に沿う形

伊藤
酒井さんがDUENDEに携わられて
もう20年ほどということですけれど、
最初に作られたものは何でしたか。
酒井
もう販売終了してしまったんですけど、
WALL RACK」です。
壁に立てかけるだけのシンプルな収納棚で、
21年前に、真喜志奈美(まきしなみ)さんという
プロダクトデザイナーと一緒に作りました。
伊藤
真喜志さん、那覇の彼女のギャラリーで
ちらりとお目にかかったことがあります。
酒井
「おもしろいデザイナーさんがいるよ」
と紹介されたのがきっかけで、
一緒にものづくりをしようということになりました。
DUENDEに入る前に僕が担当していた
ほとんどのブランドでは、
「今、こういうものが流行ってるから売れそうだよね」
「予算は大体これくらいかな」
という感じで、
まずはサンプルを作って、
ちょっと違うなというところを、
予算の中でできるだけ直しつつ、
多少は妥協をして製品化に持って行く、
という作り方をしていました。
でもこの「WALL RACK」を作ったとき、
真喜志さんはそれでは納得してくれないんですよ。
伊藤
どういったところが、でしょう。
酒井
真喜志さんに描いてもらった図面をもとに
サンプルを作ったんですけど、
それを見て「なんか違うんだよね」と。
台湾の工場で作っていたので、
僕が現地へ行って、
ここが違ったのかなというところを直して
もう一度見せると、
また「なんか違う」って言うんです。
伊藤
「なんか違う」が真喜志さんのキーワード。
酒井
はい。僕から見たら、
ちゃんとかっこいいと思ったんですけど、
彼女がそう言うので、
何度も何度も直しました。
工場にはその都度サンプルを作ってもらってるから、
ここまできて製品化をやめるとは言えないんです。
伊藤
そうですよね。
どういったところを直されたんですか。
酒井
「棚板のアール(カーブの角度)を
もうちょっときつくできないかな?」
と言われて、
「パイプがつぶれちゃうから無理だと思います」
と返したんですけど、
「つぶれる限界までやってみたい」と。
もう、彼女が納得するまでやろうと決めて、
「わかった、やってみましょう」と、
その通りに作ってみたんです。
今でも覚えているんですけど、
最後にでき上がったものを見に台湾に行ったとき、
工場の壁に立てかけてあるのを見た瞬間、
1つ前のサンプルとは
全く別のものに見えたんです。
工場の社長もそれがわかったんでしょうね、
「漂亮(ピャオラン=うつくしい)」
と言ってくれました。
伊藤
それはうれしいですね! 
酒井
衝撃を受けましたし、
このとき初めて、
「デザイナーさんってすごいんだな」と思いました。
デザインというものを勉強してきて、
理論的にもわかっているし、
見てきたものの量だって、
僕の何百倍もあると思うんです。
そんな人が「なんか違う」と言うのは、
見た目だけではなくて、
倒れないようなバランスや角度、
全てひっくるめて、
やっぱり「なんか違う」んですよね。
伊藤
使い勝手も含めてうつくしいものを
求められている。
酒井
そう。
たとえば安定性が悪いと、
使う人もどこかでそれを感じますよね。
それはやっぱり「なんか違う」、
うつくしくないということなんです。
この「WALL RACK」を作ったときに
そのことに気づいて、
こういうものづくりの仕方っていいなあと感じました。
伊藤
じゃあ、
それまで酒井さんがされてきた仕事の仕方とは
変わっていったんですね。
酒井
そうですね。
もし僕が何度も作りなおすのが嫌になって
途中でデザイナーは要らないと判断していたら、
うつくしい完成形は見られなかったわけですから。
コストが高くなることは避けようという
以前の考え方はやめて、
今はデザイナーが作りたいものを
最後まで曲げずに作りたいと思っています。
真喜志さんとDUENDEとの出会いは、
僕の中のものづくりの考え方が
変わったきかっけになりました。
伊藤
すごい出会いでしたね! 
今まで作られてきたプロダクトは、
それぞれそういうストーリーがあるんですね。
酒井
全てにありますね。
伊藤
今回取り扱わせていただく傘立て
MUKOU」は、
どんなふうにできていったんでしょうか。
酒井
実はこれ、
もともと傘立てじゃなかったんですよ。
伊藤
えっ? 
酒井
最初は「ごみ箱」として、
引間孝典と鈴木正義という
2人のデザインユニット
が作ったものなんです。
水道管や通気管に使われる、
塩化ビニール製のグレーの配管ってありますよね。
あれをスパッと切ったような形のデザインで、
「サイレント」というテーマで、
壁に添わせるというコンセプトで作られたものでした。
プロダクト自体はかっこいいんですけど、
色や素材の感じが、
ふつうの家に置いたときに、
逆に目立ってしまうんじゃないかと思ったんです。
伊藤
あまり馴染まなかったんですか。
酒井
すごくデザイン性の高い家なら馴染むかもしれませんが、
一般的な家なら、
ちょっと浮いてしまう気がしました。
ただ、「MUKOU」というネーミングにもあるように、
“壁の向こうにつながっているように見える”
という考え方はおもしろいなと感じ、
DUENDEではスチールを扱っているから、
素材をスチールにして、傘立てとして作ったらどうかと、
僕から提案しました。
デザイナーの2人も、
「それならいいかもしれない」と。
世の中にある傘立てって、
四角くて邪魔だったりしますから、
この形は新しいなと思って。
伊藤
ほんと、新しいです! 
以前、「weeksdays」でも
半円のテーブルを作ったことがあるんです。
そのときに、円を半分にしただけで、
こんなに家具の周りの空間で
いろんな動きがスムーズになるなんてすごい! 
って感動したんですよ。
形もかわいいし、
スペースが限られる玄関に置いても、
邪魔にならないんですよね。
この「半円」が気に入って、
山荘の薪ストーブも半円で作りました。
酒井
えっ。すごいですね! 
伊藤
それでこの傘立てを見つけたときに、
「これだ!」と思ったんです。
傘立てって、だいたい玄関に置きますから、
狭い場所でも壁に沿ってくれて邪魔にならずに、
デザインも主張しないものがいいなと
思っていたんです。
酒井
最初に作ったサンプルは、
背板がけっこう高めだったんですよ。
玄関ってそんなに広くないですから、
どうしても寄りで見ることになったときに、
上から背板がのぞいちゃうんですよね。
そうなったら、
せっかくのこのデザインが台無しです。
伊藤
ええ、そうですよね。
酒井
置くときに壁につけるんだから、
背板は思い切って下げちゃおうと言って、
この形になりました。
それはわりと斬新だったんじゃないかと思いますね。
近くで見ても背板が見えないから、
「これどうなってるの?」
って、ちょっと変わった見え方になるんです。
伊藤
そうそう、
白い壁にホワイトのMUKOUをつけたとき、
壁と一体になって、すごく不思議に見えました。
酒井
おもしろいですよね。
場所をとらないわりに、
容量もわりとあるんです。
最近、この中にルーターを隠したりして
使ってくださる方もいらっしゃいます。
伊藤
なるほど、ルーター! 
あれは見せたくないですものね。
酒井
それから、
僕はこれに花を生けたりもしています。
梅雨以外はそんなに雨も降らないし、
長傘はほとんど使わないので、しまっちゃって。
この中にちょうどペットボトルが隠れるから、
ちゃんとした花瓶がなくても代用もできちゃいます。
背丈がある枝ものとかだと、
大きいフラワーベースに入れても倒れちゃうんですけど、
「MUKOU」なら風が吹いても倒れません。
伊藤
ほんとですね。
いろんな使い方ができる気がします。
酒井
インテリアの中で
コントラストも出しやすいデザインで、
かっこいいと思います。
(つづきます)
2025-09-09-TUE