たくさんの出会いを大切にし、
能登とのつながりから防災士となり、
自分にもできることを日々、
ひとつずつ積み重ねている常盤貴子さん。
その飾らないうつくしさに心が惹かれます。
日常のおもしろいと思うことから、
未来に向けて今どう動くかまで、
とても気さくに、お話いただきました。
担当は「ほぼ日」下尾(しもー)です。

>常盤貴子さんプロフィール

常盤貴子(ときわ・たかこ)

1991年に女優デビュー。『愛していると言ってくれ』『Beautiful Life』(ともにTBS系)など数々のヒットドラマのヒロインを演じる。2004年に映画『赤い月』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、2015年に『野のなななのか』で高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。現在、KBS京都・BS11・TOKYOMX『京都画報』にナビゲーター、NHK Eテレ『おとな時間研究所』に司会として出演中。フォトエッセイ『小さな幸せで満たす日々』が主婦と生活社より発売。

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ヘアメイク|ナライユミ スタイリスト|梅山弘子 衣装協力|Le pivot

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第5回:ふわっと、おもしろいほうへ

──
『ななおの海』という、
お子さんたちの心のケアのための映画にも、
ご参加されていますね。
常盤
はい。能登半島地震で被災した
女の子「七緒」が友達と探検する中で、
地震でさまざまなものを失った悲しみと
向き合っていく物語です。
──
仕事とプライベートの境目が、
曖昧になってきているというお話を、
本の中でもされていましたけれども。
常盤
最近、その境目を
意識しなくてもいいのかも
と思うようになりました。
線は、自分が勝手に引いてるだけで、
本当はなくてもいいんじゃないかなと、
よく思っています。
だから『ななおの海』に関しても
子どもたちが初めてお芝居をするから、
ちょっとアドバイスありますかと言われて。
今までだったら、
「いやそんなおこがましい、もう演技なんて、
 みなさん自由にやっていただければ」
と言っていたと思いますが、
「初めてお芝居に触れる人たちが、
 なんでもいいからアドバイスがあると、
 ちょっと道が開けることも、あるのかもしれない」
と思えたんですね。
もう本当に単純なことで、
セリフを言う時に、
お友達に話しているセリフだから、
お友達の顔を見て言いましょう
ということだけだったんです。

──
カメラがいっぱいあると、
どこを見たらいいか、わからないですもんね。
常盤
そうそう。
だから、みんなだいたい下を向いて
セリフをしゃべっていたから、
「お友達の顔を見て言おう」と伝えたら、
もうそれだけで、すごく生き生きとして。
私にとっても勉強になりました。
すごくいいクリエーションでした。
──
子どもたちも、
きっと心が動かされたと思います。
常盤
地球のステージさんの取り組みで、
その先生は、
ガザなどの戦地の子どもたちの心のケアのために、
そこでも映画の撮影をしています。
最初は絵を描いたり、
みんなで話し合ったりする
ワークショップから始めて、
段階を追って、
最終段階として映画があるそうです。
自分の体験を話をして、
それが台本になって、その台本を読んで、
それを自分の言葉として、セリフとして発して、
それを多くの人が映画として見る。
その全部がトラウマ克服につながる
という考え方みたいです。
だから、その映画をつくられた先生は、
ラッシュという仮編集をみんなで見たときに、
ものすごく泣いていらっしゃいました。
トラウマをたくさん抱えている段階から、
子どもたちをずっと見てきたから、
ようやくここまで来たんだと思われたようです。
「すごいな、映画にはそういう力があるんだ」
と、私も初めて学びました。

──
能登以外にも、戦争や原爆などについても、
SNSなどで発信されているなと感じるのですが、
さまざまな作品の中で出合った
問題提起に対して、問題解決のために、
ご自身で動こうとされているような気がします。
常盤
解決は、すぐにはできないですけれども、
問題に出合ったからには、
そこを担わされていると思っています。
次の世代にバトンを渡す準備を
しなくてはいけないと思うようになりました。
例えば仕事でも、たまたま読んだ本でも、
たまたま見に行った映画でもよくて、
そのことを知ってしまったら、
知った責任があって、
それを伝えていかなければならない。
そのことに気づいた私だからできること、
という役割もあると意識しています。
──
そういうことも含めて、
これから俳優として
こうなれたらいいなという目標はありますか。
常盤
それは今までもそうだったんですけど、
本当に、その都度「わー、おもしろい」
と思うことに、乗れる自分であれば、
たのしいかなって思っています。
こういうものがやりたいと言って、
そこに行くというよりも、
なんにも考えていないところに、
ふわっと舞い込んだことに乗れる自分でありたい。
そうしたら思わぬことにも出合えると思うんです。
タンポポのフーって綿毛があるじゃないですか。
あれにつかまるみたいなイメージ(笑)。
ふわ〜って飛んできたものに、
ワッと、つかまって飛んでいくみたいな。
──
めちゃくちゃ、すてきですね。
では、ひとりの人間としては、
どんなおばあちゃんになっていきたいですか?
常盤
うーん。たぶん、こうやって今、
いろんなことに興味を持ち出して、
吸収しようとしているので、
めんどくさいおばあちゃんになると思うんですね。
──
え!? そうなんですか?(笑)。
常盤
うん。なりたいし(笑)。
そうなって笑顔で「ねえ、こうして!」
と言ったときに、
みんなが言うことを聞いてくれるような
おばあちゃんになりたい。
でも笑顔で言ってるから、
「もうなんかさ、言うこと聞いちゃうんだよね」
と言ってもらえるところまで頑張る(笑)。
──
最高ですね。
常盤
うん。そうなれたらいいな。

(おわります)

2025-09-23-TUE

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  • 小さな幸せで満たす日々(主婦と生活社)

    この本を読んで、常盤貴子さんのことが、
    とても身近に感じられるようになりました。
    常盤さんの大切にされている、
    モノやコトが散りばめられていて、
    気がつけば、本に出てくる、
    いろんなものまで買ってしまいました。
    読み終わると、
    こちらまで満たされた気持ちになる一冊です。

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