
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
成相肇(なりあい・はじめ)
東京国立近代美術館主任研究員。戦後日本の前衛芸術を中心に、ファインアートとその周縁に流動する視覚文化を研究。著書『芸術のわるさ』(かたばみ書房)に瞠目すべしだ。
- ──
- VOWもトマソンも、
ひとつひとつは「真剣」じゃないですか。
まじめの産物というか。 - とくにVOWに限って言えば、
あからさまにウケ狙いのヘンなモノには、
投稿人のみなさん、
あんまり反応しないと思うんです。
- 成相
- その点は、トマソンも同じでしょうね。
- ──
- ウケ狙いで「四谷階段」なんか、
わざわざつくるわけないですもんね。 - 一般的な意味ではウケないとも思うし。
- 成相
- そうですね。
- ──
- 人間の「まじめ」とか「真剣」にひそむ
抜き差しならない「おかしみ」に、
最近ぼくは、ちょっと感じ入っています。
- 成相
- たぶんペットの排泄物のことでしょうけど、
「飼い主の方を始末します」
と書いた注意書きがあったじゃないですか。
- ──
- ありました(笑)。
『VOW23』より
- 成相
- あれは、ちょっとすごいなと思う。
- ふつうに「犬のおしっこは禁止」でもなく、
ダジャレでウケ狙いでもなく、
やたら怖いこと書いて脅すわけでもなく。
- ──
- 「飼い主の方を始末します」
- 成相
- 始末という言葉のチョイスもいいですね。
- 怒ってるし、やめてほしいという
真剣な気持ちも十分に伝わってくるけど、
ユーモアも混ぜておく。
相当な高等テクニックの持ち主でしょう。
- ──
- ぼく、彫刻家の冨井大裕さんのXを
フォローしてるんです。
- 成相
- あ、「今日の彫刻」。
- ──
- はい、冨井さんが街を歩いてるときに
「彫刻だ」と思ったものを撮って、
毎日、アップされているものですけど。
- 成相
- 街のさまざまな力関係によって
支えられあった結果、彫刻的に見える。 - そういう立体物を拾っていますよね。
- ──
- トマソンもそうなんですが、
職業柄、冨井さんの投稿を見ていると
「VOWでもアリだな、コメント次第で」
とか思うこともあるんです。
- 成相
- VOWの投稿人ならVOWの眼鏡を、
路上観察学会の人なら
路上観察学会の眼鏡をかけてるんでしょうね。 - その眼鏡でフィルターして、
世の中の風景を見ているんだと思います。
- ──
- かけてる眼鏡のちがいで
「あ、トマソンだ」と思う人もいれば
「お、VOWだ」と思う人もいる。
まったく同じ物体が「超芸術」にもなれば、
「街のヘンなモノ」にもなりうる、と。 - その意味で、成相さんは、
その両方の眼鏡を持っていそうですね。
- 成相
- ああ、そうかもしれません(笑)。
- ついでに言うと
「都築響一さんの眼鏡」もあると思う。
- ──
- ある! ありますね。確実に。
秘宝館的な存在の魅力を見出す眼鏡が。
- 成相
- あるひとつの目的のためにつくられた、
たとえばラブホテルとか、
一般的には必要ない進化をしますよね。
ベッドが大回転したりとか。 - あるいは、特定のブランドが
異常なまでに好きな人の部屋に入ると、
そのブランドの服がビッシリ。
そういう光景ってやっぱり「異様」で、
やっぱり興味を引く。
そういう現象に目をつける眼鏡ですね。
- ──
- いろんな眼鏡を、かけ替えながら歩く。
おもしろそうな遊びですね。
- 成相
- そういえば‥‥おととしだったかなあ、
北欧の方から
トマソンに興味のある人がやって来て。
- ──
- おおお、なんと。
- トマソンに興味のある人が北欧から来た。
その文面からして、すでにおかしい。
- 成相
- そのとき、ぼくが対応したんですね。
あいつならいろいろ知ってそうだってことで。 - 北欧にだって
トマソン的なものはあるでしょうけど、
その人は
赤瀬川さんの提唱したトマソンという概念が
おもしろいんです‥‥と言って。
ただ、赤瀬川さんたちが発見したトマソンを
見に行くだけで何か違う気がしたので、
現代日本でトマソンがありそうなところ‥‥
昔は賑わっていたけど
いまはそれほどでもない街とか、
下町とか郊外とか‥‥。
- ──
- つまり、そういうところに発生しやすい。
- 成相
- まず、トマソンもVOWも、
そこに「人間の生活の営み」がなかったら、
うまれないものですよね。 - 誰かが何かをなした、
その結果、偶然のようにしてうまれるのが、
トマソンでありVOWですから。
- ──
- 手つかずの大自然のただ中には‥‥
たしかになさそう。VOWも、トマソンも。
- 成相
- さらに時の流れが醸成するものでもある。
つまり「最新の街」にはまずないでしょ。
- ──
- 渋谷駅の南口にできたサクラステージには、
たしかになさそう。VOWも、トマソンも。 - ただ、100年後の
味の出たサクラステージにはありそうです。
そういう意味では、
エントロピーの増大とも関係してるのかな。
VOWも、トマソンも。
- 成相
- その北欧の人とは、江東区などの下町とか
門前仲町を歩いたんです。 - そしたら案の定、いろいろあったんですよ。
いかにもトマソン的なものが。
ドアだったはずの場所が埋められていたり、
建物の上につくられた、
法律的に大丈夫なのみたいな建築だったり。
- ──
- 名ガイドじゃないですか。
- 成相
- 楽しかったです。その人も、愉快な人で。
- トマソン的なものを見つけるたびに
「One Thomasson Get!」とか言って。
- ──
- そうか、赤瀬川さんたちも、
トマソンのツアーをやっていましたけど、
VOWのツアーもアリなのかなあ。
- 成相
- アリでしょう。いいじゃないですか。
「みんなで街のヘンなモノを探そう!」
みたいなノリで。
- ──
- 実現の折には、ぜひ参加してください。
今日は、本当におもしろかったです。 - VOWが、成相さんの青春にも
ちょっとだけ関わっていたことを知って、
何だか、うれしかったですし。
- 成相
- 関わってます。
立ち読みばっかりですみませんでした。
- ──
- 気にしないでください(笑)。
◎マーラー選手の反則 👉️これが「シンボルロック」でしょうか?(茨城県/チャーシュー) ♨️こんな人につかまれて‥‥再起は可能か。処分も全治も10週間か。負けるんじゃねえぜ、シンボルちゃん。と、梅宮さんも言っている。
(終わります)
2025-04-16-WED
