愛らしいハンドメイドアイテムの数々を販売する、
スコットランドのお店『トレジャートローブ』。
その名前のとおり、
宝物がぎっしりつまった秘密の洞窟のようなお店です。
そこにあるのは、すべて血のかよった生身のひとの手が
つくりだしたものだけ。
なので、棚にならんだあみぐるみのひとつひとつも、
いまにも動き出しそうな、いきいきとした顔つきです。
おうち時間を一緒に楽しめる、そんなあみぐるみたちを、
スコットランドから直輸入し、販売することにしました。
せっかくならば、素敵なお店のことをたっぷり紹介したい!
三國さんの英国取材と買いつけ旅行の
コーディネートを担当してくださった
ライター・編集者の安田和代さんにお願いし、
日々、このお店を支えるひとびとと
つくり手さんにお話を聞いてもらいました。
文・写真/安田和代
トレジャートローブの店頭に
個性豊かなあみぐるみや、
ティーコージーなどのニット作品を出している、
ノーマ・カリーさんのインタビュー後編。
表情豊かなあみぐるみを日本のお客さんに届けるため、
時間をかけて、ていねいに一つひとつ編んでくれた
ノーマさんのお話の後編です。
- ─
- 三國さんとハリネズミ夫人との出合いは、
2014年に『編みもの修学旅行』取材で
トレジャートローブを訪れたときのことでした。
ノーマさんがハリネズミのあみぐるみを
初めてつくったのはいつ頃のことですか?
- ノーマ
- もう何十年も前なのですが、
ニッティングクラブに参加していたことがあって、
そのとき、手持ちのパターンを
クラブのみんなで共有していたんです。
そのなかにあったパターンをもとにしています。
2012年にトレジャートローブの
メンバーになってすぐに、いくつか出品したところ、
反応がとてもよかったので、
それ以来、定期的につくっています。
- ─
- ハリネズミの「ハリ」の部分、
これはレースでしょうか。
- ノーマ
- はい。レースを一目一目に編み込んでいくんです。
とてもクレバーなパターンですよね。
このレース、この作品にぴったりでしょう?
ほかにもたくさんの色があって、
クリスマス時期にワインレッドのレースで、
ハリネズミをつくったこともあります。
- ─
- ノーマさんは、機械編みと手編み、
棒針編みとかぎ針編みなど、さまざまな手法を
組み合わせて作品をつくることが多いですよね。
このハリネズミの場合はどうですか?
- ノーマ
- この作品に関しては、完全に手編みです。
一度、機械編みでもできるかなぁと思って、
試したことはあるのですが、うまくいきませんでしたね。
- ─
- すべて手編みなんですね。
今回、ほぼ日から「ノーマさんの素敵なあみぐるみを
日本のお客さんにたくさんお届けしたい」とご相談し、
長い時間をかけてつくっていただきました。
リクエストを聞いたときは、どう思いましたか?
- ノーマ
- ビックリしました(笑)。
ルイーズさんから電話があって、
最初のとき(2014年)は「数十個つくれますか?」
ということでしたが、その何年か後に
注文をいただいたときは、なんとその5倍で。
週に10個ずつつくったら、締め切りに間に合うなぁと
ぼんやり考えたのを覚えています。
- ─
- その節は、リクエストにおこたえいただき、
本当にありがとうございました。
この作品をつくるにあたって、
いちばん難しいところというと、どのあたりですか?
- ノーマ
- そうですね……顔の表情づくりでしょうか。
目がちょっと四角くなってしまったりして、
「こんな顔いやだー」と、ほどいてやり直し、
なんていうことはしょっちゅうです。
いままで何百とつくってきましたが、
ふたつと同じ顔にならないのが不思議で、
いまだに飽きることはないです。
顔の表情づくりのほかには、
綿を詰めるところも、思い通りのかたちにするのが、
難しいときもありますね。
- ─
- ノーマさんは、ひとつ完成させては次へ、
という、つくり方をされるのでしょうか?
いくつも同時進行していくのではなく?
- ノーマ
- そうですね。なにをつくっていても、
ひとつ完成させては次へ、というつくり方を
するほうです。
そして、一度なにかをつくり始めたら、
時を忘れて没頭してしまうという
悪い癖があります。
- ─
- 集中しすぎてしまうということですか?
- ノーマ
- 午後の時間、休憩もとらずにやり続けてしまって、
気づいたら外は暗くて、頭はぼーっとして
足下はフラフラ……なんてこともありました。
それで、これはやり過ぎてはダメだ、と思って、
あえて犬の散歩をはさんだり、お茶を飲んだり、
意識的に、休み休みするようにしています。
夜布団に入ってからも、あそこはああして、
ここはこうして、と作品のアイデアを考え出したら
眠れなくなることもあるくらいです。
- ─
- 走りだしたら止まらなくなってしまうのですね。
- ノーマ
- そうなんです。そしてこの性癖は、
ケーキ職人をしている娘も同じのようです。
彼女も完璧主義者で、
ああでもない、こうでもないと、悪戦苦闘して
「ああ、もう二度とつくらない」なんて悪態をつきながら、
それでも、ひとつのものをつくりあげたら、
すぐにまた、次のケーキに取りかかりたくなるらしいです。
まったく一緒ですよね(笑)。
- ─
- クリエイティブなDNAが引き継がれているようですね。
- ノーマ
- そうかもしれません。
息子のひとりはアーティストで、
夏の間は、大通りで似顔絵描きをしていますしね。
孫娘も、すでに棒針編みの表編みと裏編みは
修得しているんですよ。
最近「おばあちゃん、かぎ針編みを教えて」と
言ってきたので、教えたのですが、
かぎ針のほうが難しいのか、
細編みや長編みなどのテクニックに進めず
ひたすら鎖編みを編んでいます(笑)。
- ─
- たしか、ノーマさんのお母さまも
クラフトがお得意な方だったんですよね?
- ノーマ
- はい。私も、かぎ針編みも棒針編みも、
母が編んでいるのを見て学びました。
母は、お裁縫も得意で、
私たちの学校用のブレザーやスカートまで、
ほんとうになんでもつくってくれましたね。
時間さえあればなにか編んでいて、
孫娘のためのドレスなんかは、
パターンなしでも、なぜかぴったりのサイズに
つくりあげることができる人でした。
- ─
- そうですか。
ご家族に脈々と流れる、なにかを感じてしまいます。
これから、こんなものをつくってみたい、と
心のなかに描いているものはありますか?
- ノーマ
- すてきな毛糸を見つけるとついつい買ってしまうので、
戸棚にいっぱいの材料がたまっていて、
それでなにかをつくりたいとは、思っていますが、
まずは、友人に頼まれているイヌのあみぐるみ、
そしてその次は、クリスマスに向けて、
サンタやトナカイのついたキーホルダーをつくる予定です。
戸棚には微妙に色合いの違う青の糸がたくさんあるので、
それで自分用のカーディガンを編みたいと
ずっと考えているのですが、
こちらはまだ後回しで、構想段階ですね。
- ─
- クリスマスに向けて、ますますお忙しくなりそうですね。
編みものの話は尽きませんが、
楽しいお話をどうもありがとうございました。
- ノーマ
- こちらこそ。とても楽しかったです。
(おわります。)
2021-12-01-WED
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12月2日(木)午前11:00 販売スタート!
「トレジャートローブ」から、
4種類のあみぐるみが“来日”します。
表情がひとつひとつ異なる、
愛嬌たっぷりのあみぐるみたちです。