日々のできごとを記してみたり、
これからのことに思いをめぐらせてみたり。
手帳をひらくだけで、
じぶんとじっくり向き合う時間がうまれます。
そこに、おいしいお菓子と心地いい空間があれば、
さらに「いうことなし」だと思いませんか?
気まぐれに更新する「東京甘味手帳」は、
手帳タイムを過ごすのにぴったりな
東京のおいしいもの&お店案内です。

写真:川原崎 宣喜

前へ目次ページへ次へ

page_24 日常をうれしくするプリンアラモード

 
バタバタがちょっとだけ落ち着いた
12月のある日、
ふいに、ちょっととくべつな、
甘いものを食べようと思った。
ひんやりとした空気の中、
大通りを外れて、坂をのぼる。
道を一本曲がっただけなのに、
急に雰囲気が静かになって、
きりっと空気も澄んだように感じられる。
坂をのぼりきったところに見える、
山の上ホテル。

 
決して大きくはないけれど
風格のあるこのホテル。
館内のどこに目をやっても、
魅力的な装飾がほどこされている。
エレベーターもあるけれど、
あえてこのクラシカルな階段を使おう。

 
陽射しをやわらかくする
レースのカーテンに、
陶器のシャンデリア
(スペイン製だそう)。
磨き上げられた調度品。
豪華だけれど、
あたたかみのある空間が
そこに広がっている。
ホテルの中にある、
コーヒーパーラー。

 
メニュー表をひらく。
「コーヒーパーラー ヒルトップ」の
この文字、かわいいな。
‥‥さて、どうしようかな。
魅力的なメニューがたくさんありすぎて
迷ってしまうけれど、
やっぱりこれかな。
うん、決めた。

 
クラシカルなたたずまいの
ウェイトレスさんが運んできてくれたのは‥‥。

 
プリンアラモード!
まんなかにプリン。
それを囲むように、
バニラアイスクリーム、
いろとりどりのフルーツ、
そしてスワンシュー!

 
どうしよう。
ひと皿の中で、
こんなにも目移りしてしまうなんて!
どれから食べようかな。

 
覚悟を決めて手をのばす。
最初はアイスクリーム。
軽やかな口あたりで
ミルクの味わいとバニラの香りがふわっとして、
口の中で溶けていく。

 
お次はメインの、プリン。

 
かためで濃厚なプリン。
たまごの味がしっかりして、
カラメルはほろ苦くて、
ああ、おいしい。

 
12月って、
なんとなくずっと慌ただしい気持ちになるけど、
このプリンアラモードに対峙しているいまは、
すごくゆったりとした気分だ。
あ、このおいしいアイスが
とけてしまうのだけは気になるけれど!

 
さあ、次はこれも食べてみようかな。
目も舌もよろこぶ、スワンシュー。
香ばしいシュー生地に
なめらかなクリームがはさまれている。
見るだけでうっとりしちゃう上に
食べたらおいしいんだから
なんてすばらしいんだ、君は!

 
12月のある1日。
なんでもない日にやってきたこの場所で、
食べたプリンアラモード。
あっという間に今日が
とってもうれしい、特別な日になった。

 
数時間前まで真っ白だった手帳も、
いまはもう、書きたいことだらけだ。
なんでもない日にこそ、
また来よう。

 

コーヒーパーラーヒルトップ

御茶ノ水の街なかにたたずむ
1954年創業の山の上ホテル。
その地下1階にあるのが、
コーヒーパーラーヒルトップです。
地下といっても、坂にあるホテルなので、
通りに面した大きな窓から陽射しが降り注ぐ、
明るい空間が広がっています。

2019年に大規模改装を終えて
リニューアルオープンした山の上ホテル。
それを機にヒルトップのメニューも
見直しがはかられました。

その結果、長く愛されたメニューを
見た目はクラシカルに、
味も守りながらブラッシュアップした
“ネオ・クラシカル”な復刻デザートが誕生しました。
プリンアラモードやババロアは
そうやって生まれ変わったもの。

シェフパティシエの安﨑さんが材料から厳選し、
腕によりをかけてつくったスイーツは
復刻メニュー以外にも、
季節ごとに変わるパフェ、
ケーキは常時10種類以上。
さらに、
12時間かけて抽出される水出しコーヒーに、
それを使ったコーヒーゼリーや、
バラエティ豊かな食事メニューも。

安﨑さんは、
「人気のアミューズメントパークのように、
一日で楽しみきれなくて
『また来たい』と思ってもらえるような
お店にできたら」と語ります。

歴史を刻んだちいさなホテルのパーラー。
だからこそ、隅々まで手をかけた味が
たっぷりと楽しめるのです。

山の上ホテルは、
作家がこよなく愛したホテルとしても有名。
このコーヒーパーラーにも、
池波正太郎が描いたモダンな絵が
飾られています。

◎プリンアラモード  1430円

数十年前から山の上ホテルを見続けてきた
総支配人の記憶を頼りに、何度も試作を重ねて
復刻されたプリンアラモード。
クラシカルなプリンならではの固さはそのままに
今の人の味覚にも合うコクのある味わいにするため、
プリンは低音の湯せんで
なんと1時間ほども火入れをして
つくられているのだとか。
さらに添えられたバニラアイスは
バニラビーンズのさやをペースト状にしたものが
そのまま入っていて、
本物のバニラを感じられます。
主役のプリンを引き立たせるため、
あえて卵黄は少なめに、軽やかに仕上げてある、
プリンアラモードのためのアイスクリームです。
季節によって変わるフルーツ類も、
一つひとつ厳選されたもの。
ちなみに、食べ方に迷ってしまうスワンシュー、
シェフパティシエの安﨑さんは
「S字の首の部分を手で持って、
それでクリームをすくうようにして食べる」そう。

◎伝統のババロア  1210円

長く愛されながらも、
一度はメニューから消えていたババロア。
こちらもプリンアラモード同様、
過去の記録と記憶をひもといて
復刻されました。
ゼラチンを極力少なくして、
ホイップクリーム自体の力で固めているため、
口に運ぶとしゅわっと溶ける
軽やかな舌ざわり。
周りを美しく彩る
ベリーのソースと絡めて食べると
甘酸っぱさが口いっぱいに広がります。
お腹も心も満たされるひと皿です。

コーヒーパーラーヒルトップ

東京都千代田区神田駿河台1-1
山の上ホテル

営業11:00~21:00
休み:なし
電話:03-3292-2834

https://www.yamanoue-hotel.co.jp/restaurant/hilltop/

坂道を登ると、陽の光できらきら光る銀杏の葉の向こうに「山の上ホテル」の文字が見えました。中に入って、階段を降りて、「コーヒーパーラーヒルトップ」にたどり着くまで、内装の素敵さに何度きょろきょろしたことか。手帳に書き留めておきたいことだらけの、とくべつな時間になりました。

(2021年の甘味手帳はこれでおしまい。今年もありがとうございました。)

2021-12-25-SAT

前へ目次ページへ次へ