18歳でデビューしてからというもの、
あの印象的なポカリスエットの広告、
サカナクションや
星野源さんや米津玄師さんのМV、
大河ドラマ『麒麟がくる』の
メインビジュアル‥‥などなどなど、
みなさんもきっと、
どこかで目にしているはずの作品を
次々と作ってきた奥山さん。
さぞ「撮影漬け」な日々なのかなと
思いきや‥‥。大切なのは、
シャッターを切ることよりむしろ、
一回の打ち合わせ、一通のメール、
ひとつひとつコミュニケーションだと。
その創作論、全5回でおとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第3回 高校生の青春を肯定する。

くるり アーティスト写真(2018) くるり アーティスト写真(2018)

──
奥山さんの「わからない」の話、
抽象的ですけど、おもしろいですね。
奥山
ぼくたち人間が
いちばんわからないのは何だろうと
考えたとき、
それは人間じゃないかと思うんです。
──
人間が、
最後までわからないのは、人間。
奥山
それは「自分自身」についてもそうで、
思いもよらない自分って、いますよね。
自分のことだから、
みんなわかってる気になってますけど、
こんな感情があったんだとか、
こんなことを思っていたんだとか、
こんな表情をしてるんだとか。
──
自分で自分に、ハッとするようなこと。
あります、たしかに。
奥山
でも、言葉って断定性が強いので、
あの人はああいう人ですから‥‥って、
人間をはじめ、
多面的な存在を画一的にまとめちゃう。
写真でも映像でも、
他の表現でもそうかもしれないですが、
画一的に集約されない伝え方って
きっとあるはずなのに、
たとえば誰かタレントさんを撮るとき、
「この人って、こういう人だよね」
というところに、
わざわざあてはめちゃうようなことが、
よくあると思うんです。
──
その人のパブリックイメージどおりに、
画一的に描いてしまう、ということ?
奥山
はい。どのポスターを見ても、
誰が撮っても、同じような顔をしてる。
もちろん、
厳密に「同じ顔」というわけじゃなく、
醸し出すもの、
表情が同じという意味ですが。
──
何とか系とか、何々派とかでくくって。
奥山
何の意味があるんだろうと思うんです。
同じ表情を撮りたいのなら、
1枚の写真を使いまわせばよいのでは、
という気持ちにさえなります。
──
たしかに。
奥山
被写体の方が、
毎回、別々の写真家に撮られるのなら、
当然、
いろんな見え方をされて然るべきだと、
ぼくは思うんです。
──
そうですよね。うん、うん。
ぼくらの勝手なカテゴライズを超えて。
奥山
人間だって、動物だって、自然だって、
そう簡単には「わからない」はずですよね。
だから
先に「何とか系」とか「何々派」って
「カテゴリー」があって、
そこへ向けてシャッターを切るんじゃなく、
そんな括りを
超えていくような写真になっていないと、
もったいないと思うんです。

ANREALAGE「TIME」(2012) ANREALAGE「TIME」(2012)

──
もったいない。
奥山
そう思いながら人と向き合っているので、
よく、ぼくの写真に対しては
「えっ、これ、あの人だったんだ」とか、
「あの人っぽく見えない」と言われます。
でもそれは、いい意味だけじゃなくって、
たまに、
ネガティブに言われることもあるんです。
──
そうですか。
奥山
とくにクライアントワークで
「あの人って、こういう表情もするんだ」
という感想を
言っていただくことも多いのですが、
それすらも、こんどは
自然体という言葉でくくられるんですね。
そういうことじゃないよなと思っていて。
──
人間は、カテゴライズして「理解」して、
管理下に置いて、安心したい動物だから。
たしかに自然体ってどういう状態なのか。
奥山
たぶん、その人が、これまで
ずっと描かれてきたある一面ではなくて、
もっと多面的に見えるというか‥‥
こういう表情もするんだ、と。
つまり、
人間の多面性を捉えているから「自然」、
「人間っぽく見える」
という意味なんだろうなと思っています。
──
なるほど。
奥山
記号とか情報に変換することのできない、
人間のもつ、人間らしさ。
ようするに
「わからなさ」みたいなものが写ってる。
そういうことなのかなと、解釈してます。
──
お話をうかがっていると、
写真家の奥山さんがやっていることって、
実作業の面でも、
考え方の面でも、
かなり「編集」的領域と重なってますね。
奥山
そうかもしれません。
──
撮影するという行為が、
シャッターを切る‥‥瞬間だけじゃなく、
その前後を、相当含んでるというか。
奥山
そうですね、広告のお仕事でも、
今回は何を伝えるべきかというところから
お話させていただくことが、
ぼくの場合は、ほとんどなんです。
──
自分はぜんぜん知らない世界なんですが、
広告の撮影って、
いわゆる
クリエイティブディレクターの指揮下、
きっちりしたラフがあって、
その「設計図」に沿って撮るみたいな、
そういうイメージってあると思うんです。
奥山
はい、そうだと思います。多くの場合は。
でも、ぼくに頼んでくださるみなさんは、
まず「気持ち」を共有してくれる。
こういう気持ちを表現したい、
伝えたいんだけど、
どうすればいいだろう‥‥という感じで、
投げかけてくれることがほとんどで。
──
へええ‥‥。
奥山
なので、最初から
ビジュアル的な話にはならないんです。
──
それは、いつからそうなったんですか。
奥山
はじめての出稿量の多い広告は、
たぶん「ポカリスエット」なんですけど、
クリエイティブディレクターの
正親篤(おおぎあつし)さんが、
最初の打ち合わせのときに
「高校生の青春を全力で肯定してほしい」
と、おっしゃったんです。
──
えっと‥‥それだけ?
奥山
はい、そこさえズレなければ、
あとはおまかせします、みたいな。
高校生の青春を全力で肯定してくれたら、
何を撮ってもいいですからって。
──
そうなんですか。
奥山
とにかく、あの仕事で大事だったのは
「肯定」という「気持ち」でした。

POCARI SWEAT「踊る修学旅行」篇(2017) POCARI SWEAT「踊る修学旅行」篇(2017)

──
ロケ地とかキャスティングとかじゃなく。
「気持ち」。
奥山
あくまで「気持ち」をどう伝えるのか、
その具体化は任せていただいているので、
答えは、撮る人の数だけある。
その「気持ち」を正面から受けとめて、
その「気持ち」を忘れないで撮ったら、
あの広告になったんです。
──
すごい。
奥山
で、たぶん本当は、
それくらいシンプルなことなんだろうと
思っています。
──
ああ‥‥。
奥山
まず、クライアントの大塚製薬さんが
クリエイティブディレクターの
正親さんのことを信頼しているんです。
その信じている気持ちが、
絶対に揺るがない安心感になっている。
そして次に、正親さんが、
ぼくに信頼を置いてくれたんですね。
──
ええ。
奥山
そして、最後にぼくが、
その信頼を受けて、被写体を信じて、
どう撮るか‥‥です。
もちろん、撮影のための準備は
たくさんやりましたけれども、
大きかったのは、
高校生の青春を肯定するんだ‥‥
という気持ちで、全員がつながっていたこと。
──
なるほど。
奥山
情報とかテクニックとかデータとか、
そういうものよりも、
最後に残る大事なポイントって、
一言で表現できるような
「気持ち」のことだと思う。
その一言を共有できてさえいればいい。
そのシンプルさだと思います。
──
ラフとか設計図を前にして、
微に入り細をうがって確認しなくても。
奥山
気持ちを共有することができていれば。
逆に、気持ちを共有できていなければ、
どれだけ細かいラフがあろうとも、
たぶん何も撮れないです。
──
何でしょう、
「高校生の青春を肯定してあげてほしい」
という、
その一言に含まれているものの、豊かさ。
いやあ、だって、「肯定したい」ですよ。
「高校生の青春」って。
もう、それだけでジーンとくる言葉だし、
「どんなふうにしよう?」
という気持ちが湧きあがってきますよね。
奥山
あの広告を見た人が受け取ったものも、
商品の機能性とか、
おいしさとか、そういうことじゃなく、
やっぱり「気持ち」だったと思います。
こういう飲料だから飲んでほしいです、
じゃなくて、
ポカリスエットという飲料ブランドは、
手にしてくれる人たちに、
どういった気持ちで寄り添いたいのか。
──
それ、伝わってきますね。すごく。
奥山
それ以前にも、
広告の仕事はいくつかやってましたが、
こういうことが
人に何かを「伝える」ってことなんだって、
ハッキリわかったんです。
当時、まだ26歳くらいだったぼくに、
あんなに大事なことを
わからせてくれたクライアントさんや
正親さん、プロデューサーの方‥‥
すべての関係者に感謝が尽きないです。
──
しかも、
高校生の青春を肯定してあげてほしい、
という言葉は
広告コピーなわけじゃないんですよね。
奥山
ちがいます。
──
ようするに「言葉」としては
いっさい表には出てないわけですよね。
でも、すべてを生んだのはその言葉で。
奥山
ええ。
──
簡単に言葉でくくられるような表現を
したくはない奥山さんがいて、
でも、他方で、
高校生の青春を肯定してあげてほしい、
というのも言葉じゃないですか。
両者の間の違いって、何なんでしょう。
奥山
気持ちと通じてるかどうか、ですかね。
やっぱり、その言葉が。
──
なるほど。
データや情報やレッテル貼りじゃなく。
奥山
感情とつながってるかどうか‥‥です。
高校生の青春を肯定するということが、
具体的にどういうことなのか、
答えが決められているわけではないですよね。
──
それこそ「わからない」です。
奥山
だから、やっぱり、
気持ちとか感情の話でしかないと思います。
青春を肯定する‥‥って。
その琴線に触れている言葉に、
ぼくらは、何かを感じ入るんだと思います。

(つづきます)

2022-02-09-WED

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  • 奥山さん、デビューから12年間の クライアントワークの集大成!

    2010年のデビュー以来、
    奥山さんが、これまでの12年間に撮った
    広告、雑誌、映画、アパレルブランド、
    大河ドラマのメインビジュアル、
    俳優やミュージシャンのポートレイト‥‥。
    作品制作と並行して
    撮影してきた写真が1冊にまとまりました。
    あ、これも? ええー、これも!!
    そんな写真集です。
    何より、この物体としての存在感、強さ。
    インタビューでも語られていますが、
    この本の分厚さや重量は、
    奥山さんが、たくさんの人々と結んできた
    コミュニケーションの集積なんだと思うと、
    「何という30歳だろう!」
    と、あらためておどろき、あこがれます。
    そして、この「12年間」が、
    奥山さんにはあと何回あるのか思うと‥‥。
    ぜひ、手にとってみてください。
    この厚みと重みを、感じてみてください。

    Amazonでのおもとめは、こちら

    特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。