今年新設された、「ほぼ日マンガ部」。
マンガ部部長の糸井重里が最初にやったことは、
「はじまりの旗」となるようなポスターを、
横尾忠則さんに依頼することでした。
この連載で語られるのは、
横尾さんの原画から生まれた2種類のポスターのうち、
100枚限定で販売する「シルクポスター」のお話です。
『デザインのひきだし』の編集長、
津田淳子さんを聞き手に迎え、
シルク印刷を手がけた
岡部版画工房代表の牧嶋成仁さん、
横尾忠則さん、そして糸井重里が、
この1枚のポスターを前に語ります。
このコンテンツが、あなたと、
「シルクポスター」という芸術作品との
出会いになることを願って。
全5回で、お届けします。

>横尾忠則さんのプロフィール

横尾忠則(よこお・ただのり)

1936年生まれ。美術家。国内外の美術館で個展を開催、高い評価を受ける。大阪万博の「せんい館」、「腰巻お仙」のポスター、「Y字路」シリーズなど、横尾作品はつねに世代を問わない人気を誇る。

>牧嶋成仁さんのプロフィール

牧嶋成仁(まきしま・なるひと)

1967年生まれ。刷り師。日本におけるシルクスクリーン版画のパイオニア・岡部徳三氏が創業した「岡部版画工房」の現代表。靉嘔、草間彌生、Nam June Paikなどの世界的な評価を得ている作家をはじめ、国内外で活躍する優れたアーティストとのコラボレーションにより数多くの作品を世に送り出している

>津田淳子さんのプロフィール

津田淳子(つだ・じゅんこ)

1974年神奈川県生まれ。編集者。『デザインのひきだし』編集長。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にデザイン書や美術書などをあつかうグラフィック社に入社。2007年、毎号、発売してはすぐに完売してしまう『デザインのひきだし』を創刊。現在は株式会社水鈴社に移籍し『デザインのひきだし』を続刊。デザイン、紙の種類や加工、印刷技術にまつわる、さまざまなテーマを追求し続けている。

前へ目次ページへ次へ

第3回 完成させるってつまんない。

横尾
ぼく結局ね、オフセットはまだ見てないのよ。
糸井
あ、そうですか?
牧嶋
いや、あそこに貼ってあるよ。

横尾
ああ、あれがそうか。絵が同じだから気づかなかった。
糸井
オフセットはオフセットで本当に素晴らしいんですけど、
シルクはやっぱり「圧」が違いますね。
津田
「本当に印刷か?」って、ちょっと思っちゃいますね。
できあがりを見てもやっぱり、
印刷というより「版画」だよなっていう。
牧嶋
そのへんは、触ってもわかりますね。
版数が多いところは、実際にボコボコしてるんで。
津田
印刷ってほとんどは、
物理的な奥行きというか、
「立体感」はないものが多いじゃないですか。
でもこのシルクは実際に「物理的な立体感」がある。
横尾さんご自身は、
このシルクポスターをどう思ってらっしゃるんですか?
横尾
シルクのほうはやっぱり、ちょっとしつこいね。
オフセットはサラッとしてる。
こっちのほうが原画に近いんじゃない?

牧嶋
それは、そうでしょう。
オフセットは原画を実際に「写してる」んだもん!
シルクは一から分解して、大変なんだよ。
簡単に言ってくれるなって!(笑)
横尾
みんな、オフセットしか買わなかったらどうする?
牧嶋
それは、それは困る!(笑)
横尾
ただ、まあ、家に飾るんだったら、
やっぱりシルクは「物質感」があるよね。
オフセットはツルンとしてるからさ。
あれには「物質感」はない。
さっきは背景の汚れをもっと弱くしろと言ったけれども、
そこも「版画作品」として考えれば、
これでいいのかなとも思うんだよね。
糸井
あれ、迷いが(笑)。
牧嶋
いや、抑えるよ。もうちょっと抑えますよ。
横尾
インパクトがあるからね、
多少汚れたぐらいのほうが。
シルクなのにあんまりツルンとしちゃうとさ、
「商品」って感じがするから。
糸井
シルクは「べつの作品」ですからね。
横尾
そう。たとえばこの絵なんかも、
今描いてるやつ、完全に描きかけでしょ?
これをそっくりこのままシルク版画にするとね。
非常におもしろいと思う。

糸井
ああ! すごくいいですね、それ。
横尾
「完成した原画」を版画にするよりもね、
「原画の途中」を版画にしたほうが、
おもしろいのができると思う。
糸井
おもしろいです。
横尾
これをこのまま描いちゃうとさ、
「いま」の状態がなくなっていくわけですよ。
この状態で留めるために、
版画としてさ、つくっとけば面白いと思う。
津田
「途中」を作品として留めておけるってことですね。
横尾
これ、これから続きを描いてくでしょう?
そうすると、だんだん「絵」に近づいていくんですよ。
つまんなくなるの、ある意味で。
これからの絵はどんどんそういうふうにさ、
「完成されたもの」に対しての魅力がなくなって、
「プロセスしかおもしろくない」という時代が来ると思う。
もうね、「完成させる」ってつまんない。
糸井
たぶん絵だけ見たら、
「途中」のほうが好きだって人もいますよね。
横尾
いると思う。
見る人はさ、途中段階だと思って見ないから。
これが完成だと思って見るからさ。
で、1枚の「作品」として見たときには、
こちらのほうが自由だし、
見る側は「好き勝手なことやってる」って
判断すると思うわけ。
描きすぎてしまうとね、
ダリの絵みたいになってつまんなくなっちゃう。

糸井
ああ、ダリも「途中」を見れたら
さらに面白いでしょうね。
横尾
ダリはもう、
描いちゃいけないところまで全部描くから。
だからつまんない作家になっちゃったんだ。
たぶん途中段階は、
おもしろいところいっぱいあったと思う。
サービス精神が旺盛でね、全部仕上げちゃうから、
美術界での彼の評価は非常に低い。
途中段階でやめてたら、ダリももっとおもしろかった。
糸井
ピカソが描いてる最中の映像を
ずっと撮ってたのがありますよね。
あれ、おもしろいですよね、やっぱり。
横尾
おもしろい。次の瞬間、変えちゃうからね。
できたと思ったら、また全部塗りつぶして。
糸井
そうそう。
どんどん下絵からずれていくんですよね。
横尾
描いている途中の絵というのは、
本当は「瞬間瞬間な完成作品」がいっぱいあるわけよ。
彼はそれを映像で残そうとしたわけだけど、
残すったって、映像は次から次に動いて、
さっきまで映ってたのがまたすぐ消えてしまうからね。
だからやっぱりそれをちゃんと
「作品」にするなら、版画なの。
糸井
それは、牧嶋さんがいないとできないですよね。
つまり、「写真」じゃダメでしょう?
横尾
写真じゃないね。写真は「複製」だから。
でも版画なら、「版画」という作品になるからさ。
そうするとますます、
絵の途中段階のプロセスがさ、
「作品」として評価されるようになると思う。
この顔なんかさ、下手くそな顔でさ、
まだ顔になってないわけよ。
ここを通り過ぎて「完成」へ持っていっちゃうとさ、
もうつまんないの。

糸井
いやあ、もうこれは‥‥大発明!
すごいこと言うんだ。
ときどき急に、こういうふうに。
いま横尾さんが言ったやり方だと、
完成された1枚の高額な絵が
「誰のものでもない」という
宙ぶらりんになるんじゃなくて、
何枚かになって誰かのところに行きわたりますよね。
横尾
そう。気楽でいいわけ。
糸井
ああ、そうか。
未完成だと、「軽く」できるんだ。
飾りやすさもありますよね、そっちのほうが。
横尾
絵というのはどこかに気楽なものがないとね、
見る側はくたびれちゃう。
あまりにも描きすぎたやつ見るとね、窮屈。
糸井
「鑑賞」になっちゃうんですよね。
横尾
たぶん、牧嶋君もこういうのを
やりたがってると思うんだけど。
牧嶋
え?
糸井
やらせようとしてる!
牧嶋
誘導してる!(笑)
横尾
いっぺんできてるから。
ここ、汚れたままでいいから。
だから牧嶋くん、これを版画にさ‥‥
糸井さんのはいいよ、もう。
一同
(笑)
津田
すごい結論に(笑)。
牧嶋
ちょっと、ちょっと(笑)。
先にマンガ部のをやんないといけないから!
インクもないんで、もうちょっと待って!
横尾
マンガ部のは、汚れたままでもいいんじゃないの?
この汚れたのはぼくが汚したんじゃなくって、
印刷屋さんが汚したんだから。
そこに、「作品のプロセス」が出てくるんだからさ。
そうすることで、ぼくと印刷屋さんのコラボになる。
それでいいの、版画は。
どこで止めても、それが「作品」になるわけ。
牧嶋
えっ、これ、どっち?(笑)
直さないほうがいいの!?(笑)

(つづきます)

2026-06-28-SUN

前へ目次ページへ次へ
  • 横尾さんが手がけた伝説のポスターや希少なポスターをぴったり90点厳選。渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」に展示します。

    ポスターのご購入はこちらから。

    横尾忠則さんが描いた「ほぼ日マンガ部」のポスターが、500枚の「オフセットポスター」として販売されます。印刷を担ったTOPPANの富岡隆さんに、『デザインのひきだし』の創刊編集長・津田淳子さんがインタビュー。

    マンガ部ポータルサイトはこちらからどうぞ。

    「マンガ部ポスター」の誕生について、
    横尾忠則と糸井重里がはじめて話した日。

    「ほぼ日マンガ部の、
    『はじまりの旗』になるようなポスターを」
    糸井重里からのそんな依頼を受け、
    横尾忠則さんは1枚の原画を
    描きあげてくださいました。

    その原画がこのたび、「100枚のシルクポスター」
    「500枚のオフセットポスター」になって
    世に飛び出していきます。

    それを記念して、横尾さんと糸井が
    このポスターの誕生についてはじめて話したときの、
    5分と少しの動画を公開します。
    「わからなさ」こそを
    おもしろがるふたりのことばを、
    どうぞおたのしみください。