日々のできごとを記してみたり、
これからのことに思いをめぐらせてみたり。
手帳をひらくだけで、
じぶんとじっくり向き合う時間がうまれます。
そこに、おいしいお菓子と心地いい空間があれば、
さらに「いうことなし」だと思いませんか?
気まぐれに更新する「東京甘味手帳」は、
手帳タイムを過ごすのにぴったりな
東京のおいしいもの&お店案内です。

写真:川原崎 宣喜

前へ目次ページへ次へ

page_15 花が散る頃までの桜餅

 
すぐ、そこまで来てる。

 
一日、一日と、近づいている。

 
もうすぐ、
桜の季節がやってくる。

 
今日は朝から雨で、空気はなまぬるい。
でも、天気予報によると
夜から急激に寒くなるんだとか。
まさにいま、
冬から春へのグラデーションの
真っ只中にいるんじゃないかなあ。

 
「立春から桜の花が散る頃まで」。
毎年、その間でしか食べられない桜餅が、
今日のお目当てだ。

 
ピンクではない、白でもない。
淡い淡い、桜色。
ころんと丸く整えられた餅米の生地に
きりりと桜の葉が巻かれて。

 
かわいらしいのに、
どこか、どしんとした存在感もあって。
凛とした顔つきだ。

 
甘く品のある桜の香り。
かすかに感じる葉の塩気。
餅米ひと粒ひと粒の舌触り。
繊細ですっきりとしたこし餡のあと味。

 
一年に一度、この季節だけ。
今年も、口の中にうれしい春が来た。

 
さて、ここからは第2章。
お店の名物、八雲もちをいただかなくては。

 
手で触ると、
見かけから想像する以上に
ふわふわのもっちもち。

 
口に含んでもっとびっくり。
こんなにやわらかいなんて。
黒糖のやさしい甘さが
ふわーっと、広がっていく。
ところどころに
カシューナッツのかけらが
入っているからなのか、
和菓子なのだけど、
異国情緒も感じたりして。

 
竹の紙に包まれて、
こよりにした紙で口を閉じた
パッケージも、いいんだなあ。
こよりは手帳に貼っちゃおう。

 
さて、お土産を買って、
寒くならないうちに
そろそろ帰ろう。

 
桜の満開まで、あとすこし。

 

御菓子所 ちもと

都立大学駅から徒歩3分ほどの場所にある和菓子店。
戦前から東京・荒川区の道灌山にあった「ちもと」に、
菓子屋を目指して新潟から上京した初代が弟子入り。
12年間の修行を経て暖簾分けを許され、
ここ八雲で開業したのが昭和40年(1965年)でした。
現在お店を守っている2代目の石原謙さんに
お話を聞きました。

「ちもとは軽井沢にも店がありまして、
修行時代の父は夏になると軽井沢に行っていました。
別荘を持つ政界人、財界人、芸能人、作家の先生方や
その奥さまたちの御用聞きに回って、
いろいろな方々にかわいがっていただいたようです。
そんなお客さまたちの本宅がこの辺りに多かったから、
独立のときに、八雲で店を出したんでしょうね。

当初のちもとにあった『ちもともち』は、
白砂糖とさいの目に切った柚子羊羹を入れたお菓子でした。
数年して菓子職人が黒糖を加えたり、
軽井沢土産ということでクルミを入れたようです。
父は独立するときに、クルミだとどうもあぶらが強くて
若干クセがあるなと考えていたんですね。
あるとき中華料理に入っていたカシューナッツを見て、
『これを入れよう!』と。
ゆくゆくこの辺りの名物になってくれたらいいな、
という願いも込めて『八雲もち』と名づけました。
こうしてみなさんに少しでも知ってもらえるまでに
55年かかりましたから、
何事もかんたんではないですね(笑)」

八雲もちのほか、常時並ぶのは
草だんご、饅頭、もなか、羊羹など。
そこに桜餅、柏餅、水羊羹、かき氷といった
期間限定のお菓子が加わります。
店頭に飾られる生花も美しく、
季節が変わるたびに訪れたくなるお店です。

◎桜餅  170円

立春から桜の散る頃まで店頭に並ぶ
こしあん入りの道明寺桜餅。
創業当初から55年、
今も変わらない製法で作られているそうです。

昔は、東京では平たい生地であんを巻く
長命寺桜餅が主流だったため、
関西風のこのかたちはめずらしく、
お客さんから「これが桜餅なの?」と
言われたこともあったのだとか。
「2種類作っているお店もあったけど、
うちはそんなに手間をかけられなかったから。
こればっかりは父に聞かないとわからないけど、
たぶん道明寺のほうが好みだったんでしょう。
おいしいのはこっちだから、これしかやらないって(笑)」

お茶とあわせていただけるイートインの
和菓子セットは700円で、
煎茶か抹茶を選ぶことができます。

◎八雲もち  180円

竹皮に包まれたやわらかなもち菓子。
羽二重粉、白砂糖、黒砂糖、
卵白を固めた淡雪(あわゆき)、
カシューナッツなどを釜で練り、
番重(ばんじゅう)という木型に流し込み、
冷めて固まったら包丁で四角く切って
ひとつひとつ手で包んでいるそう。

ひとつの番重からできるおもちの数は120個。
最後にまぶす粉は米粉です。
当初は片栗粉だったそうですが、
米粉に変えたことで食べたときの口当たりが
さらさらと軽やかになったのだとか。
また、マシュマロのようなふわっとした
やわらかさの秘密は、卵白からつくった淡雪。
老若男女問わず愛される味で、
手土産としても人気です。

御菓子所 ちもと

東京都目黒区八雲1-4-6
営業:10:00~16:00(※2021年3月現在。変更あり)
休み:木曜、月2回水曜(ほか不定休あり)
電話:03-3718-4643
https://chimoto-yagumomochi.com/
※2021年3月現在、喫茶スペースの営業は休み。持ち帰りのみ

 

昨年から喫茶スペースの営業はお休み中なのですが、今回は特別に取材・撮影をさせていただけることになりました(ちもとさん、ありがとうございました!)。はやく店内での手帳タイムを楽しめる日が来ますように‥‥。
それにしても、八雲もちを切って包むスピードとみなさんのチームワークはすごかったなあ。

(次回はきらきら光る宝石箱みたいな、あの甘味。どうぞお楽しみに。)

2021-03-20-SAT

前へ目次ページへ次へ