愛らしいハンドメイドアイテムの数々を販売する、
スコットランドのお店『トレジャートローブ』。
その名前のとおり、
宝物がぎっしりつまった秘密の洞窟のようなお店です。
そこにあるのは、すべて血のかよった生身のひとの手が
つくりだしたものだけ。
なので、棚にならんだあみぐるみのひとつひとつも、
いまにも動き出しそうな、いきいきとした顔つきです。
おうち時間を一緒に楽しめる、そんなあみぐるみたちを、
スコットランドから直輸入し、販売することにしました。

せっかくならば、素敵なお店のことをたっぷり紹介したい!
三國さんの英国取材と買いつけ旅行の
コーディネートを担当してくださった
ライター・編集者の安田和代さんにお願いし、
日々、このお店を支えるひとびとと
つくり手さんにお話を聞いてもらいました。

文・写真/安田和代

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第5回 走り出したら、止まらない。 つくり手、ノーマさんのお話(後編)

トレジャートローブの店頭に
個性豊かなあみぐるみや、
ティーコージーなどのニット作品を出している、
ノーマ・カリーさんのインタビュー後編。
表情豊かなあみぐるみを日本のお客さんに届けるため、
時間をかけて、ていねいに一つひとつ編んでくれた
ノーマさんのお話の後編です。


三國さんとハリネズミ夫人との出合いは、
2014年に『編みもの修学旅行』取材で
トレジャートローブを訪れたときのことでした。
ノーマさんがハリネズミのあみぐるみを
初めてつくったのはいつ頃のことですか?

▲三國さんがはじめてトレジャートローブに訪れたときの写真 ▲三國さんがはじめてトレジャートローブに訪れたときの写真

ノーマ
もう何十年も前なのですが、
ニッティングクラブに参加していたことがあって、
そのとき、手持ちのパターンを
クラブのみんなで共有していたんです。
そのなかにあったパターンをもとにしています。
2012年にトレジャートローブの
メンバーになってすぐに、いくつか出品したところ、
反応がとてもよかったので、
それ以来、定期的につくっています。
ハリネズミの「ハリ」の部分、
これはレースでしょうか。
ノーマ
はい。レースを一目一目に編み込んでいくんです。
とてもクレバーなパターンですよね。
このレース、この作品にぴったりでしょう?
ほかにもたくさんの色があって、
クリスマス時期にワインレッドのレースで、
ハリネズミをつくったこともあります。
ノーマさんは、機械編みと手編み、
棒針編みとかぎ針編みなど、さまざまな手法を
組み合わせて作品をつくることが多いですよね。
このハリネズミの場合はどうですか?

ノーマ
この作品に関しては、完全に手編みです。
一度、機械編みでもできるかなぁと思って、
試したことはあるのですが、うまくいきませんでしたね。
すべて手編みなんですね。
今回、ほぼ日から「ノーマさんの素敵なあみぐるみを
日本のお客さんにたくさんお届けしたい」とご相談し、
長い時間をかけてつくっていただきました。
リクエストを聞いたときは、どう思いましたか?
ノーマ
ビックリしました(笑)。
ルイーズさんから電話があって、
最初のとき(2014年)は「数十個つくれますか?」
ということでしたが、その何年か後に
注文をいただいたときは、なんとその5倍で。
週に10個ずつつくったら、締め切りに間に合うなぁと
ぼんやり考えたのを覚えています。

その節は、リクエストにおこたえいただき、
本当にありがとうございました。
この作品をつくるにあたって、
いちばん難しいところというと、どのあたりですか?
ノーマ
そうですね……顔の表情づくりでしょうか。
目がちょっと四角くなってしまったりして、
「こんな顔いやだー」と、ほどいてやり直し、
なんていうことはしょっちゅうです。
いままで何百とつくってきましたが、
ふたつと同じ顔にならないのが不思議で、
いまだに飽きることはないです。
顔の表情づくりのほかには、
綿を詰めるところも、思い通りのかたちにするのが、
難しいときもありますね。

ノーマさんは、ひとつ完成させては次へ、
という、つくり方をされるのでしょうか?
いくつも同時進行していくのではなく?
ノーマ
そうですね。なにをつくっていても、
ひとつ完成させては次へ、というつくり方を
するほうです。
そして、一度なにかをつくり始めたら、
時を忘れて没頭してしまうという
悪い癖があります。
集中しすぎてしまうということですか?
ノーマ
午後の時間、休憩もとらずにやり続けてしまって、
気づいたら外は暗くて、頭はぼーっとして
足下はフラフラ……なんてこともありました。
それで、これはやり過ぎてはダメだ、と思って、
あえて犬の散歩をはさんだり、お茶を飲んだり、
意識的に、休み休みするようにしています。
夜布団に入ってからも、あそこはああして、
ここはこうして、と作品のアイデアを考え出したら
眠れなくなることもあるくらいです。
走りだしたら止まらなくなってしまうのですね。
ノーマ
そうなんです。そしてこの性癖は、
ケーキ職人をしている娘も同じのようです。
彼女も完璧主義者で、
ああでもない、こうでもないと、悪戦苦闘して
「ああ、もう二度とつくらない」なんて悪態をつきながら、
それでも、ひとつのものをつくりあげたら、
すぐにまた、次のケーキに取りかかりたくなるらしいです。
まったく一緒ですよね(笑)。
クリエイティブなDNAが引き継がれているようですね。
ノーマ
そうかもしれません。
息子のひとりはアーティストで、
夏の間は、大通りで似顔絵描きをしていますしね。
孫娘も、すでに棒針編みの表編みと裏編みは
修得しているんですよ。
最近「おばあちゃん、かぎ針編みを教えて」と
言ってきたので、教えたのですが、
かぎ針のほうが難しいのか、
細編みや長編みなどのテクニックに進めず
ひたすら鎖編みを編んでいます(笑)。
たしか、ノーマさんのお母さまも
クラフトがお得意な方だったんですよね?
ノーマ
はい。私も、かぎ針編みも棒針編みも、
母が編んでいるのを見て学びました。
母は、お裁縫も得意で、
私たちの学校用のブレザーやスカートまで、
ほんとうになんでもつくってくれましたね。
時間さえあればなにか編んでいて、
孫娘のためのドレスなんかは、
パターンなしでも、なぜかぴったりのサイズに
つくりあげることができる人でした。
そうですか。
ご家族に脈々と流れる、なにかを感じてしまいます。
これから、こんなものをつくってみたい、と
心のなかに描いているものはありますか?
ノーマ
すてきな毛糸を見つけるとついつい買ってしまうので、
戸棚にいっぱいの材料がたまっていて、
それでなにかをつくりたいとは、思っていますが、
まずは、友人に頼まれているイヌのあみぐるみ、
そしてその次は、クリスマスに向けて、
サンタやトナカイのついたキーホルダーをつくる予定です。
戸棚には微妙に色合いの違う青の糸がたくさんあるので、
それで自分用のカーディガンを編みたいと
ずっと考えているのですが、
こちらはまだ後回しで、構想段階ですね。
クリスマスに向けて、ますますお忙しくなりそうですね。
編みものの話は尽きませんが、
楽しいお話をどうもありがとうございました。
ノーマ
こちらこそ。とても楽しかったです。

(おわります。)

2021-12-01-WED

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  • 12月2日(木)午前11:00 販売スタート!

    「トレジャートローブ」から、
    4種類のあみぐるみが“来日”します。
    表情がひとつひとつ異なる、
    愛嬌たっぷりのあみぐるみたちです。