──

真造さん、今日はほんとうにありがとうございます。
まずは、真造さんが『ひらやすみ』で描かれている
生活、暮らしについて、
「こういうところがいいと思ってるんだ」みたいなこと、
真造さんにとって「ちょっといいな」って思う暮らしって
どんなものなのかから伺えたらなと思っています。

真造

そうですね、「ちょっといい暮らし」ですか。
うーん‥‥？　なんだろうなあ。
「いい生活」‥‥、いきなりですけれど、
ぼく、連載を、ちょっと休むんですよ。

──

はい。

真造

連載中は本当に忙しくて、
こんなふうに（のんびりした）漫画を描いていながら、
実生活では、友達と予定を入れることすらも
億劫っていうか、
「その時間があったら漫画描けるのにな」
みたいな感じになっていたんです。
『ひらやすみ』の登場人物で言うと
よもぎさん^（＊）の気持ちみたいな生活を、
連載を始めてから最近まで続けてきたんですけど、
ちょっと休んでみようって決めました。

（＊）立花よもぎ。主人公・ヒロトの家を管理する
不動産会社の社員。仕事はバリバリ、けれども余裕がなく、
なにかとイライラしがちなキャラクター。

──

そうだったんですね。

真造

休むことには不安もあるんですよ。
こののんびりした物語を、
悔いのないように、
時間のない中で頑張って描いてきたわけですが、
それも違うのではないか、
余裕のある暮らしをしてみたらどうだろう、と。

──

連載をお持ちの場合、
１週間はどのようなスケジュールになるんですか。

真造

ビッグコミックスピリッツは
週刊の雑誌なんですけれど、
ぼくは隔週の連載です。
でも２週間で１本描くには、
もう本当に毎日、休みがありません。

──

土日もなく？

真造

土日もないです。
連載をしていると、
365日の中で、丸１日休んだ日を足しても、
１週間くらいだと思います。

──

ええーっ。

真造

思い切って旅行に行くときくらいですね。
いつも、どこかで思っているんですよ、
「ずっと描いてないと、終わらない」って。

──

それは、アイデアを出すところから、
ネームを描いて、ペン入れをして、仕上げて‥‥。

真造

そうですね、作画は全部自分でやっているので、
ネームを３日で描いたら、
他の日にちはずっと絵を描いています。
それでも徹夜はしたくないので、
生活リズムを保ちながらやるには、
２週間で１本描くのがせいいっぱいなんです。

──

生活のリズムっていうのは、
１日、どんな感じなんですか。

真造

そうですね、８時頃起きて、
10時までにご飯を食べて家事をやって、
11時くらいから仕事をします。
お昼ご飯を挟んで、夜の８時、
‥‥９時にはもうペンを置く。

──

『ひらやすみ』に出てくるような、
阿佐ヶ谷の釣り堀で釣りをするみたいな時間は
とれないものですか。

真造

取材では、ありますけれどね。
なんとか時間を割いて。

──

そういう生活をなさっていながら、
『ひらやすみ』には、登場人物たちの、
いろいろなのんびりした日常と、
リアリティが入っています。
すごいことだと思いました。

真造

ちょっとした休みのときに
いろいろ見えるものがあるんでしょうね。
４巻に、主人公のヒロトくんが
ダッシュするシーンがあるんですが、
それは原稿ができて、さあ飲もう！　となったとき、
ちょっと先の居酒屋まで、
ダッシュしたくなっちゃったのがきっかけなんです。

©︎真造圭伍／小学館

真造

６巻にはカルガモの親子のシーンがありますが、
そのときちょうどテレビのニュースで
カルガモ一家の引っ越しをやっていて、
すごくいいなあと思って、
描きたくなった、みたいな。

©︎真造圭伍／小学館

──

あのシーン、すばらしかったです。

真造

そんなふうに運よくネタが見つかるのって、
集中して原稿に向かっている時じゃなく、
「これって無駄かな」みたいな時なんですよ。
運よく、なんとかここまで描けたんです。

──

登場人物の描写には、
ヒリヒリするところもあるし、
すごくいい子だねっていうところと、
裏の、ちょっと情けないなみたいなところの
両面を全員が持っていて、
すごく等身大の私たちの話として読めるなって、
いつも思っていました。

真造

ありがとうございます。
この９月半ばまでそういう日々だったんですけど、
ちょっと休もうとなって、
いざ１、２週間経ってみると、
「ああ、辛い」はなくなったけれど、
逆に「何をしたらいいんだろう」みたいな
気持ちになりました。
「じゃあ、旅行に」ともならず、
「いつか、いまのこの心境を漫画にできたらいいな」
と考えたりします。
「忙しかった人がいきなり暇になるとどうなるのかな」
みたいなことを、いま、体験しているのかも、
みたいな気持ちで過ごしています。

──

自炊はされるんですか、ご飯。

真造

自炊は、パートナーで漫画家の
谷口さん（谷口菜津子さん）が
とても料理が上手なので、
ぼくはあんまりしなくなったけれど、
たまに自分の料理を作りたくなると、
台所に立ちます。

──

出てくるお料理もおいしそうで。
ヒロトくんも料理が上手ですし。

©︎真造圭伍／小学館